何してんの、背中越しにかけられた声に、水野は振り返るかどうかしばし悩んだ。悩んでいるうちに、声の主は隣に並んで、そうして今度は不機嫌そうな声で「聞いてんの?」と苛立った様子だ。それでも水野は答えずに、顔さえも向けずに黙っていると、ガシャンとフェンスに彼は体重を預けた。ギシ、音を立ててフェンスがゆがむ。
今日の試合、水野のコンディションは最悪だった。スタメン出場したものの、前半のうちに交代させられ、あとは試合を見ているだけ。他のメンバーはどうやら最近好調のようで、嘘みたいにチームプレーも上手く繋がり、華麗な試合展開をしてみせた。対してここのところずっと不調の水野は、どうにも面白くない気持ちで、最後まで試合を見送り、勝ってテンションの上がる彼らを横目に、早々に抜け出してきたところだった。そこに、踏み込んできた男、三上亮。
「お前が不調なのは知ってっけど、今日の態度はよくねえだろ」
「・・・・スミマセンでした」
「おいこら感情がまったく籠ってねえぞ」
アンタには関係ないだろ!ガシャン、水野も三上の隣に乱暴に腰を下ろす。常日頃、言葉遣いに注意しているはずなのに、この可愛げの欠片もない後輩は、一向に三上に対する言葉遣いだけはよくならない。出会った頃に比べれば幾分か敬語を使うようにはなったけれど、周りに誰もいないとなれば、すぐにこの調子である。
ふてくされたように、絶対に目線を合わせようとしない水野に、三上は盛大にため息をついて見せて、それから無理矢理頭をつかんで自分の方へと向きを変えさせる。
「〜〜っ何すんだよ!」
「はいはいいいからちょっと黙ってろ」
バチン!両手で頬を思いっきり叩いてやった。叩いて、そのまま。三上に顔を固定されたまま、水野は何が起こったのかわからないと言った顔をして、何度も目を瞬かせた。瞬くこと数回、我に返って無理矢理三上の手を退かす。驚きと怒りで声が出ずに、ぱくぱくと口を開けたり閉じたりする水野を、三上は指差して笑った。
「〜〜〜っあっはっは!!すっげえ顔!!ははっ」
「うるさい!大体何のつもりだよっ!」
げらげらと遠慮なく笑い、それから三上は「少しは冷静になったかよ?」と涙を拭った。
ありがとうございます!そう言った水野の声は、心なしか少しだけ晴れ晴れとしていた。