ーもう駄目だと認めてください。ー

認めることができるなら、どんなに楽だっただろう。










―第一章:6―











京に行くと言った土方の話を、試衛館中の人が集まって聞いていた。
皆喜び、俺たちの時代が来た!とか言いだしたのもいるくらいなのに、一人だけ気乗りのしなさそうな顔をした少女がいた。
隣の少女は困惑顔で何かを言っている。

、18歳。皆が何故嬉々としているのか理解しかねます。」
「いちいち名乗らなくても。」
「うっさい黙れ永倉。」

冷静につっ込みを入れた永倉以外のメンバーはの言った言葉に驚いて目を見開いた。
何を馬鹿なことを、とほとんど蔑みに近い目を向けてきた藤堂と原田はにものすごい勢いで睨まれ、次の瞬間にはもう小さくなっていた。
は相変わらず困った表情を浮かべうつむいている。

「嬉しくないんですか?」
「・・・別にそういうわけじゃないけど。」
「じゃぁ何故、」
「土方さん。」

言葉を続けようとした沖田を無視しては言った。
沖田は仕方なく開けた口を閉ざす。
憐れみの目が向けられた。

「・・・何だ。」


「私たちはどうすればいい?」


「・・・・・・。」

土方にはの言いたいことがわかったようで。
土方だけではないだろう。
おそらくその様子から沖田や永倉も何となくわかっているように見えた。





「行けるのか?行っていいのか?」





の目はいつになく真剣で。
土方は一度、出しかけた言葉を飲み込んだ。
けれどここで虚構の言葉を積み上げた所で一体なんの意味を成すのだろうか、
そう自分に問い掛けて、愚問だと笑った。





「女は駄目だろうな。」





「土方さん!」
「いいよ沖田、ありがとう。」

今度は誰も蔑みの目などしなかった。
けれど。
何かかける言葉があるわけでもなく。

「まぁいいか。周斎先生は行かないなら試衛館はまだあるんだろ?これからもやっかいになることになるけど。」
「だけど・・・!」
「何で沖田がそんなに気にしてんだよ。女は無理なんだからしょうがないだろ。」

本人がそう言うのだから沖田はそれ以上何か言うことはできなかった。
たとえ自分がどんなに力強く言葉を紡いだ所でそれはただの戯言にすぎない。





はどうしたいの。」





黙って聞いていた永倉が突然口を開きそう言った。
はまさかそこで自分にそう振られるとは思わなかったんだろう、驚きの表情を見せた。

「さっき言ったこと、忘れたわけじゃないよネ?」

まっすぐ、ただまっすぐの目を見て永倉は言った。
は正直、まだ決めていなかった。
何か重大な発表があることは聞いていたけれど、内容を聞かされていたわけじゃない。
言われたのはつい先程で、いきなり答えを出せる程簡単なものではないのに。
自分の殻に閉じ籠もりそうになる意識を無理に覚醒させた状態にする。



わからない。
どうすればいい?



どうすれば、



「永倉、聞いてただろ?女は駄目なんだって。」

しそうだった脳内にの声が届いては顔をあげた。

「確かに世の中の人間のほとんどが女は戦闘力にならないと思ってるだろうけどね。」
「だから、何?わざわざ遠回りしなくてもいいんだけど。」
「俺だったらが行きたいって言えば連れてくよ。の忍術もの剣術も半端ないこと知ってるし。そこらの男より全然頼りになる。」
「永倉がそう思ったって意味がないだろ。上がいるんだから。」

苛立ちを含んだ声では言った。
周りでその様子を見守る人たちにも永倉が何を言おうとしているのかわかったものはいないようだ。
永倉はさらに続ける。

「別に俺だけじゃないと思うよ?近藤さんだって土方さんだって同じ考えだと思うけど。」
「だから何なんだよさっきから。この中でそう思ったってしょうがないってさっきから言って・・・」

の次の言葉をが制した。の前に右腕を出す形で遮っている。
は驚いた表情でを見た。は黙って永倉を見ている。

「わかった?俺の言いたいこと。」

こくん、と小さく頷く
その表情はあきらかに不安が見えていた。
色素の薄い茶色い髪を珍しく結わいていない。

「・・・?わかったって何が?」

が聞いてもはただ永倉を見ているだけで何も言わない。

「なるほど。」

次にそう口をきいたのは土方で。へ向けられていた皆の視線は彼へ移った。

「土方さん、もちろん頑張るでしょ?」
「俺のためじゃないけどな。」
「いいよ何だって。ようは二人が入れればいいんだから。」

他の面々は相変わらずきょとんとして何を言っているのかわからず。
は黙ってを見ていた。
はきゅ、と口を真一文字に結んだまま、まだ永倉を見ていて。
彼は困ったように肩をすくめた。




「だけど・・・いつになるかわからないじゃないですか。」




永倉の言いたいことを察知した沖田はそう言った。
けれど、どうやら賛成というわけではないようで、その表情は固く強張っていた。

「何だよ、皆して。」

先程よりもさらに苛立った様子では言った。
隣に座るは相変わらずで。

永倉の言いたいことは完全にわかったようだ。
だけど、ここでそう言うことが正しいとは思わない。自分自身、どうしたいのかなんてわからなかった。
そもそも明確な、はっきりとした意志を持つなんて、そんな行動は遥か昔に蓋を閉じた。

流されて、きたから。

「まぁ、どうのこうの言う以前にが行きたいと思わないならそれでいいんだけどさ。」
「行きたいって言えば行けんのかよ。」
「覚悟があるのなら。」

日差しが部屋に差し込んで、ちょうどの辺りが一番光っていた。

もう一つの道を示すように。





「必ず近藤さんは俺たちの頂点に立つ。その時に合流すればいい。」





そうすれば文句言う奴なんていないだろ?と彼は続けた。




いつになるかわからない。
信じるか、信じないか。
勝つか、負けるか。

生きるか、死ぬか。




 
++++++++++++++++++++++++++++++++
08年06月16日 修正

back