リスタート。










薇が愛した花嫁











真っ暗な部屋のイメージだ。
そこにあるものは無だけであり、したがって何も無いのと等しい。
何かがそこに迷いこんでも、一瞬それは存在するだけで、すぐに闇の中へと消える。その部屋の中に響くのは、たった一人の声だけだった。



今も昔も変わらない。



それが全てで、それ以外何もいらなかった。
自分の歩いてきた道は生きた証というよりも、生きる意味に近かった。したがって、あまり生きているという実感もなければ、生きたいという欲望もない。





あるのは突き進まなければならないという信念だけ。











アレン・ウォーカーは誰かに呼ばれたような気がして、硬いベッドに横たえていた自分の体をのそりと動かした。隣を見ると、リナリーがぐっすり眠っている。あと数時間で目的地へと着くはずだ。まだ暗い空を見上げ、アレンはなかなか働かない頭を無理矢理覚醒させようと試みたが上手くいかなかった。



ふと目に入ったのは、燃えるような橙。



そこに存在する花だと思ったそれは、看板に描かれた、平べったい花だった。何かを思い出しそうになるが、すぐにそれを放棄する。教団においてきた少女の存在が、数日離れただけでこんなにも曖昧になるとは思ってもみなかった。





こうしてたくさんの人を忘れていく。





――だって、










――そうじゃなきゃ、マナのこと、忘れちゃうじゃないか。










アレン!甲高くそう呼ぶ声が、自分の中で消滅していく。もやがかかるように白く霧散した声に視界が遮られるような感覚に陥り、アレンは意識を手放した。










――先へ進むんだ、他に構っている暇はない。









さぁ、ここから始めよう。








Fin.


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ありがとうございました。

08年07月20日


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