わざわざ認識するまでもなく、彼の声は耳に届く。授業終了5分前のどこかそわそわした、集中力の切れてしまった状態のクラスメイトたちと一緒にぼそぼそと何かを話しているのが聞こえてくるのだ。
私と彼を一直線に結ぶ距離の間には約7〜8人の生徒達。彼らの間を縫うように視線を走らせて、こっそりと私は見ていた。笑った横顔を視界に捕える。
静かになさい!と先生から厳しい声を頂戴すると、彼の周りの生徒たちは肩を竦めた。彼と、それから親友――というかむしろ悪友――のジェームズ・ポッターだけが面倒臭そうに視線を前に向ける。

シリウス・ブラック、ジェームズ・ポッター、何か言いたいことでも?
いいえ?特に何も。

そんなやりとりは日常茶飯事で、先生もそれ以上彼らを咎めたりはしなかった。
自然と弛む頬をなんとか引き締める。
友人が、なぁに?思い出し笑いー?と私の顔を覗き込んできたら困るからだ。思い出し笑いよりも質が悪い。

授業終了を告げるベルが鳴る。先生の話はまだ終わってなかったけれど、そんなのはお構いなしだ。ガタガタと不規則に音を立てながら生徒が立ち上がる。散りゆく動物の群れさながらに、四つある扉から次々と出ていってしまった。
次の授業へと急ぐ友人に片手を上げて挨拶をする。

私は、まだ、動けない。

シリウスが、ジェームズ・ポッターに何かを告げた。オーケイ、そう両手を上げながら言うジェームズが見える。がたりと彼は立ち上がると乱雑に教科書をカバンに詰め込んで軽やかに教室を出ていった。

魔法学校、ホグワーツ。

そこで教えてもらわなかった魔法が一つある。
その魔法はとても強力で、私は動けなくなったり、言い返せなくなったり、それはもう効果は様々だ。

そしてそれは、対私用。

たった一人にだけ許された、奇跡の魔法。

シリウスが、ゆっくりと振り返る。







大好きよりも愛してるよりも、ずっとずっと甘い、











   



彼から私への、限定魔法。





END
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10000hit御礼企画より

お題配布元be in love with flower

08年08月04日再録


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