似ている。 薔薇が愛した花嫁 「?知ってるわよ?どうかしたの?」 89時間にも及ぶ科学班の戦いにようやく終止符が打たれ、アレンの声が72時間ぶり(つまりは3日ぶり)にリナリーに届いた。リナリーがという少女を知っていたことよりも、彼女から返事が返ってきたことに、アレンは顔を綻ばせた。 「いえ、なんか僕の報告書にさんの報告書が混ざっていたから。」 「え!なんで早く言わなかったの!?」 それは言っても誰も反応してくれなかったからです、とアレンは半ば泣きたい心境でそう思ったが、相手はリナリーなので、その言葉をなんとか飲み込む。適当に、はぁ、すみません、と答えておいた。 「リーバー班長が間違えちゃったのかしら。うーん・・・でも今は科学班の皆は疲れているだろうし・・・・・。」 確かに仕事が終わった後の科学班の様子はすごかった。もはや眠いとか疲れたとかそんな感情はどこかに飛んでいってしまったらしい彼らは、最後のレポートにコムイが目を通し、印を押したその瞬間、地響きが起こるほどのボリュームで何かを叫び、叫んだと同時に全員がそこでまるで死んでしまったかのようにぱったりと倒れてしまったのだ。立っていたのはコムイとリナリーと、それからアレンの知らない少年と老人の4人だけ。 コムイがそのアレンの知らない2人に何か話しているのを視界の端で捕らえ、アレンはリナリーに声をかけたのであった。 ふと、疑問に思ったことをアレンは口に出してみる。 「リナリーは、寝ないんですか?」 大の大人の男たちまでもがその場で眠りこけてしまうほどの重労働に17歳の少女が耐えられるとも思えない。 「私はちゃんと毎日寝てたから。手伝うって言っても兄さんが許してくれないのよね。」 「あー・・・・・・まぁ、コムイさんですから。」 彼の妹への溺愛ぶりは赤の他人が見たってわかるだろう。 「で、の報告書はどうしようかな。」 欠伸をしながらリナリーは言った。なみだ目になった瞳をごしごしとこする。アレンは慌ててリナリーの手を掴んだ。 「あ・あのリナリーは寝ていてください!見た感じその書類は一度目を通してあるみたいでしたし!印がありましたから!急がなくていいと思います!だから、大丈夫です!」 何が大丈夫なんだと自分で冷静に突っ込みを入れつつアレンはリナリーに詰め寄った。アレンの勢いに驚いたらしいリナリーは目をいっぱいに見開いて、にこりと笑う。 「ありがとう。でも大丈夫よ。アレンくん、まだ教団の構造わかってないでしょ?案内してあげないとね。」 「いえ、寝ていてください。」 「でも」 「寝ていてください。」 「だってアレンく」 「寝ていてください。」 「・・・・・・・・・・・・はい。」 観念したらしいリナリーは肩を竦めながら頷いた。 でもそれなら、とリナリーは側にあったペンと紙を取り出すと、何やら地図のようなものを書き始めた。すらすらと、止まることなく流れていく。 「はい。」 あっという間に書き終えて、リナリーはその紙をアレンに渡した。 「?なんですか、これ。」 「の部屋までの地図よ。アレンくん、迷子になっちゃうから。一応本人に渡しておいた方がいいかなと思って。お願いしてもいい?」 「・・・はい。」 おかしいな、とアレンは思った。教団に来てからは一応一度も迷ってないし、初任務だって神田やトマと共に行動していたのだから迷うはずもない。と、すれば。 「ティムのメモリーか・・・・・。」 ぼそっと低い声で呟かれたアレンの言葉はリナリーには届かなかったらしい。じゃぁ、よろしくね、とそう言って、スカートを綺麗に翻しながら行ってしまった。 お腹も空いて来ていたし、食事を取るべきか、の元を尋ねるべきかしばらく悩んだあとに、後者を選び、アレンは地図を片手に廊下を駆け出した。 「・・・・・・・・・・・・・・迷った?」 教団の一角で、アレン・ウォーカーは途方にくれていた。知らない場所に入り込んでしまったらしい。はぁ、と大きなため息をわざとらしくついて、アレンはずるずるとそこへ座り込んだ。 やっぱりあそこで右だったんだな、と少年は己の軽率な行動を後悔する。リナリーから受け取った地図どおりにしばらく進み、最後の最後の曲がり角で反対に行ってしまったのだ。だってなんかそっちっぽかったんだもん、と誰に言うわけでもなく呟く。自分の信じた道を突き進むとアレンはいつも迷子になってしまうのだ。当たり前である。 あたりをきょろきょろと見渡しても、誰も見当たらない。ティムキャンピーを呼ぼうかと思ったが、教団に来てすぐにそれはコムイさんに禁止された。ティムキャンピーは主人の元へいつだって最短距離で進むため、教団のような曲がりくねったところで呼ばれると、壁が穴だらけになってしまうからである。もちろんアレンにはそれは告げられていない。 神田あたりだったらそんなことにはおかまいなしでティムキャンピーを呼び出してしまいそうだが、アレンは曲がりなりにも英国人紳士として養父に育てられたため、言いつけを破ることなどするわけもなく。 「うーん・・・・困ったなぁ・・・・。」 だからとにかく途方にくれていた。 「とりあえずもっと進んでみればいいのかな・・・でもそれもなんか嫌な予感がするなぁ。」 「何してるの?」 「わぁ!」 突然振ってきた、高い声にアレンは驚いてびくりと反応した。 すぐ近くに人が来ていたことに気づかないほど、彼は考えるのに集中していたらしい。どくどくと波打つ心臓を落ち着けようと右手をローズクロスのあたりで握り締める。 おそるおそる上を見上げると、そこにはアレンよりもさらに幼い少女が不思議そうに見上げていた。 肩より少し長い茶色い髪を二つに結わき、大きな目をくりっとさせながら少女はそこに立っていた。 年はおそらく7歳前後。 「何してるの?」 もう一度、同じ質問を彼女は繰り返した。 まさか自分よりも年下の女の子に迷っていました、なんて告げることができるわけもない。アレンは少し考えて、という片を探しているんです、と答えた。 「?私、だよ?」 「・・・・・・え!?」 呆然として、アレンはと名乗った少女を見た。確かに、言われてみれば服装は探索部隊のものである。 驚いて報告書をもう一度見た。やはりどう見てもと書いてある。でも、とアレンはうろたえた。だってその報告書は自分が見てもびっくりするぐらい正確に、わかりやすくまとめてあったのだ。お手本として見せてもらったリナリーやトマの報告書とは比べ物にならないくらい、綿密で、素晴らしかった。別にあの2人のものが、手抜きだったとかそういうのではない。この報告書がそれほどすごいものだったのだ。それを、こんな幼い少女が書いたとはとても思えなかった。 「あれ、それ私の報告書。」 アレンの手にあるものを見て、は不思議そうに首をかしげた。 「え!じゃぁやっぱりこれは君が書いたんですか!?」 「・・・・?そうだよ?」 「・・・・すご・・・・・。」 「なんでお兄ちゃんが持ってるの?」 じ、とはアレンを見る。何だか居心地が悪くなってアレンは視線をずらしながら立ちあがった。 「これ、僕の報告書の間に挟まっていたんです。今科学班の皆さんは仕事が終わったばっかりでお疲れみたいですし、なら本人に渡した方がいいかもね、とリナリーが。」 「リー姉が?そっか、だから私を探してたんだね、ありがとう。お兄ちゃん名前は?」 そこで初めては笑った。にこり、と。 「僕の名前はアレンです。アレン・ウォーカー。」 「私はだよ。よろしく、エクソシストさん。」 差し出された右手を、アレンもまた微笑みながら握った。 「でも・・・・すごいですね、あの報告書、見せてもらったんですけど・・・君みたいな小さな子が。というか、報告書もそうですけど、まさか探索部隊に僕より小さい子がいるとは思いませんでした。」 「・・・・・・・・・リー姉とどっちが年上なの?」 「リナリーですよ。」 「ふうん・・・じゃぁこの教団の中で一番私に年が近いんだね。」 やはり、彼女は教団の中でもかなり幼い方なのだとアレンは確信した。それもそのはず、エクソシストこそ適合者に年齢は関係ないものの、探索部隊は力のある青年男性が圧倒的に多い。アレンはまだ、女性の探索部隊にすらあったことがなかったのだ。それなのに、こんな少女がその服装で、今彼の目の前に現れた。 少し、悲しかった。 「小さいのに・・・・えらいですね。」 「・・・・・・・・?だって探索部隊よりもエクソシストの方が大変でしょ?リー姉だってすっごく小さいころからいたって言ってたよ?」 「リナリー、が?そうなんですか・・・・。」 よく考えてみれば、アレン自身だって、教団にはいなかったものの、AKUMA退治を始めたのはそれくらいの年齢だったかもしれない。 大体、の幼さをアレンが心配するように、コムイやリーバーたちからすればアレンだって十分幼いのだ。本人はそのことにまったく気づいていないようだが、それは間違いないことだった。 報告書ありがとう、そう言って駆け出そうとするをアレンは慌てて引きとめる。 ぶっちゃけてしまうと、がいなければアレンは帰れないからだ。彼は迷子である。 「えと・・、今から時間、ありますか?僕、これから食事なんです。一緒にどうですか?」 「・・・・・・・・・・私と?」 「そうです。」 「行く!」 満面の笑みでぺったりとへばりついてきたに、アレンは少し罪悪感を覚えた。 ← → +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ アレンさん、とりあえず迷子脱出。 07年02月20日 |