跳ね馬ディーノ。
本日最大のピンチを迎えていた。

「・・・・・・・・きょー、や、さん?」
「何。」
「いや、お前・・・・何してんの?」
「昼食とってるんだけど、わかんない?」
「・・・・・いやいやいや1分前くらいまで俺とお前修行してたよ、な?」
「だから?だって今お昼時だし。」

空には太陽がさんさんと輝いている。
周りは見渡す限りの大草原。少し向こう側の川のせせらぎが聞こえてきそうなほど、静かで、のどかな午後のひととき。小鳥はさえずり、花々も咲き乱れ、まさに絵に描いた楽園のような場所だ。
目の前にはサンドウィッチを頬張る、少年の姿。

微笑ましい光景、

なんて言えるはずもなく。
あの、誰もが恐れる並盛中風紀委員長、雲雀恭弥がサンドウィッチを黙々と頬張る姿を見て、微笑ましいなんて言える者がいるのであれば、是非ともお目にかかりたい。
言わせていただこう。


不気味である。


「・・・・・・・・・・えーとすいません誰かいませんか。」
「頭大丈夫?意味ないことばっか言ってると噛み殺すよ。」
「お前に殺されるほど俺は弱くねーからその心配はいらないとして、え、ちょっとほんと、誰か。」

そこまで言って、突然口の中にサンドウィッチを詰め込まれた。
さらにもう一個。もう一つ追加。はい、もう一個。

「・・・・!!」
「黙ってないとほんとに噛み殺すから。」

口の中が埋まればしゃべれなくなると判断したらしい雲雀はディーノの口に入る限り詰めようとする。
6個目に雲雀が手を伸ばした所でディーノは雲雀から10mほど離れるという手段を取った。何か言おうにも詰め込まれた5個のサンドウィッチが邪魔をして言葉が出ない。
かつてないほどの速さでその大量なる障害物を飲み込み、ディーノは大きく深呼吸をすると、

「・・・〜〜〜〜〜〜っお前なぁ!!何すんだよいきなり!!殴んぞ!!」

切れた。

「うるさいよ人の食事中に。」
「修行中に食い出すお前が悪い!!」
「食べちゃだめなんて言わなかったじゃん。」

さらり、と言う。
横に並べてある今食べたサンドウィッチが入っていた箱よりもひと回り大きなバスケットを引き寄せて、片手でそれを器用に開けた。また、サンドウィッチ。

「リボーン・・・・・こいつただの問題児じゃないんですけどどうすればいいの俺。」

いない相手に向かって呟いてみても当然返事など返ってくるわけもなく。
ちらり、と雲雀を見てみるものの、一向に食事をやめるそぶりを見せない。彼が食べる所を見ているのもそれはそれで楽しいのだが、5秒以上見ているとトンファーかサンドウィッチが飛んできそうなので、そうしているわけにもいかず、5mほど離れた場所で休憩をしていることにした。
ディーノは疑問の眼差しを雲雀に向ける。
突然サンドウィッチを食べ出したこともそうなのだが、今、ディーノにとっての一番の謎は、今までそれをどこに置いていたのか、だ。朝待ち合わせした時は何も持っていなかったはずだ。しかもここは修行で容赦なしに踏み荒らさせた無惨な草原が広がっている。草の高さも二人のふくらはぎくらいで、問題の物が入っていたバスケットが埋まってしまうほどの高さではない。修行の場から離れているわけでもないのだ。あれば気付かないはずがない。
果たしてあれは。

「・・・・・・何?」

いつのまにか5秒以上見ていたらしい。雲雀が怪訝そうな顔で振り向きながらそう言った。

「あれ、何も飛んでこない。・・て!別に投げて欲しいわけじゃなく!しまえっつの!」

仕込みトンファーをサンドウィッチを握ってないほうの手でするりと取り出し、狙いを定めた雲雀に、ディーノは慌てて訂正の言葉を述べた。

「で?何見てたの。」
「いや、お前、それどこから召喚したわけ?」
「四次元ポケット。」
「・・・・似合わない台詞吐くなよ・・・・・。」
「じゃぁどこでも風呂敷。」
「変わんねぇよ!」

天下の雲雀恭弥でも国民的アニメは見るらしい。
ついでに言うとイタリアの一ファミリーのボスも知っているほど、日本のアニメは世界に浸透中だ。
結局答えを聞き出すことはできず、ディーノはその場に寝転がった。
風がちょうど心地よい。
鼻をつく、二人の血の臭いがなければさらに良いのだが、こればかりはどうすることもできないので、諦めることにした。
あと少しで眠ってしまいそうだ。
このまま昼寝でもしてしまおうか、そうディーノは考えた。



「うおわ!!!!っぶねーな!!!!」



トンファーが飛んできた。

昼寝の野望が一瞬にして砕け散る。

仰向けに寝転がるディーノの顔にすぅっと黒い影が落ちてくる。
激しく動揺する心臓を落ち着かせようと服の上から左胸を押さえながら上を見た。

「食べ終わった。」

食事を終えたらしい雲雀恭弥が見下ろしていた。
少しは幸せそうな顔をしているのかと思ったら、案の定そんなことがあるはずもなく、いつもと変わらないあまり表情の無い顔をしていた。

「修行、するんでしょ。」

淡々と言う。
そう見せ掛けてその言葉の裏にある熱意にディーノは苦笑いをした。
今のトンファーだって本気で狙っていたに違い無い。もしここにいるのがボンゴレファミリー10代目候補沢田綱吉だったならば確実に頭に当たり、骨が砕けてしまっただろう。その前に自称彼の右腕あたりが止めに入るに違い無いが。
ゆっくりと体を起こしてから雲雀の方へ向き直った。

「んーそうしたいのは山々なんだけどな、恭弥、お前俺の武器踏んでる。」
「無しでやりなよ。」
「お前それで俺に勝って満足か?」
「死んでくれればそれで。」
「すいませんどいてください!」

結局、また好きにさせちまったなー、がしがしと頭を掻きながらディーノは己の行動に呆れ、そして笑っていた。自分よりも大分幼い子供に、振り回されている。仮にも一ファミリーのボスが。今日の帰りにまた、ロマーリオ辺りにからかわれるのが目に見えて、少し不愉快になった。

ツナといる時はどちらかというと俺が振り回す立場なのに。

「あー、エンツィオより手懐けんのに苦労すっかもな・・・。」

振った鞭が綺麗な曲線を描いて、修行が再開した。





3時間後、委員会の時間だから、という理由で、また修行を中断されるとも知らずに。






神様を知らない子供






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