「さすが柾輝よね・・・・学年のアイドルと付き合うだなんて・・・・でも柾輝なら許す!」 「許せるわけねーだろ!なんだよありかよっていうかなんで女子は柾輝が良いっていうんだなんだ何が足りないんだ俺たちには!」 「顔?」 「てめーぶん殴るぞ」 「アホ、顔なら翼やろ、あーもーわからん!」 「いや、ほらあれだよ、翼と柾輝ならそりゃ翼の方が顔はいいけどあんたたちと柾輝なら圧倒的に柾輝じゃん?」 「圧倒的!?」 椎名翼が部室へ顔を出すと、隅っこの方で何やら会議めいたものを展開しているように見える4人組がいた。、畑五助、畑六助、井上直樹である。椎名が部室に入ってきたことにも気が付かないようで、顔を突き合わせて真剣に議論しているようだった。夏の大会も近い今日、珍しく頭を使って作戦会議だろうか、と椎名は少しばかり期待を寄せて4人に近づいていく。 と、聞こえてきた内容は、ここ数日飛葉中でもちきりの噂話で。 「くっだらねー」 聞こえるように上から大きな声で椎名が言ってやれば、びくりと肩を揺らせて4人が同時に振り返った。椎名の姿を認めて、あからさまに安堵の表情を見せる。 「んだよ翼かよー、びびった柾輝かと思った」 「柾輝に聞かれたって別に同じこと思って興味示さないと思うけどね」 会話に参加する気など毛頭ない椎名は、部室の真ん中のパイプ椅子に腰かけると、部誌を取り出して今日のメニューの確認を始める。監督の西園寺は、私用で今日は来られないと事前に連絡を受けている。練習の始まりから終わりまで、椎名が仕切らなければならない。西園寺が来たところで中心となるのは椎名に代わりはないのだけれど、やはり彼女がいるかいないかは大きい。 「まあ、ひーちゃんは見るからに守ってあげたい系で、もうなんていうか女子の私から見たって可愛さの塊だもんね、いいなあ」 「何嫉妬?」 「うん、柾輝にね」 「柾輝かよ!」 椎名が一人増えたところで、彼らの話が止むことはない。椎名がこの手の話題にはあまり興味を示さないことは、既に周知の事実で、従って誰も椎名に話を振ることはしない。すらすらと部誌にペンを走らせながら考え事をするも、自然と会話は耳に入ってきてしまう。 「まっ、仮にが柾輝のことを好きだとしても勝てねえよなあ」 「せやせや、女子力っちゅーもんがあらへん」 「うっさいわね!私の魅力はそこじゃないのよ!」 「じゃーどこすか?力強いとこ?」 「六助今日ドリンク作ってあげないから」 わいわいがやがやと騒がしい。 黒川柾輝に彼女ができた。 それだけでここまで盛り上がれるなんておめでたい奴らだと椎名は思わずため息をつく。彼に彼女が出来てから既に5日目である。そろそろ想像だけで話を盛り上げるのは限界なのでは、と思うのだけれど、どういうわけか一向にその話題は尽きることがない。と、いうよりも同じ話で盛り上がっている、懲りもせず。 「、ちょっといい?」 そんな終わりが見えない会話に終止符を打ったのは他でもない椎名だった。椎名が呼ぶと、はいはい、と二つ返事で彼女は立ち上がって寄ってくる。 は、飛葉中サッカー部のマネージャーである。彼女が何を思って問題児だらけのサッカー部に入部して、そうしてマネージャーになったのかは定かではないが、椎名翼はなんとなく勘付いていた。本人から聞いたわけではない、日々の些細な仕草だとか、そういうもの、そういう小さなものの積み重ねで、自然と気づいてしまったのだ。 「今日さ、玲が来られないから、サポートよろしく」 「ああ、今日だっけ。オッケー、メニュー見せて」 部誌を渡されると、はスイッチが切り替わったかように鋭い目でメニューを追う。サッカー経験者ではないけれど、もともとの勤勉な性格が功を奏したというべきか、彼女の飲み込みは異常に早く、今となっては椎名にとって頼もしいパートナーとも呼べる存在である。 なんや翼取んなやー、せっかく盛り上がってんのによー、外野から抗議の声があがる。邪魔するならメニュー増やすけど基礎練のとこ、笑いもせずにそう返してやれば、すみませんでしたと謝罪の声が飛んできた。 「ちぇ、あーなんか空しい気分になってきたー!サッカーしようぜ!パーっと!」 「お、ええな!翼ともそれ終わったら合流な!」 「私が合流してどうすんのサッカーできないし。終わったら翼だけ行かせますー」 「いやだよ行かないよ」 「翼の裏切り者―!」 最後まで慌ただしかった。バタバタと足音を響かせて、部室から遠ざかっていく。昼休み終了まであと20分もある。きっとそのうち飽きて屋上にでも行ってしまうだろう。サッカー馬鹿と言えども惰性で始めるとそうそう火は点かない。 「それで?」 書かれたメニューの量は決して多くない。文章を読むスピードが早いならば、とっくに読み終えているはずなのに、一向に顔をあげない彼女に、椎名は問いかけた。 「・・・・なによ」 「連日こうもくだらない話をくだらない面子で繰り広げる理由は何なの」 「そりゃもちろんこの一大ニュースを騒がないわけにはいかないっしょ」 「別に中学生男子に彼女ができることくらいあるだろ」 「だって柾輝だし」 返事をする間も、は一度も顔を上げなかった。俯いていて表情は見えないが、部誌を持つ手に力を込めているのか、指先が白くなっている。はあ、と椎名は本日二度目となるため息をついた。 から死角になる位置、つまりは彼女の後ろへと移動する。の腰かけるパイプ椅子の背もたれに浅く座るように体重を預け、もう一度「それで?」と問う。 「誰に嫉妬してるって?」 「・・・・」 「ったく、せっかく直樹たちを追い出してやったんだから素直になったら」 「・・・・柾輝」 「・・・・お前ほんと可愛くないね」 翼に可愛いって言われたって何も嬉しくないです、やけにはっきりとした声だった。かすかに触れる背中が、心なしか震えている。けれど、椎名が振り返ればきっとまた彼女は強がって全部の感情を押し込めてしまう。 日常の些細なことだった。 仕草とか、目線とか、声のかけ方とか。 そういう小さなことに、変化があると椎名が気づいたのはいつだったか。けれどもそれは確信できるほどはっきりとしたものではなくて。しばらく様子を覗って、ああきっとそうだろうとほとんど確信に近いところまで来ていたけれど、絶対的な自信はなかった。 それでも、強がっているのだろうと想像できる程度には、椎名は彼女を見てきた。 視線の、追いかけっこ。 「・・・・これが最後、誰に嫉妬してるって?」 「・・・・・・・・」 「」 「・・・・柾輝だって言ってんでしょ」 また、逃げられた。 ひねくれ者のお前のことなんて、ねえ、全部わかってるのに。 END 私、翼→ヒロイン→柾輝がすごく好きなんですね、つまり椎名さんには可哀想なことをしましたねすみません。 リクエストありがとうございました!こんなのですみません! 12年06月06日 |