「ー!」 なぁなぁ起きてんだろっ起きろってばー、頭の中に響く、最近聞きなれてしまった子供の声に眉を顰めつつうっすらと目を開けると、そこには案の定瑶二がいた。私が少しだけ首を起こせばそのままキスできそうな近さだ。目の前いっぱいに広がる少年の顔をどかすのも面倒で、私はあからさまに迷惑そうな顔をしながら呟く。 「・・・・・・・・・邪魔」 そう言うと瑶二はにっこりと満面の笑みを浮かべながら私の上から退いた。くしゃり、髪をかきあげながら私は起き上がる。 ふと隣を見れば、寝息を立てる草灯の顔。 「草灯もなー、立夏いんのになにやってんだか」 信じらんねー、そう言って瑶二は、たった今扉を開けて入ってきた相方――奈津生に張り付いた。 私としてはそんな私たちを平気で起こしに来る彼らの方が信じられないけれど、私と草灯は付き合ってるわけでもなんでもないから仕方がないのかと肩をすくめた。 いや、仕方なくないけど。 「」 奈津生が瑶二の頭を抱えるようにして抱きしめながら私に言う。 「なに」 一度起こした体をもそもそと布団に再び潜り込ませながら私は返事をした。隣で草灯がわずかに身じろぎをしたように感じたけれど、気にしない。 「あんたどういうつもりなの?」 サクリファイスと戦闘機の話は聞いただろ?咎めるように私を睨む奈津生に、私は思わずため息が出た。 だからなんだって言うの、そう言えば、別に、と諦めたような一言。その後に続く返事をするのが億劫で、私はすっぽりと布団を被ると再び眠る体勢へと突入する。俺たち出かけるから、今度は奈津生がため息をつきながらそう言った。 ぱたん、閉められた扉の音が部屋に響く。 恋愛感情って意外としぶといものなんだな、と私はそんなことを考えていた。 自分の想い人が誰を想っていようが関係ないとかそんなことを思うような人間になるとは思ってもみなかった。決してそれが美しいとは思わないけれど、母親の胎内に美という観念を忘れてきたと言っても過言ではないようなどろどろした感情と隣合わせで生きてきた私には、それで十分だと思う。 するり、草灯の長い髪を右手で撫でる。 ちゅ、と小さな音を立てて口付けると、草灯は目を開いた。 「起きてたでしょ」 「あんなでかい声隣で出されてて起きないと思う?」 そういう草灯にそれもそうかと納得した。 「それで?」 草灯は言う。何が、私が眉を顰めてそう返すと、彼は曖昧に笑った。 「どういうつもりなの?」 彼のその問いを、私は綺麗にそのまま返した。 しばしの沈黙。 先にそれに耐えられなくなったのは草灯の方で、私の頭をくしゃりと撫でると、もう一回寝ようかと呟いた。お互いに背中合わせになるような姿勢を取る。私は返事も返さずに小さく丸まった。 私だってそこまで愚かな人間ではないから、草灯が立夏を必要としてることくらいわかってる。 だけど仕方ないじゃない。 |
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