「総司!!来年もまた枝垂桜見に行こうな!!」

そう、聞こえた気がした。










―序章:1―











「総司。、呼んでこい。」

そう言われて初めて自分が寝ていたことに気がついた。
辺りを見回すと、自分の記憶にあった空の色はもう既になく、茜色に染まっていた。

「土方サーン。私どれくらい寝てました?」

ゆっくりと重たい体を起こし、目を擦りながら、そう沖田は土方に訪ねてみた。

「・・・・・・寝てたのか。」
「・・・・・・・・土方サン、昼ご飯食べ終わってからずっと此処にいましたよねぇ?」
「・・・・・いいから呼んでこい。」

冷たくそう言い渡されて、沖田は仕方なく立ち上がった。

「土方サンも寝てたんですか。」
「・・・・いいからさっさと行ってこい!!」

そう言うと土方は沖田を部屋の外に放り出し、襖を勢いよく閉め切った。バシン!という音はもう既に聞きなれてしまったけれど、何度聞いても襖の生命の危険を感じるのは気のせいなんだろうか。

「えぇーっと。はどこにいるんですかねぇ・・・・。」

そのまま思いっきり背伸びをし、深呼吸をする。
そろそろ桜も満開に咲く頃で、人々の足はどことなく軽々しい。

「さて、を探しに行きますか。」










「あー誰だこんなもん置いてったのはぁー。」

新撰組、屯所。1人の少女が「こんなもん」に向かって文句を言っていた。
ばらばらに切られたその髪にしがみつくその物体と戦い始めてからそれなりの時間が過ぎたようだ。

「〜〜〜〜!!あぁもう!!痛いっつの!!豚のくせに!!」

あーほんと何これ、ってか何でこんなとこにいんだよ、などとぶつぶつ文句を言いながらしがみついているその小さな豚を引き剥がした。

「・・・・・!・・・・・お前あれか。沖田が飼ってるあいつらか。」

この豚と睨み合っている、少し、否、かなり口の悪い少女こそが沖田が探している である。
ばらばらだけれど腰まであるその長い髪。
今日はどうやら「仕事」があったらしく、高く上で一本に結い上げている。

「・・・・・!!いって!!何すんだよ!!あぁ〜もぅ!!」

先程苦労して引き離したあの豚が、また懲りもせず髪に飛びついてきた。
どうやらその髪にぶら下がっているのがいたく気に入ってしまったらしい。

「・・・・・・っ沖田総司ィイィィイーーーーー!!!」

ものすごい形相で、駈けていくその様は、まるでいつかの土方のようだったという。










サン??それならさっき沖田先生を探して駈けていってしまいましたよ?」

途中で通りすがった隊士に聞くとこんな答えが返ってきた。その隊士の若干怯えた表情を見ると、どうやら舞の怒りは半端なものではないらしい。

「・・・・・私を??」
「はい。ものすっごい形相でしたけど。何かあったんですか?」
「・・・・・あったんですかねぇ?」

ありがとうございました、にっこりと笑ってそう言った。

「これ以上探してもらちがあかないですねー・・・。」

戻りますか、そう言うと沖田はくるりときびすを返し、元来た道を戻り出した。










「沖田総司?来てへんけど。」
「あぁもーくそっ!あいつどこ行ったんだよ!!」

洗濯物を取り込んでいる歩のそばで、はまた格闘していた。

「土方副長んとことちゃう?」
「・・・・・あぁ!そうかも!!行ってみるわ!!」










「そんな怒んないでくださいよー本当に居なかったんですからぁ。」

見つけられなかった罰として書類整理を手伝わされている沖田は反省の色がまるで含まれていないような口ぶりでそう言った。結局あの後見つけられず、面倒くさくなって戻ってきてしまったのだが、そこで帰してくれるほど土方は甘くなく、ここでこうして書類整理を手伝わされているのである。

「なんでこんなことやんなきゃいけないんですかぁー。」
「いいから手を動かす!!」

だいたいですねー、沖田がそう反抗しようとしたその時。


「沖田総司イィィィイィイーーーーー!!」


ものすごい勢いで、ふすまが開いた。

「あ、来ましたよ、土方サン。」










「サイゾーに罪はないじゃないですか。」
「大ありだっつの!!」

が土方から仕事の依頼を請け、部屋から出たあとの光景である。

「ったく。そんなぶら下がりたいなら沖田の髪にぶら下がってろっつの!!」

サイゾーと呼ばれたその豚が先程までぶらさがっていたせいで乱れてしまった髪を結び直しながらは言う。
空はすっかり暗くなり、星が輝いていた。

また仕事ですか?」
「そー。今回はススムと一緒だけどなー。」





「気をつけて。」





「はいよ。」










 、18歳、♀。新撰組・監察方所属。











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08年06月16日 修正

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