ー護るって、なんだっけ。ー ![]() お世辞にも心地良いとは言えない、携帯のバイブレーダーの音で目が覚めた。 時計の針を見れば、まだ、5時5分前。 は小さく舌打ちして、布団に潜り込んだ。頭まで、すっぽりと。 ブー。 うるさい。 ブーブーブー。 いっこうに鳴りやむ気配を見せないその携帯に、は仕方なくもぞもぞと布団から手を伸ばした。ディスプレイの発信者を確認もせずに通話ボタンを押す。 「はいもしもし・・・・。」 寝起きのままの声でそう出る。油断すれば一気にまた眠りの世界に入り込みそうな自分の意識をどうにかしてつなぎ止めるのに精一杯だった。通話中に眠ってしまってはまずいと思い、ゆっくりとした動きで起き上がり、ベッドの上に正座する。 おかしい。 ぼやけていた意識と視界が大分はっきりしてきたはそう思った。相手が一言も発さない。 かけてきたのは向こうだし、携帯料金がかかることはないので、そのまま放置しておこうかとも思ったが、突然しゃべられたりしても困るので、もう一度、自分から話してみようと思った。 「何かご用ですか?いたずらなら切りますけど。」 それでも相手は沈黙のままだ。 面倒になったは思いっきり電源OFFのボタンを押した。 続いてもう一度。 電源を完全に切った状態へ。 もう一度かかってきてはたまったもんじゃない。 乱暴に携帯を机の上に置くと、あと一時間、そうつぶやいて、また布団を掛け直した。 次に目が覚めたのは不愉快な目覚まし時計の音だった。 無機質に鳴り響くその音を聞いて、は黙って起き上がる。先程携帯を置いた時よりもさらに乱暴な手付きで目覚ましを止めた。 寝起きろーてんしょん・・・・・。 誰に言うでもなくそう呟いて、鉛のように重い体をどうにかしてベッドから引き摺り出した。 閑散とした、寮の部屋。 この間まで相方のいた、あの部屋に比べて、随分とすっきりしたようだ。 今年、最高学年に上がったは、一人部屋へと移った。もちろん、三年生なら誰でも一人になれるわけがない。じゃんけん勝負という、単純、かつ明解なサバイバルゲームに勝ち抜いたものにだけ与えられる特権だ。はそれを見事に制覇した。中庭が見渡せる、寮の中でも一番見晴らしの良い、人気の部屋だった。 シャ、という軽快な音を立てて、カーテンを開ける。 絵に描いたような雲がいくつか空に浮かんでいるのが見えた。 これで桜が満開だったら文句なかったのに。 早めに着替えて、いつもより早く食堂へ行く。 中に入ると数人の朝練のある子たちがいるだけで、とても静かだった。 男子寮はきっともっとたくさんの人たちがこれくらいの時間帯に朝食を取っているんだろうな、と寮母さんから朝食を乗せたトレーを受け取りながらそう考えた。 辺りを見回して、一番人気のない所を選び、椅子に座る。決められた朝食のメニューをいつもと変わらない順番で少しずつ食べていく。 「おはようございます。」 そう声をかけられて、は、パンを食べようとしていた手を止め、上を見上げた。 同じ会計の、後輩が一人。 「おはよ。あれ?バスケ部って朝練あったっけ?」 「ないですよ、ただ今日は昨日終わらなかった会計の仕事、ちょっとやっちゃおうと思いまして。」 「・・・・・・・何だ、結局考えることは同じか。」 「先輩一人良い思いしようたってそうはいきませんよ!」 「いや・・・・むしろやらなくて済むのならやりたくないんだけど・・・・。」 呆れた声でがそう言うと、後輩こと田中憂菜は笑いながら、そうですね、と言った。 そして前の席に腰を降ろす。 おーいちょっとまてまさかそこで食べるとか言い出さないよね? 「わ、先輩よく食べるんですねぇ・・・・。」 田中はそう言って、その場で寮母さんにメニューを頼み、用意されていたナプキンで手を拭いた。 ここで食べる気らしい。 「運動してたころ、気をつけてたから。」 「?朝いっぱい食べた方がいいんですか?」 「そ。私夕食が一番食べないよ。」 「無理ですそんなの・・・!一番お腹空いてるじゃないですか!」 「でも一番、その後動かないじゃない。」 確かに・・・・!やたら感心した声で田中は言う。 寮母さんがちょうど朝食を持ってきてくれたのを見て、は眉をひそめた。 それぐらい自分で取ってくればいいのに。 もくもくと食べ始めた田中に、は少しばかり驚いた。 このまま何も話さずに食べてくれるのなら、別にここにいられても構わないかな、そんなことを考えて。 朝早くから人としゃべるのが嫌いなは、それに安心して、残りのものを食べ始めた。 「先輩・・・・桜上水に知り合いいます?」 が、もうほとんどのものを食べ終え、デザートのパインを口に含んだ所で、突然田中はそう言った。 小さく切られているとはいえ、そのまま飲み込むにしては大きすぎるそれを、驚いたは丸飲みした。 喉に何かつかえた感じがし、呼吸がしずらくなる。 「・・・・っ・・!!・・ゴホ・・ッ!!」 「大丈夫ですか!!??」 慌てて田中はに水の入った自分のコップを差し出した。 それをひったくるようにして受け取り一気に飲み干す。 今、何て言った? 苦しくて声を出すのもままならないは目でそう訴える。 自分の分のコップをさらに取り、またもや一気に飲み干した。 「えっと・・・先輩、桜上水に知り合いいるかなって。」 聞き間違いではなかったらしい。 必要以上に焦る田中を見て、は、この子は何か勝手に勘違いしているみたいだな、と思った。 大方、聞いちゃいけないことだったのかな、とかそんなことを考えているのだろう。 「・・・・ケホ・・・っ。あーびっくり。えーと何だっけ?桜上水?」 「はい・・・・。」 「何で?」 冷静さを装って、そう言う。 田中はというと何だか怯えた様子でこちらを見ていた。 「別に怒ってないって。何そんなにびくびくしてんの?」 すみません、と小さく謝った田中を見て、あぁまたやってしまったとは思った。 どうも自分には、他人に優しくするという行為をする能力が欠けているらしい。どう言えば彼女が怯えないで済むのかなんて、検討もつかない。 まぁ、話の内容はほとんど予想は着くけどね、そう考えて苦笑した。別にまだ何も田中は言ってないというのに、何故かほとんど確信していた。”あのこと”だと。 「知り合いが・・・桜上水にいるんですけど、その人、よくある方の話をしていて、それが、なんか先輩のこと言ってるんじゃないかな・と思って。武蔵森にいるって言ってたし、陸上部だって言ってたし。」 「私、もうとっくに陸上部やめたけどねぇ。」 「えっと・・・あ・・・はいそうなんですけど・・・なんとなくそうかなって。」 決まり悪そうに田中は下を向いた。 そう思うのなら話さなければいいのに。このあと、一緒に生徒会室で仕事をするのに気まずい雰囲気だけは避けたいなと考え、は慎重に言葉を選んでいた。 「その人、私のことなんて言ってた?」 「大切な人だって・・・・。」 「それ以外は?」 そう聞くと、田中はさらに決まり悪そうに目線をそらした。 この子、嘘つくのが苦手なんだな。呑気にそんなことを考える自分の思考には驚いた。 田中のこの様子から、どうやらバレてしまったんだろうなという予想がついた。 特に秘密にしようねとか約束した記憶は自分の中に欠片もないので、ここで言わないというのも何だかおかしな話だ。 は田中にバレない程度に小さく溜息をついた。どうしようか、そう考えて自虐的に笑う。 大体彼女の様子からしてもうあきらかにバレているのだから、ここで嘘をついても何の意味もないのだ。自分から進んで話すような話ではないけれど、聞かれてあえて秘密にする必要もない気がしてきた。 あぁ、でもやっぱり言わない方がいいのかな。 いや、そこまではさすがに知らないだろうから、言ってしまっても問題ないよね。 ・・・・・・問題はあるか。彼女がそれを聞いてどう思ってるかっていう問題が。 まぁ、あまり私にとっては意味ないことだけど。 「愛してるって。」 ゆっくりと口を開け、決心したように田中は言う。 は自然と口元が弛んでいるのを感じた。 「この世で一番、愛してるって。」 「そう。でも私が愛してるのは亮だってことは知ってるよね?」 「え?・・・・あぁ、はい・・・・でも、彼、その人のこと、」 「姉さん、って呼んでたんでしょ?」 ただでさえ大きな目を、さらに大きくさせて田中はを見ていた。 「その子は私の弟だよ。」 ← → ++++++++++++++++++++++++++ 笛キャラ一人も出てきてねぇじゃん!!!!! すすすすいません(土下座) 06年05月07日 |