「ちょ!大ニュース!」
十代後半の少年少女計3人が静かな夕飯を勤しんでいた時のことだった。
やはり同じ年頃くらいの赤毛の少年が、バタン!と無遠慮にも程があるほど大きな音を立てて部屋のドアを開放した。
3人のうちたった1人の黒髪の少年は、顔色1つ変えずに天ぷらを口へ運ぶ。
ツインテールの少女はドアを開けた振動で紅茶の水面が揺れたのを、眉を顰めて見つめていた。残りのショートカットというにはやや長めの髪をした少女は、あからさまに嫌そうな顔した。
「ラビ、食事中に騒がないでって、前にも言ったでしょう?」
ツインテールの少女――リナリー・リーは静かな声で、そう嗜める。
ラビと呼ばれた赤毛の少年は、わり!と反省していなさそうな顔でそう答えた。
だってそれどころじゃないんだぜ!片目しかない綺麗な緑色の目を輝かせながら彼は言う。こっちだってお前の話に付き合ってる場合じゃねえよ飯が冷める、そう言ったのは食事を取っていた少年――神田ユウだった。
「ひど!ほんとにこれは大ニュースだって!俺今日新しい留学生見た!」
ぴたり、食事を進めていたリナリーと神田は同時にその手を止めた。それを見たラビは、嬉しそうに顔を綻ばせ、2人を眺めている。ね?大ニュースっしょ?リナリーと神田は憐れむような視線を彼に投げかけた。
「お前、それどこで見たんだよ?」
「さっき学校で!校長と話してんの見掛けたんさ」
「学校?こんな時間まで何してたんだ?」
「追試」
さらりとさも当たり前だと言わんばかりの口調でラビはそう言った。
ご心配なく満点なので、ひらひらと手を振りながらそう付け加える。やればできるのにどうしてそう毎回テストの時は寝てるのかしら、ため息をついてリナリーは額に手を当てた。
「て!そんな話はどうでもよくて。だから留学生!」
声を張り上げたラビに、リナリーは再び顔をしかめる。
「あのね、ラビ。」
小さい子に説得させる時と同じ口調でゆっくりと言葉を発しながら、彼女はラビを振り返った。ん?きょとんとした顔でラビは首を右へ少し傾ける。
「がそのことを知らないわけがないでしょう。さっき、私もあの子から聞いたのよ」
ね、生徒会長?リナリーが視線をやった先には黙々と夕飯を体内に取り込むことに集中している少女がいる。
一通り物を食べ終えてから、少女――は顔を上げた。
「んー?ごめん、聞いてなかった」
「聞けよ」
「いや、だってどうせラビの言う大ニュースなんてニュースじゃないだろうなと思ったから」
さすがの俺も今ちょっと傷つきました、あらそうごめんね。
どうやら話を聞く気はこれっぽっちもないらしい少女は再び夕飯を食べ始めた。一定のリズムで食料を口へと運んでいく。
「それに大体、留学生が来るっていうのに神田が知らないわけないでしょう?」
リナリーがそう言えば、ラビに返す言葉はなく、む、と口を尖らせた。
ほら、そこで勝手に拗ねてないでラビも食べる、リナリーはガタンと自分の隣の席を引いて、ラビを促した。
はいはい、と二度やる気のない返事を返して、ラビは席につく。
目の前の神田が鼻で笑ったのを見逃すわけもなく、座る直前に足を蹴り上げておいた。返されたお返しは当然のごとく上手くかわす。
「あの留学生、名前何て言うんさ?」
いただきます、しっかりと手を合わせてラビはまず始めにほうれん草のおひたしに手をつけた。
「なんだったかなー・・・・アントン・・・?」
「、アントンはドイツに多い名前よ」
「なんだったかなー、とりあえずラビじゃなかったよ」
テキトーに答えるに、リナリーは少しだけ目を細めた。
「俺と同じ名前なわけがないだろが」
「まあ、明後日全校朝礼があるからそれ聞いてよ」
「おっけー。じゃ、サボんないように気をつけるわ」
ラビが朝礼に出るの、1年ぶりくらいじゃないの?が笑った。
それに対して神田が馬鹿にしたように笑い、リナリーが苦笑いを返す。
「それにどうせ、ここに住むんだろ?」
神田の問いには軽く一度だけ頷いた。
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やってしまった学園パラレル。
07年07月18日
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グリオットチェリー序章