「僕としてもさすがにちょっぴらけ驚きました」



生徒会に現れるなりアレンは目をくりくりとさせながら言った。
そこに居た全員が動きを停止し、視線はアレンに集中させた。
は寝不足であまり機能していない頭でまず何からつっこめばいいかを真剣に悩み、大変不愉快そうに顔を歪める幼なじみの神田を見て、それから笑いを堪えられないらしい会計の黒乃を見て、一人悠然と面白そうにアレンを眺める文化祭実行委員長の栃原を見て、なるほど皆が是非ともつっこんで欲しいと思っているのはここなんだなと勝手に想像して、

「あたしも驚いた」

と言った。

もちろん高速で、神田と戸叶二人同時に「つっこむべきところはそこじゃねえよ!」と怒鳴られる。

「あ、うんだよねごめん、アレンーちょっぴらけって何?」
「俺、お前の嫌いなところはそういうわかってんのにやらないところだよ。わざとだってわかってるのに思わずつっこむ俺は馬鹿か!?」
「戸叶は馬鹿でしょ。ユウは本気だけど」
「それ神田の方が間抜けじゃね?」
「そこに正座しろ、頭叩き割ってやる」

放課後、多くの生徒が部活動、または間近に迫った文化祭の準備に精を出しているその時間、アレンは生徒会室に呼び出されていた。
まさか生徒会にスカウトされているわけでもなく、では何故呼び出されたのかというと理由は至って単純だった。

「で、ちょっぴらけってってなに?」
「えーと、少し、みたいな意味じゃないんですか?この間リナリーが使っていて可愛い表現だなと思ったので使ってみたんですが」
「あー、あー、たぶんちょっとだけじゃないの?またはちょっぴり。この二つが混ざったと見た」
「あ、それです、ちょぴり」
「ちょっぴりね」

とアレンのそんなやりとりを見て、文化祭実行委員長の栃原里奈はけたけたと可笑しそうに笑う、「いいねそれミスコンのアレンくんのテーマそれにする?」、どうよ?と戸叶を振り返り、だめに決まってんだろと神田に却下された。

今、こうして生徒会室に集められた彼らは一体何を話し合っているのかというと、何故かうっかりミスコン候補者に名前の上がってしまったアレン・ウォーカーをこのまま本当にミスコンに参加させるべきかどうか決定するためだった。
一応生徒会と文化祭実行委員会の中では面白いからいいんじゃないのという賛成派とさすがに男が出るのはまずいだろという反対派に綺麗に二分していて、埒があかないということで本人も呼んでみたのである。

「というかまずアレンくん的にはどうしたいの?」

片隅で事の成り行きを見守っていた会計の黒乃がにこりと微笑みながら言う。会計係としてはここで一人ミスコン出場者が減れば当然予算が減るのだ、有り難いことこの上ない。そういう裏事情はもちろん隠しているのだけれど、端から見ていた神田にはありありと伝わっていて、相変わらずのリアリストだなとため息が出た。どうしたのと顔を覗き込んできたに何でもねえよと返すと何故か不満げな声をあげられる。

「面白そうですよね」
「え、ちょ、ウォーカーくんはほんとにそれでいいの?何度も言うようだどミスコンは女の子が出るものであって、これに君が出るってことは君は女装をするってことになるんだよ?」
「うっさいよ戸叶、アレンがいいって言ってんだからそれでいいじゃん」
は黙ってろ、まじで」

女装することに抵抗はないんですけど、とんでもないことを宣ったアレンにほとんどが絶句をして、栃原だけが大きな声で笑った。
もうさあ、と栃原は器用にくるくるとシャープペンを回す。

「もうさあ、本人やる気なんだからアレンくんも出しちゃおうよ」
「さんせーい!衣装はあえての和服がいいな!」

が元気よく手を挙げる。先程からにこにことした表情で事の成り行きを見守るアレンに、戸叶が念を押すように、「ほんとーにいいんだな?」と問う。いいですよ、とあっさりした口調で告げられた返事に、戸叶は数秒間空けて、「やるからには優勝目指せー!」と言った。乗ったのはもちろんと栃原と、それからアレン。
神田の舌打ちはその喧騒に掻き消された。



かくして、前代未聞となる男子のミスコン出場が、決定した。





 
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早く次の話書きたい。

10年02月16日

栃原里奈 designed by 陽さま


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文化祭編3