側で咲く 「ケーイー。」 吹雪様に命じられた仕事を一通りこなして、休憩時間に入った。始めたのがお昼過ぎで、今は夕飯には少し早い、微妙な時間帯。いつもならおやつでもいただきに誰かのとこ(主にゆんゆん)に行くのだけれど、 今の時間は本当に微妙だ。 かといって何かやりたいことがあるわけでもなく。 よしそれならどうせ暇しているであろう螢惑のところにでも行こうかなと私は思った。 夕日がちょうど落ち始めていて、窓から赤い光が差し込んでいた。 壬生一族というとなんとなく紅を思い出してしまうのは、やはりあの紅目のせいなんだろうか。 私は先代の目も、皆が噂する鬼目の狂の目も見たことがないから、よくわからないのだけれど。 いつもの階段を二階分あがり、長い廊下に出る。 つきあたりに見える古い扉が半開きになっているのが見えて、やっぱりここにいるんだと確信した。 扉を開けて、部屋に入る。部屋の突き当たりを一回、思いっきり叩いた。 ず、と重そうな音がして、先ほど入ってきた時よりも古い扉が姿を現す。 「ケーイー。」 そう言ってその扉を開けた。 眠そうな顔をした少年が1人、ぼんやりと座っていた。 「・・・・・・・・・・・おなかすいた・・・・。」 「え、ちょっと待ってひどくないそれ。」 せっかく会いにきたのにそれはないでしょ、というと何故か、螢惑は黙って頷いた。 意味わからないから。 そのまま私は隣に腰を下ろした。ぽかぽかとした陽気が心地よく、眠気を誘う。 目の前にあるくすのきの葉の影と日の光が絶妙なバランスをとっていて、神秘的な空間を作り出していた。 私はこの壬生一族の住む世界の中でここが一番好きだ。 2〜3年前、いたずらをしたのが母様にばれて、逃げるためにたまたまここに身を隠した。 どれくらいいたのかわからないけれど、おそらく一日くらいいたんだと思う。 「ここ、俺の場所。」 いきなりそう聞こえた。 扉が開いたのがまったくわからなかった私は、びくりと肩を震わせて振り返った。 そこに立っていたのはもちろん螢惑で。 私はぽかんと口を開けた。 「あ、そう・・・なの・・・・?ごめんなさい。」 よくわからないまま私は螢惑に謝った。 見たことの無い、変わった格好をした少年の目が、何だかとてもおそろしくて手が震えていた。 「あの・・・・・?」 一向にしゃべらない螢惑を不思議に思ってそう言って、おそるおそる顔をあげる。 「ひゃ!」 思ったよりも螢惑の顔が近くにあり、私は思わず飛びのいた。 ?惑は怪訝そうな顔をして、私に聞いた。 「何してるの。」 「・・・・い・いたずらしたのが母様にバレまして身を隠しているといいいますか・・・・。」 「ふぅん。」 「ごごごごごめんなさい今すぐ出て行きますすいません!」 がばりと起き上がり、螢惑に頭を下げていた。 よくわからない。とにかくそのときの私はこの少年が怖かった。この少年に何か言われるくらいなら、母様に怒られた方がましなんじゃないかと思うほど。 立ち上がった瞬間、右腕を思いっきりひっぱられ、私はべちゃりと地面に崩れた。 何を言われるんだろうとびくびくしながら振り返る。と。 「別に出てけとは言ってないじゃん。俺も身を隠すのに使ってるし、ここ。」 もう一度、ぽかんと口を開けた。 「何、ケイはまた、怒られそうになってるの?」 「違うよ。とは違うし。」 「失礼な。私も今日は別にそういうわけじゃないもん。」 「俺、ここ好き。」 「私もー。」 ごろんと大の字に寝転がる螢惑の姿が、あまりに昔から変わらなさ過ぎて私はくすくすと笑った。 感性がお互い似ているのかなぁ、と何となくそう思う。始めは逃げ込む場所だったのに。 今は一番心休まる場所だ。 それは、ここの立地条件と、それから。 不思議な空気を持つ少年が、ここにはいるから。 「あー・・・おなかすいたー・・・・。」 「・・・・・・・・あんたがそれしか言わないからあたしまでお腹が空いてきちゃったじゃん・・・。」 END +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 花男大好きです!あの漫画非常によろし! そんなわけで花沢類とほたるって似てるよな、と思い、何だかよくわからないSSSを書き上げてみた。 06年04月07日 |