黒でも、白でもなく。 闇と光の代用物 嫌な浮遊感。 落ちて行く錯覚。 暗闇の深淵の底から、黒い影が舐める様に、貪るように体を蝕んでいく。 濃度の濃いそれ。 絡め摂られる。 上方にはとうに離れ、今やほんの小さな点のような光がある。 意思が闇に閉ざされていく音を聞いた。 戻れ、浮上しろ! 半ば強引に目を見開き、閉じているのと殆ど変わらない闇を見据える。 絡みつくそれに抗うように四肢をがむしゃらに動かす。 しかし意思に反して、いくら腕を伸ばしたところで重い力が意識を暗闇の底へと 落としていく。 光など、掴める筈もない。 闇の濃度が一層に上がる。 まだ呑まれるわけにはいかない。 決めた筈だ。 悪魔を壊し続けることを、立ち止まらずに只管と。 光と闇の中間に立ち、闇の使者を打ち壊していくことを。 闇を打ち払う力を! 左手を、微かに瞳に光を届けるものに差し出す。 そして其処に力をこめる。 と、その瞬間。 強い力が左手を掴んだ、落下が止まる。 「 」 名前を、呼ばれた気がした。 ***** まず目に入ってきたのは、黄色い光だった。 大きく外界へと切り取られた硝子の向こうに、見える満月。 淡く、それは世界を照らしていた。 しかし同時にそれは物陰に深い暗闇を刻み、繰り返されるイメージの喚起を促し た。 静かに胸に満たされる恐怖。 またあの夢だ。 息をつき、背中を座席へと埋める。 負荷をかければ、ゆったりと身体を受け止め、程よい反発を返す長旅に向いたそ の座席は普段なら自分を深い睡眠に誘うのだが、今日はもう眠れそうになかった 。 規則正しく繰り返される振動。 それ以外はただ沈黙に支配された空間。 月に照らされた車内の人々は静かに眠りについていた。 青白い光の下で、まるで永遠の眠りについているのではないかと思うほどに安ら かに。 彼らの吐く寝息は、微かに耳にこそ届きはしたが多くは静かな車輪の立てる規則 的な振動に噛み潰される。 目の前に座るリナリーは口元まで毛布を上げて静かに寝息を立てている。 黒い髪の下の白い肌には月光の青白い影が落ち、身じろぎも見せず、静かに。 苦笑し、自分の足元に落ちてしまっている毛布に左手を伸ばそうとする。 と、後方に一瞬意識が引かれた。 驚き左手のほうを見ると、微かに、触れているのかそうでないかわからないほど 微かに、彼と指が絡んでいるのが見えた。 そのまま視線を上へと向ける。 すれば、赤い髪の下、瞳が窓の外の月を映しているのが、見えた。 「ラビ?」 右手で毛布を掻き抱き、少し距離を詰め、同じ月を見る。 彼は頬杖を付いた左手を崩さずに囁くように、うなされていたから、と呟いた。 「あ・・・すいません、有難う御座います」 「いいって、こんな任務してたら当然だって」 そう、小さく言うと彼はこっちに視線を向け、にこりと微笑んだ。 回り起こすと悪いさ、と彼は左腕をひき、自分の毛布の中に僕を入れる。 冷えていた体温が、それで少し緩和されたように感じた。 「つめた!!」 「声小さくしないと起こしちゃいますよ、なんか僕、毛布はねてたみたいで」 「これもはねたりすんなよ」 「あ・・・大丈夫だと思います」 くすりと、笑うと、彼は虚をつかれたような表情をし、同じように表情を崩した 。 「綺麗な満月ですよね、空気も澄んでいて、雲ひとつなくて」 「うん、俺満月好きなんさ」 「僕も好きです、あったかくて綺麗ですよね」 そういって、再び月に作られる闇を思い起こした。 一瞬浮かんで、掻き消えてしまった笑みに彼は不信感を抱いたのだろうか。 もう一度笑みを作り直したとき、彼は悠然と微笑み、左手で、自分の白い髪を梳 いてくれる。 「で、怖い夢でも見た?」 優しい声音に、体から力が抜けた。 「夢というか、イメージですか」 「イメージ?」 「闇に落ちて、飲み込まれる」 いつでもぞっとする。 繰り返される夢の中のビジョン。 払う筈の闇に飲み込まれる。 心の中に進入する冷たい沈黙と心を折ろうとする冷たい恐怖。 「払わなきゃ、いけないのに・・・」 毛布に顔を埋めた。 弱い自分にまで吐き気がする。 こんなことで揺れてはいけないのに。 「疲れてるんさ、お前、もう一回、寝ろ」 彼が僕を毛布から引き剥がし、まっすぐな眼で僕を見据えた。 そして、小さく、囁く。 「これで落ちないさ」 左手を、さっき闇の中から引き上げた右手で覆われた。 今度は軽く指を絡ませるだけではなく、しっかりと。 冷えた指先に伝わる、強い力、確かな熱。 彼を見上げる。 悠然と微笑むその人は、その色は。 闇に負けることも霞むことすらなく、毅然と純然と堂々と。 確かにそこにあった。 ああ、大丈夫だ。 酷く心が落ち着いたのが判った。 おそらく今夜はもう見ないだろう、あの夢を。 座席に座りなおせば、丁度いい反発に緊張が緩和される。 たたんと単調に繰り返される振動は、子守唄の如く、睡眠欲を呼び覚ました。 窓の外にある暗闇は濃度を薄くし、恐怖を喚起するでもない。 肩に頭をそっと乗せれば、彼は反発を見せるでもなく、熱を其処から齎した。 「ラビ・・・」 「ん?」 「ありがとう」 如何致しまして。 落ちていく意識の先。 ゆるりと笑う彼。 黒にも白にも負けぬ、彼の赤。 end…。 ***** 桜様へ。 ごごごごごめんなさっ・・・。 訳わからねえ!!兎わかんねえ!!同じくらい白い子もわかんない!! こんなのでよろしければお納めください・・・。 5000HITどうも有り難う御座いました!! ママより愛をこめて・・・(要らない。 |