休日の出来事。





















「前から思ってたんだけどさー、なんであんたは仁王と仲いいわけ?」

部屋の主がいない間に侵入を果たし、ベッドの上に大の字に寝転がりながら、そう言い放ったというふざけた感性の持ち主に、ここの部屋の主である柳生比呂士は眉をかすかに吊り上げた。
こういう阿呆は無視に限る、と彼女の質問には答えずに机へと向かう。どさりと鞄を無造作に置き、雑誌を掴んで部屋から出て行こうとした。

枕が飛んできた。

「ちょっとー無視はないんじゃないのー、あ、お帰りって言わなかったのに怒ってるんだなー?オカエリー!」
「出てけ。」
「ちょ!ひど!3文字!?3文字で全てを片付けるっていうの!?っていうか怒りのあまり命令口調なんですけど!比呂士特有の敬語がどっか行っちゃってるんですけど!」

わめき散らすに対して柳生は先ほど投げられた枕をけり返した。上手く避けたつもりなのか、枕が当たらなかったことに安心している香の頭上に雑誌がバサバサと遠慮なしに降ってくる。彼女が避けたおかげで、枕はベッド横の本棚に見事にクラッシュし、1番上に積んであった雑誌類(廃品回収用)が全てズリ落ちてきたのだ。高くできあがったその山の中から可愛くない声が聞こえた。

「雑誌、片しておいてください。」
「・・・・いやいやいやいやちょっとお兄さん、これほんと痛い、って、え、ちょ、まさか出て行こうとかしないよねあのここで幼馴染が死にそうになってるんですけどちょっと!」

言いながら元気よくは雑誌類をベッドの上から、さらに床の上に撒き散らしながら這い出てきた。否、飛び出してきた。
散らかっていく部屋の様子にあからさまに不愉快なオーラを放ちながら柳生はくるりと振り返る。つかつかとの側まで行き、目線を合わせるためにしゃがみこんだ。

「一度とは言わず死んできてください。」

はっきりと、本人の目の前でそう言い放つ。

「・・・・・・・。」

優しさなどかけらも感じられない幼馴染の対応に、は返す言葉も見あたらなかった。

「・・・・・・・・・・・・・何か用ですか?」
「ん?うん、ちょっと仁王のこと聞きにきたんだけど、まぁそれはついでで、比呂士に会いにきたっていうか。」

散らばった雑誌を拾い上げながらは言う。どれもには無縁そうな雑誌ばかりだった。
小さいころから知っている彼の部屋。
家具の配置や家具自体は変わっているものの、ここにある雰囲気は変わらない。

「まずはベッドから降りてそこの座布団に座りなさい。」
「はい、ママ。」
「締め出しますよ。」

紅茶でいいですか?言いながら柳生は既にカップにお湯を注ぎ、ティーパックを沈めていた。何故ポットがこの部屋にあるのか、は不思議で仕方がなかったが、そこはあえてつっこまないでおく。

パックですけど、ここおいしいんですよ。あれ?あんた紅茶なんか飲んでたっけ?最近ある人の影響で。

からからと小さな音を立てながら、スプーンでカップの中をくるくると混ぜる。
混ぜすぎですよ、と柳生がかすかに笑ったのに、は気づかなかった。

「で?仁王くんが何ですか?」

無言で紅茶を飲み干してから、柳生はにそう尋ねた。

「だから、なんで仁王と比呂士は仲いいのかなって。」
「・・・・・・・・・仲良い?どこがですか?」

心外だと言わんばかりの表情と声色で質問に返してきた柳生には驚いて目を見張った。この言い方は本気でそう思っているに違いない。

「え?何自覚なし?仲いいじゃん、大体友達作るの苦手なあんたがあれだけ一緒にいるから、ようやく親友でも見つけたのかと思ってたんだけど。」

もともと、の知っている柳生比呂士の友人というのは数が少なかった。そもそも、彼らを友人というカテゴリーで括っていいのかすらわからない。休日や放課後に共に遊びに行く人たちなんて、小学校のころから数えて片手で数えられるほどなのだ。

テニス部という例外を除いて。

だからてっきり、テニス部メンバーは『親友』といっても問題がないのではないかと思っていた。故に柳生の言葉に驚いたのだ。

「・・・・・・・・・まぁ、部活の人間っていうのは嫌でも3年間一緒なわけですし、彼はダブルスのパートナーですからね。」
「仲いいってことでしょ?」
「だからたぶん香が思ってるのとは違いますよ。」
「ふうん。仲いいんだね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・もうそれでいいです。」

聞く耳を持たないに柳生はため息をつきつつそう言う。
おかわり!と言って差し出されたカップを受け取って立ち上がった。

「うん、よし、仲良しってことだ。で、ここからが本題。仁王くんは何が好きなんですかね?」

お湯を入れていた柳生の手がぴたりと止まる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「は?じゃないよだから仁王の好きなもの聞いてんの、色とかでもいいんだけどさー。」
「何故、知りたいんです?」
「それ聞くのか、あんたは。」

いいから答える!とは柳生を催促するものの、彼は黙ったままで一向に答えようとしない。柳生が大きな勘違いを起していることには気づいていないのだ。
だから彼に理由を教えようとはしない。

「ちょっとー黙られても困るんですけどー。」
「・・知りませんよ、彼の好きなものなんて。」

いつもよりも低めの声が出て驚いたのは柳生本人だった。
気まずい沈黙が2人の間に流れても、彼から動き出すことはない。ついでに時間も止まったように、しばらく2人は動かなかった。外に降る雨と、階下で誰かが洗い物をしている、2つの水音だけがはっきりと聞こえる。
遠くで子どもに帰宅を告げる鐘が響いては、はっと我に返った。

「え、何あんた仲良しなんでしょだったら知ってるでしょ!」
「知ってたとしても教えませんけどね。」
「え!?なんで!?ちょっとそれ意味わかんない!」

紅茶を入れる柳生の背中に叫んでもあまり効果はないように感じられた。
それでもは引き下がらずにしつこく聞き続けた。
聞かなくちゃ、いけないのだ。絶対に。

「理由。」

ふいに、ぽつりとその一言が降ってきた。

「え?」

何を言ったのかよく聞き取れず、は動きを止めた。
口から出てきたのは間の抜けた一文字。

「何故、そんなこと聞くんですか?」

今度ははっきりと耳に届いた。
あぁ、また理由を聞かれたらしい、とは頭を抱えたくなった。どうしてそれに執着するのか、まったく理解ができない。
『親友』の好みくらい教えてくれたっていいのに。

「言えないようなことなんですか?」
「言いたくないようなことなんです。」
「じゃぁ教えられませんね。」
「鬼!馬鹿!アホ!」
「何とでもどうぞ。」
「どうぞ、じゃなーーーーい!!!」

完全に、彼はの声を遮断することに決めたらしい。
何を言っても反応すら返ってこない。いわゆる蔑みの言葉を並べても返ってくるのはただの無言。
こうなったらもうどうすることもできないことを、は誰よりもよく知っていた。
幼稚園のころからの付き合いなのだ。
目的を果たすためにはこちらが折れるしか道はない。

「・・・・・・・ただ単に、お礼、しようと思っただけ・・・だよ。」

横を向いて小さく言う。
ゆっくりと柳生は振り返ってをしばらく見つめると、

「お礼?」

と、怪訝そうな声が返ってきた。
そう、お礼、がそう返しても、彼の中の不信感は募るばかりのようだ。腹を括って、理由を述べることを決意した。






「この間、比呂士、熱出てたのに部活行ったことがあったでしょ?直前まで私、一緒にいたのに気づかなくて。部活始まってすぐに仁王が気づいて、あんたを家に連れて帰ってくれたでしょ?だから、そのお礼。」





「・・・・・・・・・・・・・・・・なんで、がお礼をするんですか?」

あなたがお礼する意味なんてないですよね、と疑問符を浮かべながら柳生は言う。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!うっさいよいいから仁王の好きなもの教えろーーー!!!!!!!」









それはあんたが好きだからです、なんて彼に言えるはずもなく。








仕方がないのでもう一度枕を投げつけておいた。







END
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何だろう・・・・これは。(聞かれても)
題名はいつもちゃんと意味があります。
双子は「柳生とヒロイン」「柳生と仁王」です。パーティーっていうのはほら、ゲームとかでもよく使う(いや知らないけど)パーティーで・・。あぁ、なんか上手く説明できないのでやっぱなんでもないです。

07年03月13日


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