女の子は神様が造りなさった芸術品っていう言葉は誰が言ったんだっけ?、腰の辺りまである長い髪を高いところで一つにくくりながら行った文化祭実行委員長に、生徒会長は、それ漫画だよとだけ答えた。一本、また一本と正の字の一画が付け足されていく。

ミスコンに選ばれた生徒が発表されるのは、文化祭のきっかり2週間前である。本日は金曜日で、文化祭は次の次の金曜日と土曜日日曜日に行われるわけで、つまり今日がまさにその発表日だった。基本的に面倒くさがりの生徒会長と実行委員長は大体の仕事を前日もしくはまさかの当日に終えることが多くて、今回も例外ではなく、体育教師を拝み倒して朝の5時から生徒会室に引きこもっているのだった。
文化祭実行委員長の栃原里奈は5時きっかりにやってきて仕事を始めていたけれど、が神田に引きずられながらやってきたのは時計の長針が4を回ってからだった。「毎回お疲れ神田」栃原の悪びれる風でもないその物言いに、神田は殺意に似たものを覚えたけれど、低血圧のせいか何故か怒鳴る気にはならなかった。「俺は寝る」そう言って3秒後にはソファから寝息が聞こえてきた。

「せんせー」
「はいなんでしょうさん、簡潔にお願いします」
「みすこんのかかりをもっとふやせばいいのではないかとおもいます」
「あと20分あんたが早く来てれば20分早く終わったよ」
「それはゆうちゃんがー」
「神田のせいにしない」

まだ上手く頭が働いていないらしいはぶつぶつと文句を言いながらも、作業を続けている。この状態ではその統計結果を信用していいものかどうか迷うけれど、なんだかんだで頭が良い人間だからきっと大丈夫なのだろう。栃原はちらりとソファで寝ている神田を見た。毎回苦労するのは彼なのに、結局見放すことをしない。生徒会一に対しての怒りの沸点が低いのは神田だけれど、生徒会一に対して甘いのもなんだかんだ言って彼のような気もするのだ。

「あ、しまった今朝はラビお手製の玉子焼きのはずだったのに!」
「なにあの赤毛くん玉子焼き上手なの?」
「超上手いよ、里奈里奈、電話していい?」

どうぞと栃原が許可するよりも早くは携帯電話をひっつかんで廊下に出て行った。
らーびーおはよー、え、なに怒ってんの起こした?あーごめんあのさ玉子焼き学校に持ってきて。
静まり返った学校にはドアなんてなんの意味も成さなくて、の声は筒抜けだった。体育教官室が離れていなければ携帯電話は没収されていたに違いない。
がちゃりと扉を開けて戻ったはにこにことしていて、栃原はよかったねと肩を竦めていった。

「青薔薇ちゃん元気?」
「元気だけど、その通称あんま好きじゃないみたいだから本人の前で呼ぶのやめてあげてね」
「わかってるよ、っていうか皆わかってるでしょ、第三者同士の会話でしか使われてないじゃん」

そうだっけ、はクラスメイトたちと交わした日常会話を思い出してみるけれど結局わからなかった。最近は専ら生徒会の人間またはハウスの住人と行動を共にしていたからかもしれない。
着々と進む時計の長針に、栃原が「朝のHRサボればどうにかなるかな」と呟いた。は少し考えて、いいねのいの字を言おうと口を開きかけたところで神田に「ふざけたことぬかしてんじゃねえ」と一刀両断されてしまった、どうやら彼は眠っていたわけではないらしい。

「あ、あたしあと10枚」
「うっそ前から思ってたけどってなんでそんなに仕事速いの意味わかんないんだけど、イカサマ?」
「あれだよほら才能的な」

きゃははとが笑うと栃原はあからさまに迷惑そうな顔をした。

ばさばさと推薦用紙を捲る音以外は何も聞こえない朝の学校は、いつもよりも重々しい雰囲気で、はなんとなく嫌いだった。いつもは気にならない天井の染みとか窓についた指紋とか下駄箱に溜まったほこりとか、そういうものが全部認識できてしまうから、ひどく以後五知が悪くなってしまうことが原因なのかもしれない。神田とラビにその話をしたら、「気にしすぎ」と言われたけれど、気になるのだから仕方がないと思う。今も集計をし終えてなんとなく栃原を見つめていたら、彼女のちょうど後ろにある壁の染みが気になって、クレンザーどこだっけ、と掃除用具入れをごそごそとあさり始めた。

「ちょっと、掃除とかしてる暇あったら模造紙に枠とかミスコン出場者決定!とか書いといてよ」
「うん?うーん、あたし字汚いし」
「黙れ2年連続硬筆学年代表者」

文句を言おうとしたをまたしても制したのは神田だった、「お前がそれやれば早く終わんだろうが」、栃原が頷いた。仕方がないのでしぶしぶは模造紙に下書きを始めることにした。この模造紙は各学年の階の掲示板、職員室前、正門の掲示板に貼られるもので、コピーなんて現代的なものは使えないから全て手書きで書くしかない。全てに表の下書きを終えたところで、栃原が大きな声で「終わった!」と叫んだ。時計の針は7時15分を差していて、朝練のある生徒が集まり始めていた。

「で、ちょっと聞きたいんだけど

神妙な顔で栃原は紙面からへと視線を移した。

「ん?」
「あのさ、これってミスコンだよね」
「だと思ってるけど」
「女の子は神様が造りなさった芸術品」
「・・・・・・それに戻るんだ?」



「その中に、男の子が混じっていいものかどうか」



いいよ!とが威勢よく返事をしたのと、いいわけねえだろうが!と神田が叫んだのはほぼ同時だった。神田はというとソファから跳ね起きてアンケート結果をひったくった。たっぷり10秒止まってから、紙を全て床にぶちまけた。「ちょっとユウ!何すんの!」、それでも神田は黙ったまま動かない。





「別にいいじゃん、リナリーが青薔薇でアレンが白薔薇とかさ」





もちろんアレン本人が、全校生徒の3分の1からの推薦を受けていたことなど知る由もない。





 
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神様が造りたもうた芸術品。魔探偵ロキより。

09年08月28日

栃原里奈 designed by 陽さま


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文化祭編2