何でこんな状況になったんだっけ。

獄寺隼人はいまいち今の状況がつかみ切れていない頭をできるかぎり高速に回転させながら、目の前、というか目の下の男を睨んでいた。










あぁ、10代目からお呼びがかかるなんて俺もとうとう右腕としての実力が買われたんだろうか、何だろう、何か任務でも言われるんだろうか!

なんてことを思いながら獄寺隼人は沢田綱吉に指定された場所へと向かっていた。そこはどうやら廃墟と化したビルのようで、入り口には立ち入り禁止のテープが貼られている。それをかるく蹴破りながら中へと進む。快晴の昼間だと言うのに、ビルの中は薄暗く、余所見をしていればすぐに何かに激突してしまいそうだった。
ほこりのたまった階段を一段一段と踏みしめながら登っていく。

こんなところに呼び出すなんて、これは10代目の身に何かあったのかもしれない!ゆっくり歩いている場合じゃねぇよ俺!

階段を3段飛ばしで登っていく。
指定された場所は7階の右から3番目の扉。がちゃん、と盛大な音を立てながらドアを開けるとそこには綱吉はいなかった。

代わりに。



「あーハヤトだ、元気―?」



できれば二度と拝みたくなかった、自称王子の金髪男が部屋の真ん中で胡坐をかいて座っていた。

「てめ・・・・・・・!!!!!何でここにいる!?10代目をどこにやった!俺は10代目から言われてここに来たんだ!」

ダイナマイトを装着しながら、既に獄寺は走り出していた。
自分の主人の安全を確認する前に喧嘩を吹っかけてしまうのが、彼の悪い癖である。

「んー?ハヤトの主人?さっき出てったよ」

何怒ってんの、とベルフェゴールは心底不思議そうに獄寺を見る。
その毒気の抜かれるようなやる気のない声と返事に、獄寺は思わず動きを止めた。この男、相変わらず意味がわからない。

「・・・・・・・どういう意味だ」

凄みを利かせようとできるだけ低い声でそう告げる。
しかし言われたベルフェゴール本人は、まったく気にしないとでも言うように、側にあったソファに腰掛けた(掃除したんだかなんだか知らないがこの部屋はほこりがない)。

「あいつの役目は終わったから?俺がハヤトに会いたいって言ったらここに連れてきてくれたんだー」

うしし、沢田綱吉、意外といい奴、だから今日は殺さない。

どうやら上機嫌らしい金髪は、愉快そうに笑いながらそう言った。
反撃する気さえも失せてきて(あの獄寺隼人が!)、スモーキンボムこと獄寺隼人はぽかんとそこに立ち尽くした。
何つったってんの?とベルフェゴールは不思議そうに首をかしげる。
んなことしても可愛くもなんともねぇよ、と突っ込みたいのは山々だったが、面倒なのでそのまま放っておいた。

10代目がいない。

獄寺隼人はそう、考える。それはつまり、イコール。



「帰る」



くるりと向きを変えると獄寺はドアに向かって歩き出した。
昨日買ったばかりの靴が少しほこりにまみれているのが目に入り、最後にドアのふちでそれを落とそうと足をかけた瞬間だった。

バタン!

とドアが閉められた。
キラリ、と何かが光っている。
考えるまでもなく答えは明白で。
リング争奪戦で獄寺が嫌というほどお世話になった、あのワイヤーらしき糸だった。どうやらこれを使ってドアを閉めたらしい。

「な・・・!に!するんだよてめーは!爆破させられたいのか!!」

何が起こったのか理解するまでに少し時間がかかり、獄寺は思わず咥えていた煙草を床にぽとりと落下させた。
それから我に返ったように、全力で振り返る。

「帰っちゃダメ。俺、せっかく会いに来たのにまったく意味ねぇじゃん」
「意味わかんねぇよ!大体なんで会いにきたんだ!?リングならやんねぇぞ!」
「いらないよそんなの。ボスがなきゃ意味ないし。だから今日は、」

足を思いっきり上に上げ、ベルフェゴールはがたんとソファから立ち上がった。すすす、となんとも形容しがたい不思議な動きで獄寺の元へ詰め寄ってくる。
反射的に身構えた。





「ただハヤトに会いにきただけ」





に、と元々大きな口をさらに横にめいっぱい広げてベルフェゴールは笑った。
言われた言葉の意味を獄寺が受け入れるのに10秒かかり、さらに理解するのにプラス8秒を必要とした。
プスン、彼の思考は考えることをやめたらしい。
面倒くさそうに頭をがしがしと乱暴に掻きあげる。

「で?何しにきた?」
「だからハヤトに会いに」
「へぇ。で、用件はなんだ」
「だからハヤトに会うことが用件だってさっきから言ってんじゃん、聞いてた?」

いよいよ獄寺の脳は完全にフリーズしたらしく、はぁ!?と大きな声でそう言ったきり動かなくなった。
アッシュグレイのそれなりに長さのある髪を中途半端に上げた形で止まっている。

「まず、座れば」

はいはいはーい、動かない獄寺の背中を無理矢理押してソファまで歩かせるとベルフェゴールは満足したようにそこに座らせた。獄寺の頭をぽんぽんと嬉しそうに何度も叩く。
彼はソファの後ろに回り込むと、あ、と思い出したように小さく声を出す。
そこでやっと獄寺隼人は動くことを再会したらしい。
あ?と不機嫌そうな顔で後ろを振り返った。

「お前、ほんと何したいわけ。意味わかんね」
「うん?ハヤトは俺に会いたくなかった?」
「全然まったくこれっぽっちも」

は、と馬鹿にしたように笑いながら獄寺は言う。
それでも本当に今回はベルフェゴールが無害だと判断したらしく、煙草を一本取り出すと、小さな緑のライターでそれに日を付けた。
で?何か言いかけなかったか?と先ほどの続きを彼は促す。
敵対していたマフィアが目の前にありながらも、攻撃をやめてしまうだなんて獄寺らしくなかったけれど、どうやら今日は完全にベルフェゴールに飲まれたらしかった。

「ハヤト、何歳?」

何の脈絡も前振りもなしで、唐突にそんな話題を振ってくるベルフェゴールに獄寺は再び、はぁ!?と大きな声を出した。そんなん知ってどうすんだよ、と怪訝そうに聞いても、王子の質問には答えるべし、とかなんとかわけのわからない答えしか返ってこない。面倒くさそうにため息をつきながら、獄寺は質問に答えるべく口を開く。

「14だけど」
「14!!!!!!」

うは!とわけのわからない声を発するベルフェゴール。いちいちつっこむのも億劫になって、獄寺は無視することに決めた。
窓の外に目をやると、先ほどよりも雲行きが怪しくなっていた。
気持ちの良いとは言えない灰色の雲が空を覆い始めている。

雨が降る前に帰らねぇと。

そう思ってソファから立ち上がろうと手をついたところで。

「うわそれってどうなの!?」

ぐるりと右手で首の辺りを押さえ込まれ、さらに腕の下からにょきりとベルフェゴールの両足が生えてくる。完全に身動きが取れなくなった。
またしても帰りを邪魔されたらしい。

「んっとに何がしてーんだてめーはよ!!!!!」

振り払おうと動いて見るものの、意外とガッチリと固定されていた。後ろの彼はまったく動く気配がない。

「え、何チュウガクセーって14とかなの?何それ若!」
「・・・・・・・っ!!!てめ!マジで果てろ!!!!」

しかし相変わらず動くことは叶わず。
こいつこんな細腕のどこにそんな力があんだ、と獄寺はいらいらする一方で少しだけ驚いた。
どちらかと言えば武器に頼る派である獄寺自身も人のことを言えた義理ではないが。

「それってアンビリーバボー。それって俺悪い大人?」
「・・・・・・・てめーは今から何する気なんだ?」
「ん?それ言うの?R-15的な?」
「失せろ果てろ死ねそんでもって二度と俺の前に現れんな」

えーひどいー、じゃぁいーやちょっと体勢変えよう。

人の話などまるで聞いてなかったかのような口調とノリでベルフェゴールはそう言うと、急に獄寺からその両手と両足を離してひょこりと下に飛び降りた。
その反動を利用してそのままソファへ獄寺を沈めるようにして押し倒す。

「いって!てめ・・・・さっきから一体何がし、」
「はいはいそこで座ってて。うん。上半身起こして楽にしててね」

がばりと起き上がった獄寺の上にごろりとベルフェゴールは寝転んだ。
おそらくそれは。
いわゆる膝枕というもので。

殴ってやりたい。

獄寺は真剣にそう考えた。正直、この自称王子が何をしたいのかいまいちわからない。

「今日ボスいないからさー」

聞いてもいないのに膝の上の口はそんなことを発した。

「だから、ちょっとだけハヤトに会いに来たんだよ」

ハヤトのご主人様もさっさと行っちゃったしね。寂しいね。俺は王子だから関係ないけど。

わけのわからないことを勝手にまくしたてる王子を、獄寺隼人はしばらくこの体勢のまま放っておこうと心に決めた。





動かないでいるのは、ほんの少しだけ同属嫌悪のようなものが起こったから。





居るべき人がいない







   
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獄寺→綱吉・ベル→ザン
甘えるベルが書きたかっただけです。ってか甘い。私にしては甘い。
コカインさまのmemoの素晴らしき絵を見て思わず書いてみたものでした・・・。ごめんなさい(土下座)
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