隣にいる人とペアを作ってください。
西園寺に言われて何気なく横を向いたら、うっかり杉原と目があった。ああしまった見なければよかったと思った時には既に時遅し。にこりとあの胡散臭い笑みを張り付けた杉原が、「よろしく」なんて言いながら近づいてきていた。隣から結人と一馬が興味津々の顔で覗き込んで来る。多分、顔に出ていたんだろう、杉原が「移動しよっか」なんて言い出した。別に良いよと俺が言うよりも早く、すでに杉原は歩きだしていて、ため息をつきながらその背中を追った。
「こういう時って今までどうしてたの?」
ふいに立ち止まって杉原が言った。ストレッチ始め!という声が響いて、各々がその場に座り込む。俺たちもどちらからともなく座り込むと、杉原が後ろに回った。細い体のどこからそんな力が出るのか、というよりも明らかに故意的に強く押しているであろうことくらい気が付いていたけれど、言い返すのも面倒で、そのまま芝生ギリギリまで体を折った。
「こういう時って?」
発した声はほとんど芝生に吸収されてしまう。それでも杉原にはきちんと届いたようで、「二人組って言われたら、君たち一人余っちゃうじゃん」と可笑しそうに言った。
「・・・・聞いてどうするの、そんなこと」
「どうもしないよ。ただ、今思いついたから聞いただけ」
「ユンがいた頃は知ってのとおり四人だったからね。3人のときは側にいた奴と誰かがテキトーに組んでるよ」
「ふうん。郭が他の人と組んでるイメージが強かったけどね」
わかってるなら聞かないでくれる、と俺が素っ気なく言うと、杉原は「ハイハイ」と気のない返事をした。この間までライバル心むき出しだったはずの彼は、ここ最近大人しくなった。視線を感じることもなくなったし、突っかかってくることもほとんどない。先ほどの気のない声に、カチンときて、俺は勢いよく振り返ると、杉原に向き直る。突然のことに驚いた顔をした彼を見て、少しだけ気分が晴れた。
「ねえ、それなら今度から杉原が俺と組んでよ」
そう言えば杉原はさらに目を見開いたけれど、驚いたのは何よりも自分自身だった。