どたん、ばたん、がちゃん。
壮絶な効果音をBGMに、はリナリーと明日のお弁当のメニューについて話し合っていた。
個人的にはうどんがいいんだけど、トントンと雑誌を叩きながらは言う。リナリーは、少しだけ顔をしかめて、でもそれだと神田が、と言葉を濁した。
文句言う奴は食わなきゃいいんだよ、と思うものの、リナリーに向かってそれは言えない。彼女は特別なのだ。学校ではもちろん、ここの中でも。
「ていうかさー」
考えることが究極に面倒になったらしいは椅子の背もたれに思いっきり体重を預けて伸びをする。雑誌と鉛筆を乱暴に放り投げたたため、雑誌は床に、鉛筆は机の端まで転がっていった。
「なに?」
の投げた雑誌を拾い上げながらリナリーは言う。
「あいつら何してんの?」
くい、と左手の親指で、リナリーの後ろに続く廊下を指差した。
正確には廊下に並ぶ10の部屋のうちの一つを指すのだが。
「さぁ・・・・神田がラビに話があるって言ってたのは聞いたけど」
「話?これどう見ても喧嘩じゃん」
何かを投げる音と何かが割れる音がひっきりなしに続いている。鳴り止むことのない罵声が、英語であることから考えると、おそらく神田だけではなくてラビも切れているのだろう。
神田が切れるのなんて日常茶飯事だが、ラビが切れているのは珍しい。
「ここが住宅街から離れているからよかったものの・・・・・・これじゃぁこっちに迷惑がかかるっての。ねぇ、アレン?」
はソファで何やらパンフレットのようなものを読んでいるアレンに声をかけた。困ったように苦笑を浮かべる彼を見ているとさらにいたたまれなくなってくる。
神田がアレンを連れて帰ってきたのが今から約1時間ほど前。
1・2分ここで待っていろと一言伝えて神田はラビの部屋へ向かったのだが、いつの間にやら喧嘩に発展したらしい2人は、止まることなくそれを続けている。
リナリーがかたんと椅子から立ち上がった。
「私たち、紅茶飲むけど、アレンくんも飲む?」
「あ、はいお願いします」
戸棚に近づくリナリーを視界の端に捕らえつつ、はアレンの元へ向かう。
ここいい?どうぞ。
どさりと隣に腰を降ろした。
「アレンって日本語上手いよね」
じっと書類を見つめている少年に、はぼんやりとした表情でそう聞いた。
きょとんとした顔でアレンは顔を上げる。
「そうですか?でも、ここに来る留学生って別に語学を学びに来るわけじゃ、ないんでしょう?」
「そうだけど、でもラビとかひどかったよ。リナリーはラビほどひどくなかったけど、でもアレンみたいにすらすらはしゃべれなかったもん」
「リナリーも留学生なんですか?」
「そうだよ?中国人だし」
へえ、驚いたように目を丸くする。
西洋人から見れば日本人も中国人も大差ないのかもしれない。
そこへ何も持たないリナリーが肩を竦めながらやってきた。どうしたの、とが問うと、だってあの2人が暴れてるせいでコップなんておけないから、困ったように笑った。
確かに、とが呆れ声でそう言うと、アレンも笑った。
「あの2人はいつもあんな風に喧嘩してるんですか?」
「んー、ラビは滅多に切れないよ、ユウはいつも誰かに喧嘩売られてるけど」
反応をどう返せばいいのか迷っているのか、上手く笑えていないアレンの頭をぽんぽんと叩く。癒しがこの家に来た、とは心を躍らせていた。リナリーもきっと同じような気持ちなのだろう、優しい目を向けている。
「アレンて、なんか天使みたい」
今だって文句1つ言わずにちゃんと待ってるし、がそう言ったと同時に、ばたん!とすごい音を立てながら、ラビの部屋のドアが開いた。
むす、とした顔の少年2人が中から現れる。
がつん!
こちらの部屋に足を1歩踏み入れたところで、神田の顔に何かが見事にクラッシュした。
かなり効いたらしい。その場で声を上げずにうずくまる。
その急展開についていけなかったらしいラビは、喧嘩をしていたことも忘れ、ユウ大丈夫か!?と慌てて自分もしゃがみこんだ。
ぽかん。
その様子に最も付いていけていなかったのはリナリーとで、今目の前で起きたことを、信じられないと言った顔で止まっている。
ゆっくりとアレンは立ち上がった。すたすたと神田に近寄っていく。
がし!
突然神田の頭を右手で鷲掴みにした。
「いつまで待たせるんですか。あなたさっき1・2分って言いませんでした?言いましたよね?」
神田の隣に落ちているものを無造作に左手で掴み、邪魔だと言わんばかりに部屋の隅に放り投げる。
国語辞典だった。
どうやらこれが神田に直撃したらしい。
「〜〜〜〜〜〜っ何すんだモヤシ!!!!!」
手を振り払って神田は勢いよく顔を上げる。
何すんだ?アレンはそう繰り返した。
「その前に言うことがあるでしょう。それから僕の名前はアレンだと何回言えばわかるんですか?この頭は飾りですか?飾りならいらないですね」
バチバチ。
神田とアレンの間に火花が散る。
「え、ちょ、何あれ。」
非難してきたラビがに問う。こっちが聞きたい、とは驚いた顔のままそう答えた。
「あたしの中でアレンは天使なんですけど天使が毒吐いてんですけど」
驚きを隠しきれないは、ほとんど棒読みに近い状態でそう呟いた。
隣のリナリーに至っては、口も利けないほど衝撃を受けているらしい。
「あなたの中での1・2分というのは1時間のことを言うんですか?は、それはそれは。違う時を生きているみたいですね?」
「んだと!」
なんていうかさぁ、ラビが口を開く。
悪いのはユウなのに、なんだろう、アレンの方が悪に見える。
見た目は天使だよ、とはっきりとそう言い放ったに、それは言えてる、とラビも頷いた。
中身がなんだろうと見た目が可愛らしければそれでいいらしい。リナリーまでも隣で頷き始めた。
そうと決まればもう何も言うことはない。
3人は無言で立ち上がると、アレンと神田に近づいていく。
がん!と拳では一発神田を殴った。否、正確にはガードされてしまったので、そう言うことはできないのかもしれないけれど。
「はーはいはいはーい。もう夜も遅いからね、とりあえずユウ謝ろうねー」
「・・・な!お前ら!どっちの味方なんだよ!」
「え、言うまでもなく。」
機嫌が最高潮に悪い神田をは宥めるようにソファへと引きずっていく。ほとんど強制連行だ。
ラビとリナリーはにこやかにアレンに話しかけながら彼をソファへと案内する。ごめんね、ユウはお馬鹿さんだから、そう余計なことまで口走ったラビの後頭部に何かの書類が飛んできた。おそらく投げたのは神田だ。
「あーもうユウってば絶対に謝らないんだからー!少しは成長しなよ!」
「いきなり物投げつけてきたやつに謝れるか!」
しょうがないなぁ、とは呟くと、こほんと一度咳払いをする。
「アレン・ウォーカー。」
改まった口調でそう言うと、アレンもしゃんと背筋を伸ばした。条件反射というやつだろう。
「これからよろしくね?」
は?間の抜けたアレンの返事に、神田を除いたたち3人は、仏頂面でそっぽを向いている案内人を見てため息をついた。
「あんた、ハウスの説明しないでアレン連れてきたの?」
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07年07月29日
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グリオットチェリー日常編4