齢若干十代前半にして日本でも屈指の財閥と言える家の当主を務めるは当然(と本人は思っている)のことながら学校になど行くわけもなく、つまり言い換えれば所謂お友達というものがほとんどいない。屋敷に仕える者たちを友達と呼べばそれなりにいると言えるかもしれないが、普通主従関係にあるものたちを友達とは呼ばない。それじゃぁ一体誰がお友達に分類されるのかといえば、それはもちろん「そういう」人たちである。 は暇を持て余していた。 丘にそびえ立つ大きな洋館の中で1人特に何をするわけでもなく過ごさなければならない日常に生まれて始めて疑問を抱いた。あれあたしってばこんなとこで何してるのかしら、そんな感じだ。執事を呼び出して「ねー何か面白いことやってよ」と述べてみたら「俺たちはお前と違って仕事があるの、忙しいの」と言われてしまった。そうか執事って暇ではないのか、と始めて知ったは仕方がないので使用人の誰かと絡もうと使用人部屋まで始めて1人で足を運んだ、「お嬢さん何やってんですかこんなとこ来るような価値ありませんよさぁお部屋にお戻りくださいっていうかいいから早く帰れ」、と笑顔が素敵なほとんどと年齢の変わらないような少年に追い出された。料理長に、暇だからあたしも何か作る、と下から上目遣いで攻めてみても効果なし、「さま、ここは私におまかせいただければそれで良いのです。さぁ」とまたしても追い出される。 は暇を持て余していた。 屋敷の人間はどうやら忙しいらしくのことなどまったく構ってくれない。本来の相手をすることが仕事のはずの執事の片方も今日ばかりは別件で動かなくてはならないようだった。 仕方が無い。 とは思った。屋敷の人間は忙しいと言うのならば、外から呼び出してしまえばいい。しかし最近知り合いになった妖怪退治の少年も怪力少年も確か学校というものに通っていて今の時間は会えないはずだということはもきちんと理解していた。一般庶民はそう簡単に学校を休めるようなものではないらしいということを執事の片割れから聞いたのだった。 それならば。 と、いう色々な経緯やら思考回路を経た結果。 「いらっしゃい社長」 社長が呼び出された。 社長というのはもちろん一般にいう会社のトップのことであり、今回可哀相なことにの遊び相手として召喚されたのもその社長の1人だった。 見た目は中学生くらいにしか見えないその彼は、紛れも無いとある会社の社長であり、かつの数少ない友達のうちの1人だった。 「相変わらず不機嫌そうな顔してるね、海馬」 が言うと、海馬と呼ばれた少年は心底嫌そうに顔を歪めた。 「貴様は一体俺を何だと思ってるんだ?返答次第では今後一切貴様との関係を絶ってやるぞ」 「友達?」 「帰る」 くるりとまるでマントのようによく広がるコートを翻しながら扉の向こうへと消えていこうとする海馬をは引き止めた。「かいばぁー」、呼べばぴたりと動きを止める。 「大体あたしとの関係経って困るのは海馬じゃないの?家との関係だ絶たれますよお兄さん」 ソファに肘をかけながらそんなことを言ったに、海馬はますます顔を歪めた。肯定も否定もしないところを見ると、どうやら図星なのだろう。座れば、が勧めた椅子に、海馬は腰を降ろさなかった。 と海馬瀬人は、それなりに付き合いの長い者同士だった。 財産の量から考えれば彼らに繋がりがあってもおかしくはないのだけれど、海馬ととでは育った環境が如何せん違いすぎた。海馬は、ぬくぬくと温室で育ち続けたなど大嫌いであるし、はで、人を馬鹿にしたような態度の海馬が大嫌いであった。海馬は経歴が経歴なだけあって、色々と複雑な家庭環境であるからだろうか、とにかくを毛嫌いしていたのだが、跡継ぎ闘争に巻き込まれてそれでもなおその座を父親から受け継いだに、少しだけ考えを改めたようであった。 2人の関係を友達などという生易しいもので述べてしまうのはいささか勿体無い気もしないでもないが、が言うのだからまあいいのだろう。も海馬も世間とはズレにズレている存在である。友達の定義が多少おかしくても問題ない、のかもしれない。 だがしかし。 「貴様の友達になった記憶は欠片ほどもないがな」 海馬にとっては友達ではないらしい。 「いいじゃん、どうせ海馬だって友達なんていないでしょ。あたしを友達ってことにしときなよ」 「何の利益もない」 「利益とかそういうので人を判断しないー!」 海馬は扉に背を預けながら真っ白なワンピースに身を包んだに目を向けた。 同じような立場にあるもの同士であっても思考回路までが似ることはないらしい。学校へも行かず極端に狭い箱の中で生きるに、海馬は憐れみさえも感じる反面彼女はそれでいいのだとも思う。弟もこんな風に生きていてくれればいいのに、とそんなことを考えてそれをすぐに打ち消した。 「執事が見当たらないが」 「今日忙しいんだって」 だから海馬をはるばる呼び出したんだよ、と当たり前のようにさらっと言ってのけるに、海馬はもう反論するのさえ面倒だった。「もしかして学校行ってた?」、かちゃかちゃと音を立てながら用意されていたティーセットを運び出す。行ってないと短く告げるとそっかと興味なさそうな声が返ってきた。ざらざらと人の意見も聞かずに勝手に大量な砂糖を紅茶の中に入れていくの姿を見て、海馬は絶対にあの紅茶に口を付けまいと心に誓った。ざらざら、心なしか紅茶がどろりとした液状に変わったように思えた。 「眠くなっちゃったから、寝てもいい?」 「・・・呼び出しておいて何をほざいてるんだ?」 「うん、だから海馬も一緒に寝よう」 「寝ない」 「えー!」 昔は一緒に寝たじゃん!頬を膨らませてそういうに、昔の話だと切って捨てた。 「俺たちのような立場は、友達なんて、いらないだろう」 「どうして、」 「死ぬぞ」 しん、と静まり返った部屋の中に響く衣擦れの音は、ひどく不快な音だった。 馴れ合いが死を招くってことか、とが呟いても、海馬は返事などしなかった。 「海馬、あと少しそこに居て。あたしが寝たら帰っていいから」 そういったの表情は無表情だった。 おやすみなさいと告げたが眠るまで10分、起きるまで3時間と24分。 海馬が帰ったのは3時間と21分後だった。 |
END ++++++++++++++++++++++++++++++++++ 海馬のキャラがわかりませんでしたすみませんでした記憶は曖昧でしたごめんなさいしかも遅れてごめんなさい。 海馬はやっぱり社長でした。最初屋敷の使用人の1人にしようと思ってたのに無理でした。 09年02月15日再録 |