行きたいところがある、と雲雀が珍しく言うので、大人しく付いてきてみれば並中だった。そんな予感もしていたけれど、この男の学校好きには毎回驚かされる。こんなにも凶暴で手に負えない弟子だと言うのに、意外にも真面目だった。不思議である。群れるのが嫌いという割に、群れてばかりの少年少女しかいない学校が好きだという。 「俺小さい頃さ、物よりも願い事叶えて欲しいって思ってたんだよね」 寒い夜空の下で、大して見えない星を見上げるように学校の屋上に大きく寝転んで、ディーノは隣に座る雲雀に話かける。 ビルの明かりしか見えないはずの金網の向こう側をじっと見つめていた雲雀が、ちらりと視線だけ寄越した。 「何の話?」 「サンタクロース」 「物は溢れてたってこと?」 「ちげーよ・・・・なんでそうなった・・・・」 ふぅん、返事はそれだけだった。幼いディーノの願い事になど興味はわかないらしい。 「恭弥はなかったわけ?願い事」 「あったけど。願い事をお願いするのはクリスマスじゃなくて七夕」 「ああ、七月の」 日本の何に驚くかというと、その多神教ぶりだと思う。クリスマスに至っては、何の関係もない人たちまでもが騒いで街中がきらきらとし始めるのだから驚きを通り越して呆れてしまう。でも、そういうところも良いなと思った。良いなとディーノは思うのだけれど、どうも隣で済ました顔をする男が、一緒になって浮かれている様はあまり想像できない。 「仮にサンタクロースがいるとして、恭弥は今何が欲しい?」 「あなたが敵になりますように」 「・・・・願い事は七夕なんだろ」 「イタリアではお願いするんじゃないの?」 「だから、それはちっちゃい頃の俺の願望!」 勢い良く上体を起こすと、雲雀は驚いたように少し仰け反り、そうして意外なことに笑った。声をあげて笑ったわけではないけれど、何故か楽しそうに、笑った。 何が楽しいのだろう、とディーノは考えて、それからすぐに思い当ってため息をつく。きっと雲雀は、ディーノが敵になった姿を想像して、そして噛み殺すところまで行きついて、そして愉快になったのだろう。キンキンに冷え込んだ冷気が顔を叩いてひりひりするけれど、イタリアの冷えた夜よりは幾分かましだった。ミラノのあたりで張り込みをした夜を思い出すだけで全身が寒さを思い出して震える。 「別に今だってバトルしてやってんだろ・・・・」 雲雀の戦闘好きは筋金入りだ。幼い子供が好意を向ける時のような、純粋なそれだ。悪意がない分余計な企ても思惑もなくて、戦う分にはやりやすいけれど、その分容赦がない。 「それでも、敵意は感じられない、僕のこと、全力で倒そうって言う気、ないでしょ」 「んなことねーよ!お前が容赦ねえから俺だって全力だっつの」 「それじゃ足りない」 今度は不機嫌になった。口を結んで、再び外へ視線をふいと遣ってしまう。 敵になることなど、あるのだろうか、と思う。 敵対することはあったとしても、少なくとも憎悪の対象になることなど、きっとない。雲雀が、どうしようもなくディーノたちを絶望させるような裏切りをするならば、もしかしたらありえなくもないかもしれないけれど、この男に限ってそれは無い。理由が戦いたい、というそんな純粋なものである限り、憎むことなどできないに違いない。 そして、残念なことに師弟関係なのだ。 多分、雲雀にそんな大それた考えはないだろうけれど、ディーノにしてみれば、雲雀は間違うことなき弟子である。不愉快そうにみるみるうちに表情を変える様が容易に想像できるので、絶対に言わないけれど。 「あーあ、敵として目の前に現れてくれればよかったのに」 当たり前のような顔をしてこんな残酷な台詞を吐く弟子に、ディーノはハイハイすみませんねと適当に答えてやった。 |
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