NとN 「立夏に、抱かれたい、って言ったんだけど、」 ぶっ! キオと私はすすっていた日本茶を同じタイミングで同じ量をぶちまけた。 絵にかかったらどうするの、無言で草灯がそう訴えてきたけれど、そんなものに構ってはいられない。 「おま、立夏は小学生だろ!?」 キオが少しむせながら、当たり前の顔をして日本画を仕上げていく草灯にくってかかる。 「関係ないよ、立夏可愛いし」 「大体立夏は男の子だろ!本人いいなら構わないけどいくらなんでも可哀相すぎる!」 草灯は面倒になったのか、一度絵を中断して、壁に背をあずけると、ふぅ、と煙草の煙を吐き出した。 キオが草灯の右側にちょこんと腰を降ろしたので、私は左側に座ることにした。 「何、二人して」 草灯は思いっきり嫌そうな顔をしてキオを振り返りながらそう言った。なんでの方は向かないわけ!キオがまるで全身の毛を逆立てるように怒ったのを見て、私は彼の頭にあった猫耳は誰によって消されたんだろう、と考えた。絶対猫耳があった方が可愛かったのに。 「で?」 キオの抗議が終わったタイミングを見計らって私は草灯を見上げた。 「何?」 「それ聞いて立夏くんはどうしたの?」 「ぎゅってしてくれた」 「草灯、そういう意味で言ったんじゃないわよね?」 「うん。だからぎゅってしてくれた後にもう一回、いつか抱いて、って言ったら、今してるだろ、って言われた」 立夏が毒されていく!キオが一人であわあわとしているのが面白くて私はそれを眺めていた。 それにしても。 草灯は本当に立夏くんが好きなんだなぁ、と呆れ返ってしまう。立夏くんとは直接の知り合いではなくて、写真でしか見たことがないけれど、確かに見た目は可愛かった。 しかしどう考えたって大学生が小学校六年生に手を出すのは犯罪のような気がする。 「立夏、可愛いなあ」 草灯が呟いた。言い返すのも面倒になったらしい。キオはほとんど軽蔑に近い目で彼を見ている。 「草灯さぁ、ほんとに立夏くんに抱かれたいの?」 「うん」 「普通に考えて逆じゃない?」 「!普通に考えて大学生が小学生に手を出すのはまずいから!まずそこだから!」 「うーん、でもやっぱ抱かれたいなぁ」 草灯は完全にキオを無視した。 きっと草灯は抱かれたいとかそういうの以前の問題で、立夏くんに支配されたいという願望が強いのだと思う。自分の中が立夏でぐちゃぐちゃになればいいとか思っているのかもしれない。 あいつはただのマゾだ。むしろただのマゾどころではない気がする。気持ち悪い。異常だ。 「、今失礼なこと考えてたでしょ」 「まさか、いつも通りのこと考えてただけだよ」 ふぅん、草灯は私を一瞥しただけでそれ以上は何も言わなかった。 「ただ問題が一つあってさ」 「問題は一つではないと思うけどね」 「オレもに賛成だね」 そう私とキオが言えば、オレ的問題は一つなんだよ、と草灯は言う。 あんたを基準として物事を考えようものならほとんどの事が問題なしになるんだっての。 つっこみたかったが止めておいた。 「立夏が大人になった場合、猫耳がなくなっちゃうんだよね」 「黙れこのヘンタイ!」 ありがとうキオ、つっこんでくれて。 お礼を心の中で告げながら、しかしどこかで草灯に同意していた。 「でもなんとなくソレ、わかるかも」 「!?何お前も猫耳立夏がいいってこと!?」 「違うよ。立夏くんには興味ないもん。キオが猫耳ついてたころに会いたかったなってよく思うから」 「あー、確かにそれはオレもかなりためらいを感じた」 キオの顔が今までに見たことがないくらい蒼白になり、さらに歪んだ。 口をぱくぱくと閉じたり開いたりを繰り返しているが、何を言えばいいのかわからないらしい。 多分、私へ弁解するべきなのか草灯に怒鳴るべきなのか判断しかねているのだと思う。キオはやっぱり馬鹿だ。 「〜〜〜〜〜っもぉおまえらなんかしらねーーーっ!!!!」 そこら辺にあるものをとにかくぶちまけていきながらキオは部屋を出ていった。 ふぅ、うるさいのがいなくなったと言わんばかりに草灯はため息をつき、煙草を吸う。 「ためらい、ってあんたね、まさかとは思うけどキオまで食ったんじゃないんでしょうね」 「さすがにキオには抱かれたいとは思わないよこれっぽっちも」 「へえ。じゃぁ、逆ならいいの?」 「さぁ?」 「かわいそーキオー」 「まだ何も言ってないんだけど」 我妻草灯はよくわからない。 ただ、キオ曰く、異常なまでに支配されたいという願望が強いらしい。そんなのいちいち聞かなくたってわかる。 昔青柳清明がいたころの方が傷も絶えなかったし、ひどかったのはその頃らしいが、ここ2〜3日はとにかくひどい。 立夏立夏うるさいし、それに立夏の求め方も異常だ。 草灯はもともと立夏の話をあまりしない。私たちにしゃべるのも嫌なのかなんなのか知らないけれど、あまり語らない。ただ、名前は出さずにたまにのろけてくるのはきっと全部立夏絡みだ。メールを見て、超可愛い、とかなんとか言っているのを見るといい加減殴り飛ばしたくなるけど。 それなのに、どうしたんだろう。 なんでこんなに立夏くんの話をするんだろう。 草灯。 何に怯えているの? 「りつか」 ぼそり。また呟く。 「草灯、会いに行ってくればいいじゃん。犯罪にならない程度に」 「会うと、また立夏を困らせる」 ぱたぱたぱた、控えめな人間が走る音が聞こえてくる。 間違いなくキオだ。気になって様子を見に戻ってきたのだろう。あの子にとって草灯は特別だから。 「キオに当たらないでよ。草灯のこと心配してるんだからさ」 「わかってるよ」 「ならいいけど」 他人に支配されたい、なんて。 だから多分、命令して欲しいとかそういう願望以外、草灯にはない。立夏くんを欲しがるのもきっと自分が立夏くんに縛られてしまいたいからだ。 「だからこそマゾとマゾはよくないだろう・・・」 「なんか言った?」 「別に」 ばたん!キオが部屋に入ってきた。きまり悪そうに私たちに缶コーヒーを手渡す。これ買いに行ってただけだから、視線をずらしながら彼は言う。いちいちそんなこと言わなくたっていいのに。 立夏くんを羨ましいと思ったことはない。 草灯に求められたいと思ったことはない。 草灯に支配されたいと思った。 「・・・最悪。」 「何が?草ちゃんが?」 「それは常識なんだけど」 「ちょっと、失礼なこと言うのやめてくれる」 最悪だ、私が。 草灯がおかしい時になんの役にもたたない。 心配することも、ない。 それは、キオの役目。 私は、ただ見てるだけ。 ―相手、してあげようか― 誘ったのは草灯。 最終判断を下したのは私。 あれは、間違いだった。 「立夏、会いたいなぁ」 「・・・最悪」 「・・・・・・・・・草ちゃんももどうしたの?」 同じ磁極を持つ私たちは、一生引かれ合うことはない。 END ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 初LOVELESS。キオと草ちゃんが好きです。 07年09月19日 |