獄寺隼人がいない勉強会が果たしてモノになるのかどうか。
にこにこと、楽しそうな顔でたまには俺らだけで勉強頑張ってみようぜ、とかなんとか抜かした山本武という少年を、綱吉はまるで未知の生物を見るかのような目で見つめていた。
くるくると器用に補習のプリントを細く巻く。器用だなー、とやたら感心した声でそう言われて、綱吉は、はぁ、と一言それだけ言った。

「山本。」

真剣に、あくまで真面目な様子で綱吉は言う。

「獄寺くんがいないと終わらないと思うんだよね。」
「えー?そんなことないだろ。だーいじょぶだーいじょぶ、教科書見りゃどーにかなるって!」
「俺はなんないのー!!」

からからと豪快に笑う山本を見て、綱吉は思わず机に手を叩きつけた。

「山本が自分で解きたいなら勝手に解いてればいいじゃん!とにかく獄寺くんも呼ぶからね!」
「いやダメ。」
「禁止!?なんで!?」
「たまには俺らだけでやろうって言ってんじゃん。獄寺にも迷惑かけてばっかだしさ、な?」

最もな意見を山本は言った。確かに、確かに補習の度に教えてもらっているのだ、迷惑がかかっているに違いない。
普通ならば。

―っつか獄寺くんはものすごく不本意だけど自称俺の右腕なわけだから俺の役にたってなんぼだろ!?―

沢田綱吉は本人の意志はともかくとして、マフィアの一家、ボンゴレファミリーの時期ボス候補である。部下について、とてもよく理解しているようだ。

補習常連組という親近感からか、綱吉と山本はよくつるむようになった。某家庭教師に言わせれば、ファミリーなんだから当然だろ、らしいのだが綱吉は断固否定している。そんな友人は学校にはいらない。なら獄寺はどうなんだというつっこみが自ずから出てくるが、そこはできれば気付かなかったフリをしていただきたい。そうでなければ綱吉は友達を一人失うからである。
さて、話を山本武の話に戻そう。
彼は綱吉と同じ補習組と言っても、少し違うタイプだった。綱吉は本当に勉強ができないのだが、彼の場合、できないというよりはやらないに等しかった。部活馬鹿で、そんなものに時間を割いている暇があれば野球をやっていたいからなのかもしれない。ようは言ってしまえば、彼はやればできるのである。
補習の宿題を天才児、獄寺隼人に教えてもらっている時だってそうなのだ。綱吉が一人苦戦している中、一度説明を聞いただけでさらりと解いてしまう。
よって。

「山本と俺は違うんだってばー!!!!」

ゆえに。

「俺は教科書だけじゃだめなのー!!獄寺くんがいてくれたって全部はわからないのにっ!!」

半泣き半切れ状態で綱吉は言った。現在は金曜日の放課後で、宿題の提出期限は月曜日の放課後である。土日を挟めばどうにかなりそうなものだが、綱吉にはそんなことは関係ないらしい。
ちなみに今回の補習は進級がかかっている。なおさら、失敗(?)は許されない。獄寺隼人という戦力は絶対不可欠なのである。

「・・・じゃあわかった。俺は抜きでいいよ。」

いや、それもどうなの?

「・・・そこまで?」
「んー。」
「・・・・・・・・・・・・山本、獄寺くんと喧嘩しただろ。」

思いついたことを口に出して言ってみれば案の定。山本武は横を向いて口を閉ざす。
そもそも、獄寺抜きで、と山本が言った時点でおかしかったのだ。だってありえない。いつだって平和共存主義(少なくとも綱吉にはそう見える)の山本が、常に三人でつるんでいるこのメンバーから、たとえそれがどんな理由であろうと一人省くということが。

―喧嘩、いいなぁ。―

ボンゴレ十代目は少しおかしな考えを巡らせていた。今までの彼のお友達と言えば綱吉を軽くパシリに使うような連中ばかりだったので、喧嘩などしたことがなかったのだ。綱吉は本気で喧嘩するほど仲が良いという言葉を信じている。
だからまぁ喧嘩したままでもいいかな、なんてことを考えてみたりしたが、山本がいなくなることで獄寺が綱吉につきっきりになるのだけは避けたかった。
仕方がない。

「なんだかよくわからないけどね、うん。なんていうかやっぱり喧嘩はよくないと思うわけ。ね?獄寺くんがむすっとしてるのは見慣れてるけど山本がそうなるのはちょっと勘弁って感じだし。」

自分勝手な解釈をスラスラと述べた。
獄寺にしてみれば予想外の綱吉の言葉である。綱吉に笑顔を振りまいていても山本に敵意を剥き出しにしていれば意味がなかったらしい。

「ってわけで、ね。獄寺くん、もうすぐ職員室から帰ってくるから仲直りしよう!」
「ツナ、だから、別に俺抜きでやればいいじゃんって。な?」
「・・・・・だって、やっぱ三人の方が楽しい、じゃん。なんでそこまでして嫌がるわけ!?」
「俺が嫌なわけじゃなくて、だって獄寺は俺といると不機嫌になるだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

綱吉は再び未知の生物を見るような目で山本を見た。獄寺隼人という人間が山本に対して負のオーラを放つなんていうのは今更珍しいことでもなんでもないのだ。むしろ二人が出会ってから穏やかな雰囲気で和気靄々、なんてことになったことは、少なくとも綱吉の記憶にはない。
なのに。

「え、何その今更な意見。」
「・・・・・うん、まあ、そうだよな。うん。でも、とにかく俺は今極力獄寺と関わらないようにしてるから?」

首をかしげて聞かれた。
聞かれても、困る。

「うん、だからツナは気にすんなよ。俺が勝手に意地になってるだけだからさ。」

いつもの笑顔で山本はそう言う。
綱吉は嫌な予感がした。なんだかよくわからないがとにかく嫌な予感がした。
山本は何か大きく間違ったことをしてみようと心がけているような気がしたからである。


「・・・・・押してだめなら引いてみろ?」


「そう!それだな!」
「だな!じゃねーーー!!!」

それは好きな子に振り向いて欲しい時にやることで!と綱吉が力説すれば、知ってるよ、と返された。


とりあえず、補習の宿題は三浦ハルに見てもらうことを、綱吉は心の中で決意した。






非常口を探せ






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