聞こえる。










薇が愛した花嫁











積み上げられた大量の食器類、顔に似合わず大食漢の白髪の少年、うさぎの餌かとつっこみたくなるほど少量の食事、「今の」教団に似付かわしくない程幼い齢の少女。
とにかく全てが目立つ二人組だった。
食堂中の視線がアレン・ウォーカーとに注がれていた。

「アレン、よく食べるんだね。」

にこにこ、誰が見ても上機嫌な様子では目の前で食事を進めるアレンを見つめていた。彼女自身の食事はとっくに終わっている。

「ふぇ・・・?んー、ぷはっ。すみません!なんかひたすら食べてて!」
「ん?あやまらないでよ。幸せそうだね。」

にこり、さらにやわらかく笑いながらは言う。

「あはは・・・僕、寄生型だからたくさん食べなきゃすぐへばっちゃうんです。」
「へえ、大変なんだねえ。ちょっといーい?」

そう言っては身を乗り出すとひょいとアレンの左腕を持ち上げた。
突然のことにアレンは反応できず、ぽかんと自分の腕が持ち上げられるのを眺めている。
赤いんだ、とは驚いたように言い、するりと手袋を外した。目の前の出来事がいよいよ理解不能になり、アレンの頭は完全にフリーズしたらしい。

「どうしたの?」
「え・・・いや、、あの、えっと、この腕、気持ち悪く、ないんです、か?」
「どうして?」

きょとん、と大きな目を見開いては言う。そう言われると言い返すこともできず、アレンは、何でもないです、と下を向いた。
理由なんて明白すぎる。赤い、まるで脈を打っているような左腕。手の甲の中心には神の使徒の証である十字架。

気持ち悪い。

神田なんてはっきりと嫌悪感を示した。いっそあそこまで言ってくれるとこちらも清々しい。

「アレンは、」
「あ!、食後にデザートはどうですか?みたらし団子っていう日本食、すっごくおいしいんですよ?」

取ってきますね、そう言っての話をさえぎるようにアレンは椅子から立ち上がり、ジェリーの元へ向かおうとした。

「アレンくん!」

ぽんっと右肩を叩かれてアレンが振り返ると、その先にはリナリーがいた。
団服の上からコートを羽織り、手の中の皿にはシフォンケーキが三つ、並んでいる。

「食堂の前を通りかかったら、アレンくんとが見えたから、私も入れてもらおうと思って。」

言いおわる頃には椅子に座って、ケーキを配り始めていた。アレンも小さく苦笑して席に着く。

新作らしいの、そうなんですかそれは楽しみです、あたしこれ食べたよおいしかった!

リナリーが加わっただけでその場が当社比2割り増し程明るくなったようにアレンは感じた。ケーキを頬張る女の子二人はとても可愛らしく微笑ましい。傍から見ればアレンも大して女の子と変わらないのだが、本人にその自覚はない。

「よかった、アレンくん、に会えたみたいで。」
「へ?アレン、私探してたの?じゃぁなんであんなとこにい「これおいしいですねっ!ねっ?」

遮った。
このままでは迷子になっていたことがバレてしまう。




「・・・・・アレンくん、迷ったのね。」




バレた。

「・・・・・・・いや、迷ってないです、ちょっと探検してた、だけ、です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・そう。」

リナリーは憐れんだ目でアレンを見て、それ以上は何も言わなかった。
地図をもらった時はちゃんと地図通りに目的地に向かうのよ、最後にそう一言付け足すことはしたけれど。
その後はリナリーとに質問されながらアレンも色々なことを2人に話して(クロスの話だけはしなかった。考えただけで吐き気がするからだ)、しばらく食堂で時間を潰していた。最初は好奇心からアレンとの2人をそれとなく窺っていたその他の人たちもリナリーが加わって、雰囲気が一転したためか、興味がそがれたように自分の食事に戻っていった。
終盤に差し掛かって、リナリーとがなにやらアレンにはわからない女の子がこよなく愛するような話を始めたため、なんとなく手持ち無沙汰になってしまい、仕方なしに窓の外を眺めていた。

なんて寂しい所に立っているんだろう。

窓から見える景色にアレンはぼんやりとそう思った。
いくら黒の教団といえど街中に本部を構えられる程警備に自信があるわけではないのか、それともはたまた別の理由なのか。そう考えてコムイとクロスの顔が頭に浮かび、間違いなく警備がどうとかそんな理由ではないだろうな、と思いなおした。中々の変人奇人ぞろいであることはここへ来て、まだ間もないアレンでさえ、わかることである。

「あ、ユウ兄。」

ふいにが入り口の方を向いて、何かに気づいたようにそう言った。続いてリナリーが、本当ね、という。
アレンは”ユウ”が誰なのか少し気になって、2人の視線の先に目をやり、神田が視界に入って、すぐにそらした。
彼は神田の本名が神田ユウだということを知らない。

「ユウ兄、呼ぶ?」
「うーん、でも今任務から帰ってきて疲れているだろうし・・・・最近立て続けに任務があったみたい。」
「そっかぁ、じゃぁ呼ばないでおこうかな。それよりアレン。」

くるり、髪を多少なびかせながらはアレンの方へ向き直った。

「はい?」

英国紳士の笑顔でアレンはに返事をした。







「アレンは、私のこと、好き?」







「・・・・・・・・・!?好き、ですよ・・・?え?」
「そう。えへへ。」

何が何だかわからずにアレンがあたふたとしていると、は本当に嬉しそうに、何でもないよ、とそれだけ言った。
お茶を飲む仕草からも相当喜んでいるのだということが窺える。
それを見てアレンは、一体何が言いたかったのかまったく見当はつかなかったけれど、とりあえず嬉しそうなにつられて、えへへと同じように小さく笑った。
後ろの方でリーバー・ウェンハムと愉快な科学班仲間たちが、孫娘のを見るおじいちゃんのような笑顔で2人を見ていたことは本人たちは知る由も無い。






























「ラビ、入っていい?」

コンコン、と控えめにノックをしたところまではよかったものの、リナリーはその後部屋の主の許可が下りる前に扉を開けた。
乱暴にバタンと木製のそれは閉められる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・何、今回はどしたん?」

今にも泣き出しそうな訪問者に、部屋の主、ブックマン後継者、ラビはため息をついてそう言った。

 
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リナリーとラビは仲良しだといい。

07年03月09日


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