はっぴーばーすでー。
きっと日付が変わったと同時に聞こえてくるだろうと思っていたその声は、日付が変わって、さらに日付が変わりそうな時間に彼女の元へ届いた。
ちょっともしもしゆきちゃんきこえてます?ペラペラと受話器の向こう側で声がする。小島はガッチャン!と思い切り受話器を切ってやった。力任せにコードレスの電話機を叩きつけた結果、当然のことながら受話器は一度不自然にバウンドして落下した。「信じらんない!」と、憤慨しながらバタンと大きな音を立てて、少女がドアを開けた先には、少年―――いや、もう青年と呼ぶ方がふさわしいかもしれない―――が二人。蛍光灯の光に晒されてきらきらと光る金髪を掻き上げながら一人がけたけたと笑った。
「信じらんない?何言うとんの、小島」
「何よシゲ、何か問題でもある?」
「信じられんのはお前のその形相やで、ってタツボンが」
「水野!」
「って今の明らかに俺は関係なかっただろ!」
関係あるかないかで言ったら大有りよ!!少女がソファに乱暴に腰掛ける。先ほどの受話器みたいに不自然に撥ねながら、「信じらんない!」と二度目となる台詞を吐いた。
だって!と彼女は興奮状態で続ける。「一番にお祝いするって約束するから一番にお祝いしてよって言ってきたのは藤代なのよ!それが、これよ!こんな、こんなひどい奴だなんて思わなかったわ!」少女がテーブルを叩いた衝撃で、隣の棚に避難させておいたはずのカップに振動が伝わり、ゆらゆらと水面が揺れる。
「せっかく日本で迎える久々の誕生日だったのに!」
金髪の少年が優雅に飲んでいた紅茶をひったくるようにして奪うと、少女は一気にそれを飲み干した。隣で茶髪の少年が呆れている。先ほどからこちらの少年は、少女に声をかけようと何度か試みているものの、見事に失敗続きだった。それほどまでに今の彼女に言葉を届けることは難しいのである。
でもさあ小島ちゃん、金髪の少年がのんびりとした口調で言う。「そもそもお前と藤代って、」そこまで言ったところでクッションが飛んできたために、少年は口を閉ざさなければならなかった。降参とばかりに両手を上げてみせると、少女は「ああもう!」と頭を抱えた。
「イライラする!」
「そりゃあ、イライラしてんだろうな」
「イライラするわ!」
実に、実に珍しい光景だった。決して大人しい方の部類ではないにせよ、少女が声を荒げて感情をむき出しにしたことは、意外と少なかった。熱い心を持ちながら、意外と理性で会話をするのである。そういうところが、先ほどから会話の端々に出てくる藤代誠二というサッカー選手とは違うところである。
「そもそも何でそんなに怒ってんだ、お前」
「怒ってない、イライラするだけ」
「同じだろ…」
「いいえ」
全然違います!少女は同意を求めるように金髪の少年へと目を向ける。俺に言われても、少年は肩を竦めただけだった。いいから朝まで付き合ってよね、言うな否や少女はグラスに盛大にビールを注いでいく。ため息と共に茶髪の少年はがっくりと項垂れた。
(なんで俺たちが付き合わなきゃならない?)
(まだ付き合うたわけやないから色々あるんとちゃう?)
(ああもう早くくっついてくれよ頼むから!)
(せやな、明日藤代にキレられんの、俺らやし)