私、と切原赤也は似ているようで決定的なところで異なっている。



知り合ったきっかけは、1年時だ。
たまたまクラスが同じになっただけと言えばそれまでだが、結果こうして付き合う形になったのだから、それだって立派な運命だと思う。いつだったか赤也にそう伝えたら、「確かにな、そうなるように自分で運命を無意識のうちに変えたんだろ」、とあの彼にしかできない眩しい笑顔で言われたのを思い出す。私は少しだけ面をくらって、昼休みの、騒つく教室で赤也を見上げていた。

2年生になって私たちは見事にクラスが別れてしまった。見渡した四角い空間の中に彼がいないことに違和感を覚えたのも束の間、すぐにそれが日常になってしまう。少しだけ淋しいなと思う反面、愛しさも増した。例えば移動教室の途中、休み時間、金曜日の国語の授業中。たくさんの生徒の声に紛れて私の耳に届く彼の声が、驚くほど響いて、私を満たすのだ。
悔しいから、決してそれを直接的に本人に伝えることはしないのだけれど、きっと彼は気付いているに違いない。「今日赤也、体育でサッカーやってたでしょ。声、2階まで響いてたよ」、私が何気ない風を装って赤也に言うと、「、今日昼休みに中庭で本読んでただろ?ずっと見てたのに、まったく気付かねーんだもん」、と恥じらいもせずに言ってのける。





こつん、と何か堅いものが頭に当たった感覚がして振り向くと、私が飲みたいと言ったココアを持った赤也が笑いながら立っていた。初秋の夕時は、真夏のような暑さこそ持っていないものの、まだまだ熱気を帯びている。部活を終えたばかりの赤也の頬はほんのりと赤く色付いている。



「ごめん待った?」



はい、とココアを差出しながらそう言う赤也に、首を横に振って見せると安心したように彼は目を細めた。
今日は大会前だとかなんとかで、調整の日らしい。いつものようにこちらが呆れてしまうような量の練習はしなかったようだ。どこか物足りなさげな赤也を見て、改めてテニスが好きなんだなと感心した。何故かこっちまでうれしくなってしまう。「なんだよ」、不貞腐れたかのように少し頬を膨らませた彼に、ふわりと笑って、「なんでもないよ」、と告げた。
空と地の境界線だけが少し明るく赤い色に染まっているが、見上げた真上は既に濃い青で埋め尽くされている。瞬きする度に星の数が増えていくように思えるほど、くっきりと光る星が見えた。
2人並んでゆっくりと校門へと向かう。途中テニス部の人たちと何度かすれ違う、「おめでとう」、赤也は満面の笑みだ。

「朝も言ったけど、誕生日おめでとう赤也」
「さんきゅー。へへっ、やっぱに言われると違うもんなんだなー」
「そう?」
「全然違う!」

校門をくぐって住宅街へ出た時には、太陽は面影すら残さずに地平線に沈んでいた。街がどことなく急ぎだす時間帯だからだろうか、それに逆らうかのように本当にゆったりとした足取りで私たちは進んでいく。終始無言の私たちだったけれど、不思議と嫌な感じは受けなかった。時折思い出したようにふと隣を歩く赤也を見上げると、いつも真っすぐに前を向いていて、安堵する。テニス部男子に、共通した感覚。物理的な問題ではない。前を見据える姿勢と、そこから感じる、責任感のようなもの。部長だという、あの人の影響なのかもしれない。「赤也たちは、前しか見てないんだね」、私が昔感心したようにそう言ったことがある。「前しか見ないんだよ」、当たり前のように返された。

「14年前に赤也が生まれてきた奇跡に感謝しないとね」
「そーだなー、なんていうか14年前に俺が生まれたのは当然の出来事だったんだろうな、じゃなきゃに会えてねえし」

私と切原赤也はよく似ている。

表れ方が違うだけで、物事のとらえ方はよく似ているのだ。



私は自分を世界の外側に配置するけれど、赤也は自分を世界の中心に配置する。



受動的な感性と能動的な感性。



ぴったりと背中を合わせているような、そんな気分。



だけどたまには同じ目線に居られたら、と思う。
それは例えば、今日のように特別な日であればいい。

「出会った運命は、あたしたちが、自分で選んだのかもしれないね」

彼が笑った。
瞬く星の元で笑いあえる今に感謝と敬意を。



願わくばこれからも、


















少しでも照らせますように。