―だって私たちは二人で一つだと思ってたんだよ。―










―第一章:8―











気が付くともう、あの例の一件から一週間も経っていた。
のイライラは日に日に悪化していくのが目に見えていたし、の決心も同じように日に日に強く堅くなっていった。
こうしているうちにも確実に京行きの日は迫ってきている。しかし依然として、二人の意見は一致していない。というよりもあれからお互い目すらも合わせていないのだけれど。

「・・・ちょいと沖田くん。いい加減この状況はまずいんでないかい?」
「そうですねぇ、でもだからと言って私にできることなんてありそうもないですし。藤堂さんこそどうなんですか?」
「俺?無理無理。」

基本的に唯我独尊のさすがの試衛館メンバーも彼女たちの様子が心配になってきていた。果たしてこのままで大丈夫なのかという不安が頭をよぎる。
特ににべったりだったため、いわゆる禁断症状に近いものが出るのではないかと少し変わった心配をされていた。

「あの二人のことは永倉さんが一番わかってると思うんですけどねぇ・・・。」
「っつってもぱっつぁんは放っておけばいいんじゃない?とかで二人のことなんて気にも止めてないみたいだし?」
「・・・でも誰かがどうにかしないと絶対このままですよ。はあの性格だから自分から譲歩とかいう考えはないでしょうし、でああ見えて頑固な所がありますから。」





「何の話してんだ?」





「わぁ!!ちょ、びっくりさせんなよ!」
「は?ただ話し掛けただけじゃんよ。」

突然が後ろから現れ、ぽん、と藤堂の肩を叩いて渋い顔をした。
いつのまにやって来たのだろうか。いくら話し込んでいたとは言え、沖田たちが気付かないとは。やはりの本業はくノ一なんだなと沖田はそんなことを思っていた。

「で?何の話してたんだ?」
のご想像の通りですよ。」
「・・・・・・・・・・・・今日の夕飯の話?」
「さんまの開きがいいですね〜って話してたんです。」
「あっはっは。ってコラ。なんでさんまの話しててあたしの名前が出てくんだよ!」
「それはこの間土方サンがもらってきたさんまの名前がだからです、今夜捌かれますよ彼女。」
「よっし藤堂、こいつ殴っていいぞ。」
「・・・なんで俺?」

ギロ、としばらく沖田と藤堂を睨んでいたはやがて目を逸らすとため息をついた。
顔を上げてもう一度だけ沖田を見てふいっと拗ねたように横を向く。
沖田と藤堂は困ったように顔を見合わせ、やがて藤堂が口を開いた。



「・・・、お前だってわかってるっしょ?このままじゃ、駄目だろ?」



視線を合わせようと藤堂はの顔を覗き込んだがもちろん反対側に逸らされた。

チャンとこのままでいいの?あの子は間違いなく新八っつぁんに着いて京都に行っちまうぞ?いいのかよ、それで。あんなに仲良いチャンと別れるの、嫌じゃないわけ?」

藤堂が造ったたくさんの言葉はの中にとどまることなく流れていく。
それでも一応彼女の中に流れては来たらしく微かに眉をつりあげた。
それでも、彼女の口から言葉は紡がれない。適わないと言わんばかりに、藤堂は肩をすくめて沖田を振り返った。
す、と沖田が前に出た。







。」







ぺち、との両頬を掴み、自分と向き合う形にする。表情は怒っているようにしか見えないのに、瞳の奥は今にも泣きだしそうだった。

とあなたは、一緒にいなければならないんでしょう?にはが必要で、にはが必要だ、って言ってたじゃないですか。あなたたちは、共にいなければならないんでしょう?いいんですかこれで。あなたが守ると誓ったものはなんですか?」

はきゅ、と口を一文字に結んだまま、必死に何かをこらえている。それでも沖田はそれ以上続けようとはしない。ここから先は、自身が言わなければならない。自身が思い出さなくてはならない。



沈黙だけがそこに生まれる。



とうとう沖田も諦めて、の両頬から手を離そうとしたその時だった。









「・・・・・・。」










の口から零れ出たのはたったこれだけの言葉。
それでも、沖田と藤堂には、十分伝わった。
理屈じゃなくて、第六感。

「じゃあ、ちゃんとと話をしなきゃだめでしょう?」

ぐずる子供を宥めるような優しい声で沖田は言う。

「・・・だけどはあたしじゃなくて永倉を選ぶかもしれないだろ。」
「だからなんです。それでもの大切な人はでしょう?違いますか?」
「・・・違わない。」
「はい、じゃあ行って来ること。」

ね?と沖田が笑うと、は首を縦に振った。わしゃわしゃと藤堂が彼女の頭を強く撫でた。
照りつける太陽が三人を白く輝かせる。
は振り返ってはにかんだように笑いながら五文字の言葉を彼らに告げた。
呆れたように笑いながら沖田と藤堂は何を今更、とため息をつく。

は長い廊下をバタバタと駈けて行った。





ごめんなさい

あたしは何度もあなたと誓い合ったのに、

あたしの大切なものは、

あなたが望んだものじゃなかったの。

ずぅーっとずぅーっと、あなたを騙していました。





この鎖、あたしにはどうしても、断ち切れない。





 
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07年06月11日

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