「あぁ・・・!」 最近、風紀委員副委員長の様子がおかしいと専らの噂だった。 鳥籠の説明書 の通う並盛中学校には、所謂番長のような存在がいる。力でねじ伏せるような人でありながら、風紀委員長を務める男だ。秩序も何もあったものではない。 しかしそれでもそれなりに統制が取れているのは、そんな風紀委員長の存在があったからである。畏怖の念とはよく言ったものだ。彼があるけば旧約聖書のモーゼの如く道が開け、彼の通る道には塵一つ残らない。 彼の存在があってこその力による秩序であったのに。 「何故今日も休みなんだ!」 だん!と廊下の壁を叩きつける風紀委員副委員長草壁。その音にめいっぱい不機嫌そうな顔をしながらは携帯電話を取り出した。 委員長――雲雀恭弥が姿を消して、本日でちょうど一週間である。 「ったくどこほっつき歩いてんのよ」 携帯電話の画面には一枚の画像が浮かんでいる。 ひたすらに広がる草原、青い空。 「最近委員長は一体どこで何をしておられるのか!」 盛大に嘆きながら廊下にしゃがみこんだ草壁を、上から見下ろす体勢となったは、彼に目線を合わせるために、自身も座り込んだ。「家庭教師ができたらしいよ」がそう言うと、草壁はいつになく間抜け面で驚いた。ピロリン、しっかり写真に収めると、それを迷うことなく送信する。宛先、雲雀恭弥。件名、本日の草壁。本文、無し。 と、雲雀恭弥が出会ったのは、お互いまだ言葉さえも認識できていないような遠い昔――であるはずもなく。ごくごく最近のことである。 は、あまり学校に来ていない生徒だった。出席日数をしっかりと計算して学校にやってくるため、留年こそしないものの、意欲的な生徒だとは言えない。 そんな生活を一年の始めから実践していたのだから、当然、クラスでは浮いていた。友達がいないわけではないものの、もともとそういう性分なのか、一人でいることが多い。 雲雀恭弥も基本的に群れるのが嫌いなのだ。言わずもがな、彼らは同じ空間にいることが多かった。 一緒にいるわけじゃぁない。ただ、同じ場所にいるのだ。 誰もいない資料室然り、屋上然り、図書室の一角然り。 行く先々にいるを雲雀がどう思ったのかは知らないが、とりあえず排除しようとは思わなかったらしい。果ては「応接室来れば」。 そんなこんなでが応接室に六回目にお邪魔していた時のことだった。 その日、雲雀恭弥は珍しく1〜5限まで授業に参加していたため、が彼と会うことはなかった。もちろんはそれを知っていて、応接室に向かったのだ。「あいつのいない応接室で一日過ごすっていうの、やってみたかったんだよねー」、嬉々として草壁に話していた。 主人のいない、一中学校に似付かわしくない部屋の隅で、特にやることもなくぼんやりと雲雀が残したらしい、落書き(というにはあまりにも可愛くない内容ではあったが)を見ていたら、 「恭弥ー!!!!」 と、叫びながら、一人の男が入ってきた。ドアからではない。窓だ。 しゃがみこんでいたは、自然、上を見上げる形になり。入ってきた侵入者はぐるりと一周部屋を見渡して、最後にをぴたりと捉えた。沈黙、約10秒。 「・・・・恭、弥?」 「んなわけないでしょう。その目は何のためについてるの」 「ぐは、何かひどいこと言われてるよなぁ!?」 とんでもないことを発言した侵入者は、次の瞬間、何もないのにすっ転ぶ。 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・えと、ここ突っ込んで欲しかったかなー、とか」 思ったり、と床に伸びた彼はくぐもった声で言った。何なんだろうこの体張って生きていそうな生き物は、は身勝手に割と失礼なことを考えながら、とりあえず手を差し伸べる。一瞬彼は大きく目を見開いて、それから嬉しそうに、笑った。綺麗な笑顔だった。 男の髪は、まごうことなき金髪で、純日本人ではないことくらい、一目でわかる。それでも彼の口から紡がれる日本語はとても流暢で、何だか変な感じがした。当てはまるべきではないところに、無理矢理ピースをはめ込んだような感じだ。 が何も言わずに彼を見つめていると、侵入者は咳払いを一つして、それから改まったように、 「恭弥がどこにいるか、知ってるか?」 とに尋ねた。教室で授業受けてますけど、が言うと彼は心底驚いて、でもどこか嬉しそうに、そうか、と言った。雲雀の性格を良く理解しているらしい。 「お前、恭弥の彼女?」 「本気で言ってるんですか、それ」 「はは、だよなぁ」 だってあいつがここに誰か入れるの、珍しいだろ。男はの斜め前にあるソファに腰を降ろす。じぃ、再びが彼を無遠慮に見つめると、彼は居心地が悪そうに肩を竦めた、「何だよ」。 「いや、あなた、雲雀の何ですか。雲雀のこと、恭弥とか呼んでるの、初めて見ました」 「あー・・・・んー、家庭教師、かな」 「は?あいつ勉強なんかすんの?」 「いや、戦いかた?」 「へえ」 無駄にリアルに雲雀専用の家庭教師っぽかった。 「最近、雲雀が委員会とか放置気味なの、あんたのせいですか」 非難したつもりはなかったのに、彼は慌てたようにこっちにも都合があるんだとかなんとか弁解をする。別に怒ってはいませんよ、が言うとまた嬉しそうに笑った。 「ま、授業受けてんなら、今日のところは退散するか」 邪魔したな、侵入者は入ってきたときと同じように窓からするりと抜け出すと、ふわりと地上へ降り立った。は見送ることもせずにただ離れた場所から窓を見つめている。それから呼吸5回分ほど時間を経て、男が外から何かを叫んだ。体育の授業の喧騒のせいで聞き取れない。は仕方無しに窓際まで近づいていく。 「俺、ディーノ。お前、名前は?」 侵入者改めディーノはわざわざ自分から名乗ってに名を尋ねたことから、何となくきちんとした教育をされてきたんだろうなと思った。「・・・・です」「ふうん、何かまた会いそうだからさ」それだけだった。 「雲雀に、メール送っておこーかな」 ぽつり、の呟きに草壁が反応する。お前委員長にメール送る権利なんか持ってやがるのかー!耳をつんざくような声に3メートルほど距離を取りながらは返事を返す。「だってあたし別に雲雀の子分じゃないし」、草壁がなんだか同情をさそうような哀れな顔をした。 「何をメールするんだ?」 「秘密」 宛先:雲雀恭弥 件名:無題 本文:そんなにディーノさん、好きなんだ? メールを開いて間髪を開けずに帰ると不機嫌に言う雲雀が安易に想像できて、は自然と口の端をあげた。 「大丈夫、そろそろ帰ってくるよ。っつか明日中に帰って来るんじゃないかな」 「・・・・お前、委員長の弱みとか握ってるんじゃないだろうな」 「まさか」 扱い方を、心得ているだけで。 END ++++++++++++++++++++++ 陽ちゃんへ 遅れてごめんなさいしかも雲雀出てきてないっていうね! しかも風紀委員副委員長が草壁なのか、っていうか草壁ってどういう人だっけ、ぐらい復活に関する記憶が怪しかったりするココでした。 キリリクありがとうございました! 08年03月16日 |