そういえば僕不思議な言語を話す人に出会ったんです。
ラビがアレンと屋上で遭遇してから間もない夕飯時のことだった。
確かその前に、リナリーはとりりんがるなんだよ!とが誇らしげに言っていたような気がする。アレンは、とりりんがるってなんですかリナリーって学生以外にもなんかやってるんですか、といらないボケを真面目にし、ラビが1から丁寧に教えてやったのだ。の発音が悪かったのがいけない。
だからまぁ、別にアレンが「言語」の話をしたって不思議ではないと言ったら不思議ではなかった。
ただし、それはひどく滑稽に食卓の空気を彷徨ってしまったのだ。
「不思議な、言語」とリナリーがまるで確認するように繰り返す。それはどんな言語かしら?彼女はにこやかな笑みをアレンに向けた。この状況でそんな風に返せる(笑顔を!)なんてラビとはリナリーを尊敬してしまう。ちなみに2人はというと遠慮なく、こいつ頭おかしくなっちゃったんじゃないの、とでも言いたげな視線をアレンに向けることしかできなかった。
残りの1人はというと常日頃からアレン少年と口喧嘩だけでなく暴力的な喧嘩までやってのけるような少年だ。「なんだもやし語か?」と鼻で笑いながらそう言った。
もちろんアレンから反撃を受けていた。
具体的にどんな言葉しゃべってたの?が神田を押さえつけながら(というか抱きつきながら)アレンに問う。ぐたいてき、今度はアレンが繰り返した。きっと具体的の意味がわからないのだろうなと思ったラビは、先ほどと同じように丁寧にその言葉の意味を教えてやった。あぁなるほど!アレンはひとしきり頷いて、それから首を捻ってしまう。
そんなこと言われてもわかりません、だって僕、日本語をグタイテキに説明しろって言われたってできませんよ?
確かに、とは困ったように頷いた。
そろそろ切れだしそうな神田からを剥がしながらラビがどの言語に一番近かったのかアレンに聞いてみると、寸分の迷いもなくアレンは日本語だと答えた。
だから文法が近いと言う韓国語ことを言っているのではないかと思ったリナリーがそう言うと、アレンは、カンコクってどこでしたっけ?と15歳の少年がやるにしては可愛らしい仕草でそう聞いた。がその様子ににこにこしながらKorea、と短く答えた。
アニョハセヨくらいしかわかりません、アレンは言う。とりあえず韓国語ではなかったようだ。さくり、レタスを5枚ほど器用にフォークに刺して口元へ運ぶアレンを見て、ラビとリナリー、それには思い出したように食事を再開した。神田だけはそもそも中断さえしていなかった。
あーでも!
今度はからあげに手を伸ばしながらアレンは言う。慣れない箸でしばらくからあげと奮闘し、諦めたようにぶすりと刺してそれを取った。
ラビの言葉に近いですね!
嬉しそうにアレンは言った。俺?ラビは素っ頓狂な声をあげてしまう。
今までに何かおかしな言葉使ったっけ、そういう意味を込めてラビはと神田、それにリナリーを見た。はゆるゆると頭を振る。
実はというとラビは3ヶ国語が話せるリナリーよりも、もっと多くの言葉を操ることができた。日本にやってきた時点で、有名な言語は一通り話すことができたし、日本語を学んでいく途中で、何故かスワヒリ語を習得していた。しかしそれが露見すると面倒なことになるだろうと判断したラビは(学校なんていう閉鎖的な空間の中でヒーローに祭り上げられる気はない)、、神田、リナリー以外にこのことを告げたことはないし、英語と日本語以外を外で使った記憶もない。だからアレンの言葉にひやっとしたのだ。アレンにバレたのではないかという意味ではなく、アレンが学校内の誰かにそれを聞いたのではないかと思ったのだ。だってラビはアレンの前で、先ほど述べた2ヶ国語以外話した記憶はないのだから。
どうしてそう思うの?リナリーがまたもや天使のような微笑みでアレンに聞いた。グタイテキには言えないんですけど、アレンは言う。どうやら具体的という日本語が気に入ったらしい。「聞いててなんとなく思ったんです」、ラビの日本語ってちょっと独学じゃないですか、アレンは確認するようにを見る。独学じゃなくて独特だよ、はアレンの間違った日本語を訂正した。そうそう独特!
そう?言いながらラビは神田を見る。「確かにお前、なんか方言みたいにしゃべるよな」、神田の一言に、アレンを除く3人は勢い良く彼を振り返った。
「「「それだ!」」」
たまには役に立つじゃん!と驚いたように言うを、神田全力でシカトした。ラビもまじまじと神田を見つめている。リナリーだけが、素直に神田を褒めていた。
「ホウゲンってなんですか」、おいしそうですねなどとおかしなことを述べるアレンにまた1から説明してやったのはラビだ。彼も日本に来たばかりのころリナリーから色々な言葉を教えてもらったので、アレンのことが他人事とは思えないのだろう。アレンは日本語の発音やイントネーションは綺麗だけれど、語彙が極端に少ないのだ。
「アレンの言うその不思議な言語ってさ」、は側に放置されていたTVのリモコンに手を伸ばすと右上の赤い丸をぽちりと押した。チャンネルを合わせて画面を指差す。
こんな感じじゃなかった?画面の左端を指差しては言った。関西出身のアーティストが司会者の質問に答えていた。
そうですこれです!アレンは満面の笑みで言う。日本語なのはわかるんですけどどうしても意味がよくわからないんです。
イントネーションも異なっていれば、語尾や単語も全然違う。標準語しか知らない外国人には方言は違う言語に聞こえるのだろう。や神田のような日本人でさえ、北端や南端に近づいていくとわからない方言が多い。
わかってすっきりしたらしい少年たち5人は、再び和やかなムードで食事を再開した。残り僅かな夕飯をたいらげ、デザートのゼリーに差し掛かる。リナリーがアレンにフォークを渡した。
「あ。」
アレンはそのフォークを受け取りながらふいに思い出したように一言発した。
どしたさ?ラビが問う。にこりと笑みをラビに返して、それからアレンはリナリーを仰ぎ見た。
「おおきに!」
えぇぇぇええぇえぇえ、6回ほど呼吸をしてからラビが変な声をあげた。神田に、うるせぇ、と言われたが気にしている場合ではない。も慌てたように目をきょろきょろとせわしなく動かしている。
別に関西弁だって素敵だとは思うけど!俺個人としては関西弁大好きだけど!ラビは言う。
「ちょぉっとお前はそれ使わない方がいいんじゃないかな」
なんでですか、というアレンにラビは、印象の問題さ、と短く答えた。
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ゴーストハントのジョンみたいなことをアレンにやってもらいたかった。玉砕した。
07年08月28日
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グリオットチェリー日常編7