※幸村が病んでるので苦手な方は回れ右をお願いします。
私の書く幸村に慣れてる人以外は読まれない方が良いかと。うちの幸村さんの中でも割と気持ち悪い方です。




















「つまり俺もも真田のことが好きってことなんだろ」





幸村はふわりと笑った。その笑みはどちらかというと私を哀れんでいるようで、不愉快だった。

の気持ちはよくわかるよ。俺も真田が大好きだからね」

同じにしないでよ、と私が反論すれば、人を見下したような目で床の一点を見つめている。
放課後の教室は私と幸村の他には誰もいない。すぐ近くの校庭から聞こえてくる野球部の掛け声は、なんだかひどく非現実的に聞こえる。いつだってこの男と対峙しているときはこの世ではない空間にいるような気がするのだからたまらない。理由を深く考えたことはないけれど、どうせ原因は幸村にあるに違いない。人として何かが欠けているような気がするのだ。
同じにしないで、私がもう一度鋭く言うと、数秒間の間を置いて幸村は私に目を向けた。



「違うところがあるとすれば、は真田に抱かれたいと思っていて、俺にはそういった感情は微塵もないことだ」



どうしてこの男は人の感情を逆撫でするようなことしか言わないのだろうと本気で怒りを覚えた。

「・・・それは、あたしと幸村の問題ではなくて、生物学上の問題でしょ?」
「それは偏見だよ。恋愛に性別は関係ないだろ」
「じゃぁなに。幸村もそうだっていうわけ」
「人の話聞いてた?」

同じクラスの丸井が幸村を、一つ執着するものがあると厄介なんだ、と言っていたのを思い出す。
なるほど、確かにこれは厄介だ。
厄介なんてものじゃない。
どうしてよりによって真田なんだと思いいつつ、それは私も一緒かと苦笑した。



幸村は、真田が好きだという。



それは、恋愛感情ではないという。



じゃあなんなのかと問えば「言ったってにはわからないよ」。こっちだってそんな歪んだ狂った感情を理解するつもりはない。

「まぁが真田を好きだって言うなら止めはしないさ。告白でもなんでもすればいい」
「なんでそんなに勝ち誇ったような顔なのかまったく理解ができないんだけど」

そもそも、私は今日のこの時間に、真田を呼んだはずなのに、なぜかこいつがいた。幸村のロッカーと間違えて手紙を入れるわけがないから、この男が勝手に見たのだろうけれど。
ドライなように見せ掛けて自分の好きなものには随分と情熱を傾けるやつらしい。

はっきり言って異常だ。

幸村はどうやら私から興味を削がれたらしく、窓から校庭を見下ろしている。夏真っ盛りの放課後は、いくら夕方とは言え熱気が消えるわけではない。窓から入ってきた大きな熱風など気にとめることなく幸村はじっと見下ろしていた。視線の先は、テニスコート。「部活、行かなくて良いの?」私の声は彼に届くことなく消えた。否、届いてはいたのだろうけれど、綺麗に無視されたのだ。

ふと、幸村の顔をうかがうと、それはさながら修羅のように見えた。表情は普段と大差ないのだけれど彼が纏う雰囲気が冷たく、痛い。視線の先にはもちろん真田を含めたテニス部員がいるのだけれど。張り詰めたような空気に、私がどうすることもできないでいること約10分。
幸村はふいに顔を上げた。





「俺、入院するんだ」





あまりにも突拍子もない言葉であったために、私はそれを処理するのにいくらかの時間を必要とした。処理はできても彼がそんなことを私に告げた真意など理解できるわけもなく、従って私はなんだか間抜けな返事をすることしかできなかった。

「俺が入院している間にでも真田を落とせばいい」

彼にしては珍しく自虐的だった。その言い方は馬鹿にしているとも怒っているとも取ることができて、私は困惑した。
何故私が困惑した理由は、その感情が向けられた対象がどうやら私ではないらしいことにある。彼の言い方は、まるで真田を非難しているように聞こえた。

意味がわからない。

真田が、好きなんじゃなかったのか。

「俺が、病院のベッドの上で暇のあまり死にそうになっている時も、と真田は一緒にいるわけだ」
「・・・幸村、どうしたの。変だよ」

私は幸村とは残念ながら同じクラスになったことがないため、彼についてはほとんど無知と言っていい。では何故私が彼とこんな風に会話を繰り広げているのかというと、さっき述べた通りだ。

のこと、割と好きだよ」
「ほんと意味わかんない。なんなの?」

人のこと敵視したかと思いきや、今度は上辺だけの好意を示す。
人のことを見下したような目で見て人のことを勝手に哀れんで、本当に腹の立つ奴だけれど、案外脆い面があるんだなと少しだけ驚く。幸村を理解する気などこれっぽっちもないけれど、ただ一つ、真田をかけがえのない友人だと思っていることはわかった。歪んでそれはとてもわかりにくいけれど。





「本当だよ。だって、真田のこと、好きなんだろ?真田を好きになったんだ、そこだけは褒めてやりたいよ。」







   


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