「そんなわけで、不束者ですが、よろしくお願いします」

そう言って壇上の白い少年留学生、アレン・ウォーカーはぺこりと頭を下げた。

今日は全校朝会の日だった。
昨日の時点で発表されていた留学生の存在に、生徒たちはなんだか落ち着かない様子で体育館に入ってきたが、アレンが壇上に上った瞬間、シン、とその大きな建物は静まりかえった。驚きと、尊敬と、憧れが入り混じったような変な感覚だったに違いない。
彼の、流暢で、だけどどこかおかしな日本語での挨拶が終わるころには、完全にノックアウトにされた生徒が続出していた。

司会の者が彼に向かってそこから降りるようにと指示を出す。
ゆっくりとアレンは階段を降り、司会の少年に頭を下げた。

その様子を見て、たまらず笑い出したものがいた。





生徒会長、だった。





「――っぶは!無理だろあれ!ダメだ慣れない!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・、今は全校朝礼中だ。百歩譲って笑うのはいいとして、もう少し声のトーン落とせ」

腹を抱えるようにして笑い出したを、隣で壇上を見つめていた男子生徒がそう注意する。ごめんごめん、と小さな声では彼に謝った。と言っても彼女に近い、ドア側の1年生には、既に注目された後だったけれど。

「だ・・・ちょ・・・あれはないだろう・・!ぷ!ユウが司会はないって!」

涙を溜めたの目には、体育館隅で、ありえないほどの仏頂面で、司会用メモを棒読みしている神田ユウがいる。

「・・・だから言っただろ。神田に司会は無理だって。大体あれは副会長の仕事だろ?何で書記の神田にやらせてんだよ」
「ユウは書記という名の雑用だから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

あっさりとそう言ってのけるに、その男子生徒は返す言葉が見当たらなかった。
ん?はちらりと視線を体育館の後ろへとズラす。そこには自分と同じく笑いの堪えられないらしい少年たちが数多くいた。さらに言うならば、どうやら珍しく朝会に出席したらしいラビにいたっては、完全に1人で大笑いしていた。
きっとリナリーは、ちょうど真ん中のあたりで、こめかみの辺りを押さえながらあきれ返っているに違いない。
気づいてくんないかな、としばらくラビには視線を送っていた。
3分くらい経って赤毛の少年はようやくの視線に気づいたらしい。
神田を指差しながらにむかって口ぱくで何かを言っている。
わからない、という意味で大きく腕で×印を作った瞬間に、生徒会顧問からのゲンコツを食らった。

「・・・・・・・・・・痛い」
「話聞いてないからだろ」
「うっさい」

だって、とが反論を述べようとした所で、司会者――つまりは神田ユウが、解散の一言を告げた。ぶは!また笑い出したを、今度は止めるものなどいない。
ざわざわとした生徒たちの話し声にかき消されてしまうからである。













所変わって生徒会室。
本日の朝礼の反省を1限までの10分で終わらせなければならない生徒会役員のメンバー、プラス新しい注目の留学生のアレン・ウォーカーがいた。
お疲れ様でした、反省点はないですね?はい、解散。
くつくつとおかしそうに笑いながらそう言い放ったに、神田からの蹴りがお見舞いされる。痛いから!という反論は綺麗に無視された。
代わりに、真面目にやれ、というお言葉が頂戴される。

「え・・・と、反省点ある人」

「強いて言うなら会長の態度はどうかと思いました」
「あたしの態度は不可抗力だもん、ユウの司会がおかしすぎたのがいけないと思う」
「だったら俺を司会にすんじゃねえよ!」

正論を言った神田に、以外の生徒会メンバーから温かな哀れみの目が送られる。
日常茶飯事と化しているこの光景に、誰もつっこむ気力などないのだと知れた。

・神田ユウ。

共にこの学校の生徒会メンバーであり、そして2人は幼馴染でもあった。神田ユウの生徒会入りは、もうほとんどのせいと言っても過言ではない。
その時の様子はきっとこの後明らかになっていくに違いないのでここでは触れないでおく。

「あー、まぁ問題はなかったでしょ。とりあえず教室戻りますか」

だからお前の態度が問題だろ、はーい聞こえませーんさっさと戻るー。
のその掛け声に、はぁい、とやる気のない返事をして去っていく役員の後姿を見届けると、彼女はくるりと向きを変えた。

「えーと、アレン・ウォーカーくん」

部屋の隅で、生徒会メンバーのやり取りをぽかんと眺めていたアレンは、突然の呼びかけに一拍遅れてから慌てて返事を返した。

「あ、はい」
「君は1−Cだから。あ、そこまではユウが案内してくれるよ」
「彼が・・・・・案内人、ですか?」
「そう。校長から聞いたでしょ?」

そうが確認するように窺うと、はい、と綺麗な笑顔付きの返事が返ってくる。
つられても一度にこりと微笑むと、今度は神田ユウを振り返った。

「そんなわけでユウちゃん、いってらっしゃい!アレンくん可愛いからって襲わないようにね!」
「それはお前の場合だろ!」

さっさと部屋から出て行こうとする神田を、アレンは慌てて追いかけていく。



「さーて、私も教室に行きますかね」



がちゃりと鍵をかけると、はチャイムの鳴り響く廊下を駆けていった。

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07年07月19日


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日常編1