がスペインの椎名の家に転がり込んで―――表現が悪いがこれが一番的確に言い表しているから仕方ない―――丁度二週間が経った。 試合を終えて椎名が自宅へ帰宅すると、ソファの上でが小さな寝息を立てていた。テーブルの上には食事が準備されていて、待っていてくれたのだということがわかる。まるで新婚夫婦のようだ。椎名はコートを脱いでに近づくと、それをそっとかけた。毛布を取りに行けば良いのだが、その時間さえも惜しいと思う程、この時間が愛しい。 手を出しても良いってことだよね、という椎名の問いをは否定しなかったけれど、結局二人の間に何も進展はない。新婚夫婦さながらは甲斐甲斐しく椎名が仕事の日は料理をして待っているのだけれど、本人曰くこれは泊めてもらっているアルバイトみたいなもの、だそうで、そこに愛情表現があるのかどうかはわからない。 それでも思わずにやけてしまう口元をどうにか引き結んで、椎名はを起こさないようにソファ下の床に座った。そっと頬に触れても起きる気配はない。 嫌がることはしない、とと約束した。だから、がきちんと椎名を恋愛的な意味で好きだと自覚するまで手を出すつもりなどない。の行動や言動を見れば、椎名を好いていることなど一目瞭然と言っても過言ではないのだが、それを本人が自覚してくれない。むしろ、ああまで頑なに認めないところを見ると、自覚していてなお、無理矢理見ないようにしているのではないかと思う。それが一番厄介だ。わかっているものをわからないフリをしている人に、それを認めさせる方法などあるのだろうか。 それでも、少しずつの気持ちに変化があるように、椎名は思う。 椎名からアクションを起こさないわけだから、が言うところの「一緒にいて、恋人みたいにする」というのは、彼女自身が行動を起こさなければ始まらないのだ。本当に少しずつだけれど、それは実行されている。 携帯電話のメロディーが、突然沈黙を切り裂いた。マナーモードにし忘れていたのだ。椎名は慌てて音が出ている場所を掌で覆ったけれど、遅かった。ソファに横になっていたが、もそりと起き上がる。 「・・・・ん、おかえり・・・・。ごめん寝てた」 「先に寝てても良かったのに」 「いやーでも今日鍋だから、二人が良かったんだよね・・・・」 まだぼんやりとした表情のまま、はすとんとソファから降りてきた。 とん、と椎名の肩に、の肩が触れる。 いち、に、さん・・・・、椎名が9まで数えたところで、が立ち上がる。 「準備する。シャワー浴びてきたら?」 「寝る前に暖まるから、今はいい」 「そう?じゃあちょっと待ってー」 3秒伸びた。何が?が触れている時間が。大晦日と正月に、もっと長い時間触れていたというのに、はどうやら椎名に触れることを躊躇っているようで、最初は間違いみたいに一瞬触れただけだった。それも、四日前の話だ。それまでは接触などほとんど無かった。 中学生かよ、とも思うけれど、そういう一歩一歩近づいてくる様が何とも可愛いので、椎名は好きにさせている。 これは解禁されたら色々ひとっとびしそうだな、と苦笑する。のペースに合わせていたら、とんでもない時間がかかりそうだ。 一体いつになったら認めてくれるのやら。そう思いつつも焦りがないのは、多分もう隔日なところまで来ているからだ。 今日のところはこれでお終いかな、椎名はが触れていたところをそっと掌で包む。の行動を中学生のようだと言うけれど、椎名も大概であることに、多分本人は気づいていない。 |