全てが初めての日。











 入学式も無事終わり、HRが始まるまでに、各自昼食を取ることになっている、そんな午後の昼下がり。
 初めて入る食堂にわくわくしながら席についたは、いつのまにやら集まっていた面子と自然の流れで昼食を頂戴する羽目になっていた。
 荷物を買い弁してきた一人に頼み、わらわらと食券を求めて席を立つ。ずらりと並ぶ食欲をそそられるメニューに、十二分に悩んだ後、無難にカレーライスに決めた。食堂のおばちゃんからカレーライスを受け取り、席へ戻る。全員が揃ったところではとうとう耐えられなくなり、思わず口を開いた。

「とりあえずさぁ、」

 食堂のほぼ真ん中で、少女はゆっくりとそう言う。

「何?」

 一人だけ、返事を返してくれた。





「あんたらほんと、何者なの?」





 ギャラリーが尋常じゃないんだけど、とスプーンでカレーを口に運びつつは呆れ声でそう言った。

「ん?半分はお前目当てだろ?」

 水を取りに行こうと腰を浮かした状態でおかっぱ頭の少年はきょとんとした表情でを振り返った。
 はあ?心外だと言わんばかりの勢いで少女は割と大きな声でそれに反対の意を示す。
 今現在、共に食事を摂っているメンバーは全部で六人。
 百歩譲って六分の一ならまだしも、半分だなんてとてもじゃないが認めるわけがない。

「んなわけないでしょう。女の子はどうひいき目に見てもあんたたち目当てとしか思えないしね」

 眼鏡そこのドレッシング取って、眼鏡て・・・名前忘れたんちゃうやろな、忘れたも何もあたしはあんたらに自己紹介された記憶なんてないわよ。

 忍足からフレンチドレッシングを受け取ると、少しだけサラダにかけて元に戻す。しばらくしゃくしゃくとドレッシングが均等になるように混ぜていたが、やがてレタスをさくりとフォークに刺して口に運んだ。

「あん?お前、名前わかんねえのか?」
「だからわかるわけないでしょう」
「自己紹介とか久しくしてねえな、皆俺らのこと知ってたし」
「・・・・・・ほんとに何者よ?」

 もはやいっそ軽蔑に近い呆れを全面に押し出しては言う。
 育ち盛りの高校生たちが集う食堂で、まるで芸能人がその場にいるような錯覚を起こしかねないこの状況は言うまでもなく不気味だった。
 携帯電話のカメラ機能ならともかくも(いや、本当ならそれだっておかしい)、デジカメでちゃっかり写真を撮っている人までいる。
 本当になんなのだろう、この男共は。

「・・・実はジャニーズ?」
「んなわけあるかよ」

 1%の可能性を信じて言ってみた仮説は見事に打ち砕かれた。
 そうだよねそんなはずないよね、と思いつつも、いっそジャニーズです、と言われてしまったほうが納得できる。
 それくらい、彼らの周りには人が群がっていた。

「全てが謎・・・。あー、もういいやそれは。どうせ生活してりゃわかるわよね。で、名前は?」
「自分、切り替え早いやっちゃなぁ・・・」

 取り柄だから、そう言ってまず目の前の眼鏡の少年に、自己紹介をするよう顎で促した。

「忍足有士や。そんでもってこっちは跡部景吾。でー、今水取りに行ったやつが向日岳人でそこで寝てるのがジロー。で、」
「俺の名前は宍戸亮だ。」

 最後に髪の短い少年がそう短く告げる。
 明らかに1人、色々と省略された人がいた気もするがそこは放っておくことに決めた。
 なるほどそういう名前、1人納得しつつも、しかしまさか今ので覚えられるはずもなく。

「これから頑張って覚えるわ」

 諦めた。
 名前さえ聞けば少しはわかるかと思っていたのだが、しかしまったくわからない。苗字こそ聞き覚えのある人が多いものの、それはきっと親の会話か何かで聞いたのだろう。
 ここに通う生徒は、社長の親も持つものばかりだと聞いている。
 または自分のように政治家か。

「ん?で、そう言えばあんたらは何繋がりなの?」

 中3ん時同じクラスだったとか?一番無難そうな説をあげてみたが、しかし首を横に振られた。





「俺たちは中学で男子テニス部だったんだ。」





 部活仲間か。いいな、そういうの。

 その時は彼らがあらゆる意味でどれほどすごい人たちだったかなんて、少しもわからなかった。



 
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
07年07月29日


back