駅から歩いていると、道端に見慣れた姿を見た。
サッカー部のジャージに身を包んだ笠井だった。
三上はそのまま足を進めると、一向に気付かない後輩に向かって、よう、と右手を上げて声をかける。笠井は少しだけ驚いたような顔をして、「あれ、先輩何してるんですか」と上ずった声を出した。
「何そんな驚いてんの?」
「予期せぬ人に会えば、そりゃ誰だって驚きますよ・・・・」
何をしているのかと問えば、練習試合の帰り道だとのこと。参考書が欲しくて書店に立ち寄ったところらしい。
「勉強熱心なこって」
「俺はサッカー推薦じゃないんで、勉強ちゃんとやっておかないと成績落下をすぐ部活のせいにされるんですよ」
連れ立って寮への道を歩く。夕焼けに伸ばされた影に視線を落としながら、三上は隣を歩く笠井を見る。顔を見なくなってまだ数日しか経過していないはずなのに、まだまだ後輩だと思っていた彼が、ひどく大人びて見えた。不自然に膨らんだエナメルバックが、笠井の背中でリズミカルにカチャカチャと音を立てる。そういえば意外なことに、こいつは缶の筆箱を使ってるんだったな、と古びたシルバーの味気ない筆箱を思い出して、三上は自然と口の端を上げた。何笑ってるんですか、笠井は眉間に皺を寄せる。何でもねえよと三上は即座に返事をしたけれど、多分笠井は納得していなかった。
「そういやよくこの道歩いたな」
蝉の鳴き声がそこら中に響き渡る。まだまだ最高気温は30度を超え、夏の暑さは続いている。それでも、彼らの夏は終わりを告げていた。
「藤代どうよ?あいつちゃんと部長やってんのか?」
「誠二は行動で示すタイプなんで、今のところはそれなりに部長らしくやってくれてます」
「へえ、意外。俺らいなくなってさみしー、とか言ってんのかと思った」
からかい半分でそう言ったつもりだったのに、存外笠井の表情が真剣で、三上は一瞬たじろいだ。寂しいわけないでしょう、笠井の言葉は、風に乗ってすぐに消えた。
明日から、新学期が始まる。