ガタガタと、あまり心地よいとは言えない音を立てながら1台の馬車が走っていた。
乗客は、2人。
白髪の少年と、赤毛の少年。

「んー、しかしねぇ、なんだろね、このAKUMAに気に入られた村っつーのは。」
「さぁ、でも、左目で探ってみた感じでは別にその村にはAKUMAがいないようでしたけど。気に入られたっていうのはAKUMAが住み着いてるわけじゃなくて、もしかしてAKUMAが近寄らないのかもしれませんね。」
「探っ・・・!?お前、あの村行ったの!?」
「・・・?行ってませんよ?あれ、ラビに言いませんでしたっけ?僕、半径300mくらいならAKUMAを察知できるんですよ。あと150mくらいでしょう?さっき300mに差し掛かったところでちょっと探ってみたんです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・へぇ。」

少年2人―アレン・ウォーカーとラビ―はエクソシストである。
今回の任務はイノセンス入手やAKUMA退治ではなかった。どちらかと言えば「AKUMA探し」である。

1週間前、教団に一つの噂が舞い込んできた。

―AKUMAに気に入られた村―

そう言われている村があるらしい。
もちろん一般市民はAKUMAの存在を知っているわけではないし、正しい表記は「悪魔」なのだろう。だから教団側もさして気に止めてはいなかったのだ。

しかし。

探索部隊が入れない、

という自体が起きた。昔、同じような現象が起こり、それはイノセンスによって引き起こされた事態だったことがある。
そこで教団はエクソシストを送り込もうという決断を下したのである。

選ばれたのは、4人。

アレン・ウォーカー、神田ユウ、ラビ、リナリー・リーという、いずれも10代の少年少女たちであった。
理由はいたって簡単である。

「友情を深めるいい機会じゃない?」byコムイ

ふざけている、と誰もが思ったが、他のエクソシストたちからしてみれば代わりにその中に入りたいと思うような人はいるわけもなく。
めでたく賛成多数(というか反対は3人、ラビアレン神田のみ)ということで、送り込まれたのである。
送り出したコムイ本人も、そこまで重大な任務だとは認識していない。
むしろこれを機に軽く羽根でも伸ばしてきたらいいんじゃないの程度の話なのだ。

「・・・・・・・・・やる気って何さ。」

ラビは不満気にそう言いながら資料をばさりとアレンの方に向かって投げ出した。
白い少年は左手でそれをぱしりと跳ね除ける。

「いきなりなんですか、ラビ、まだ任務は始まってませんよ。」
「任務!?いつ始まるん!?そもそもこれは任務なんか!?っつかユウとリナリーは!?」
「いっそ神田はいなくてもいいと思います。」
「ちょっと、論点そこじゃないから!」

馬車はガタガタと不規則に揺れながら着々と目的地へ向かっていた。



















「で?あの馬鹿2人はいつ来んだよ。」

眉間に皺を寄せながら履き捨てるように言ったのは黒髪の少年。

「馬鹿とか言ったらだめよ、神田。それ、あなたが言っても何の意味も成さないわ。」

さらりとひどいことを言ってのけたのは黒髪の少女。
東洋系の2人は、ヨーロッパの南、イタリアの小さな村の入り口で真っ黒なコートに身を包み、大きな手荷物をそれぞれひとつずつ持って立っていた。
言うまでもなく、注目の的である。

「大体、何で俺がこんなとこに来なきゃなんねーんだ。」
「いいじゃない、たまには若いもの同士で旅行っていうのも。」
「旅行じゃねぇだろ。」
「旅行みたいなもんよ。10日いて何もなかったら引き返していいことになってるんだから。」

リナリーは視線を神田から村の内部へと移動させた。
本当に、小さな村だ。周りは浅い堀のようなもので囲まれている。彼女たちがいるのはちょうどその堀にかけてある小さな橋の目の前だった。
閑散とした雰囲気。まだ朝早いということもあるのだろうが、人の声はまったく聞こえない。たまにどこかで鳥が鳴いているのが聞こえてくるくらいだ。
見える建物は村の真ん中をちょうど突っ切るように建てられている、長い1階建ての建物と、それから奥にちょこんと建っている赤い屋根の小さな家。そこがおそらく、今回リナリーたちがお世話になる下宿屋だ。

―悪魔に気に入られた村―

そんな噂が流れてもう10年以上経つらしい。
10年前は賑やかだった村の周りも、今は何もない。広い草原が続いているだけだ。

「どうして気に入られた、なんて言われてるのかしら。」
「さぁな。」
「AKUMAじゃなければいいんだけど。」
「違ったら俺たちが来た意味がねぇじゃねーか。」
「そしたら楽しめばいいのよ。」
「帰る。」
「帰さないわよ、私たちが。――あ、馬車が来た!きっとアレンくんたちだわ。」

リナリーは大きく手を振って馬車が通れるようにと道を開けた。



















「ようこそ、エクソシスト一行さま。私の名前は。下宿屋やってます。どうぞよろしく。」


















小さな村だった。

全村民合わせて30人前後。

幸せだった。






なのにどうして、  



   あの  人   は     来た の      ?







+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
07年04月15日



back