「好きだよ。・・・・二度とこんな感情持ちたくないけど。」










―第一章:3―











「・・・・へぇ。沖田とやりあえる奴、見たの久々かも。すげぇな。」
「・・・・・・・・・・・・さっきまで全然興味なかったくせに。」
「黙れ藤堂。」

ずばっと切り捨てたの言葉に藤堂は溜息をついた。










「藤堂―お前暇だろー?」

なんの前触れもなく聞こえてきたの言葉に反応して藤堂は閉じていた瞼を開いた。
突然入ってきた光に驚いてほとんど反射的に手をかざす。
光になれないその目での姿を捉えようと目を細めた。

「いや、暇じゃない。この後新八っつぁんと蕎麦屋行く予定なので。」
「断れ。そしたら暇だろお前。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやまぁ、そりゃね?」

さも当たり前かのように言ってのけたを見て藤堂は手を持っていた冊子から離し、彼女に向かって指を向ける。

「でもお前が決める事じゃないじゃん。」
「うっせぇよ、黙って従っとけ。」

とても女の子とは思えないような言葉を放ったをほとんど軽蔑的な眼で藤堂は眺めた。
ふと、向こう側を見ると人影が見えた。
その見覚えのあるシルエットを見て、考える暇もなく彼は絶叫した。

「あぁあああぁーーーーーーー!!!!!」
「・・・・・・何。」

ガンガンと響く藤堂の声に耳を塞ぎながらは言った。
言いながら自分の後ろをくるりと振り返る。


永倉新八がいた。


「え、何平助。」

突然自分を指差しながら絶叫した彼に驚いた永倉は一瞬目を見開いた。
手に持っていた手ぬぐいがするりと抜け落ちる。
たっぷり5秒たってから、慌てて拾おうとした永倉に、影が覆い被さった。


「・・・・・・・・・何かな、。」


気持ち悪いという表現が一番正しいと思われる、笑顔とは言いがたい笑みを浮かべたが自分の上でその細い指を一本たてながら永倉を見つめていた。
の後ろに見える藤堂の顔を覗ってみたところ、とりあえず、あの顔色で横になっていたら死人と間違えられてもおかしくないだろうなというような色をしていた。

「んーとりあえず藤堂がひどくってさ。」
「・・・・・・・・・・。」
「だってこの私がせっかく誘ってるのに誰かとの約束を優先させようとするんだよ?でもまぁその人との約束の方が早かったからしょうがないっちゃぁしょうがないんだけどさぁ。あーぁ。その人に急用ができてくれたらなぁ。藤堂と出かけられるのに。でもそんな都合のいいこと起こるわけねぇもんなぁ?」

のついたその大袈裟な溜息にびくっと怯えたような反応を藤堂は示した。
それを見た永倉は、なるほど、と藤堂平助の今後の運命は自分に託されているらしいことを理解した。
「・・・・・・・・・・・平助。」

ぽんと肩に手を置きながら永倉は言った。










「今日の午後、予定が入っちゃったんだわ、ごめんネ?」

見捨てた。










「え!?藤堂の約束の相手って永倉だったの!?それは知らなかったなぁ!!あ。ってことは藤堂は暇になったわけだよな!?」

満面の笑みではそう言い放った。
藤堂は泣きそうになりながら永倉に助けを求めるように振り返った。
ヤツは視線を空に向け、今日は雲一つない快晴だなぁなどとぬかす。
藤堂に殺意が芽生えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暇だけどね!」
「じゃぁ一緒にでかけような!」

藤堂に決定権はなかった。










「・・・・・・・・・・・・・・蕎麦・・・・・・。」
「何か言った?」
「いえ何も。」

遠い眼をしたまま藤堂は答えた。ぼーっと目の前の美男子二人に視線を向ける。

伊庭道場は試衛館とは違いとても大きな道場だ。
江戸4大道場の一つである。
そこの跡取息子である伊庭八郎の剣の腕は試衛館一の剣豪であると言われている沖田総司よりも数段上であるようだ。新しいライバルの出現が嬉しかったのだろうか、最近沖田はよくここへくるようになった。

もっとも今日はに引っ張られてやってきたわけだが。

「しっかしほんとすごいよな、あの2人。総司とちゃんのいいとこだけとってできあがりました・みたいな。」
「あー確かに。あの技とか思い出すな。」
「おーあんな押されてる総司久々に見たわー。」
「そーだねー。永倉とかは互角に渡り合うことはできてもあそこまで押せないよな。」



ガァンッ・・・・カラカラカラン・・・・・・。



「お?」
「む。」

沖田の竹刀が自分たちの目の前に転がってきたのを見てと藤堂は小さな声を出した。
しばらく竹刀を見つめた後2人同時に顔をあげる。

「・・・・・・また負けちゃいましたねぇ・・・。」
「でも今回は危なかったですよ。どんどん強くなってくなぁ沖田さんはー。」

そんな茶目っ気たっぷりな言い方をしながら伊庭は沖田に向かって笑いかけた。
やっぱり伊庭くんは強いですねぇと苦笑しながら沖田は部屋の隅にいた藤堂とを振り返る。つられて伊庭も振り返り、を見てきょとんとした。

「沖田さん。彼女ですか?」

もしもここに試衛館のメンバーが全員集結していたとしても、藤堂平助と同じ行動を取ったに違いない。
まず鳩が豆鉄砲を食らったような顔をし、瞬間、何かがはじけたように笑い出す。

「あはははははははっ!!!何それッ!!伊庭お前頭おかしいんじゃね!?」
「え〜?あーじゃぁ何藤堂の彼女だったとか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・勘弁してください。」

ちなみに藤堂と伊庭は同い年で、一度沖田が伊庭を試衛館に連れてきた時に一気に仲良くなっていた。
といっても伊庭は元々明るく笑顔の堪えないいたずら好きの青年である。漫才トリオは3人ともすぐに打ち解けてしまったのだが。
そんな2人の様子を見てくすくすと笑いながら沖田は言った。



「彼女の名前は。試衛館の食客のうちの一人ですよ。」



 
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08年06月16日 修正

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