「アレンのあの美しさについてあたしにも理解できるように80字以内で述べよ」

はぁ?ラビは変な低い声を出した。こいつ馬鹿なんじゃないのか、とでも言いたげな口調だ。目の前に座るというエクソシストが何の前触れもなく突然言ってきたその質問は、ブックマンJr.の脳を持ってしても、その意図を理解することはできなかった。

「リナリーの美しさについてならいくらでも」
「黙れこの変態」
「それはお前にも言えることだよね」

ラビが興味なさそうにそう言うと、は大げさにため息をついた。ため息をつきたいのはこっちだ、ラビのその心情など、彼女が知るはずもない。
午後3時を過ぎたころの食堂には、おやつを食べに顔を出すものがちらほらと集まってきていた。その大半が探索部隊であるが故に、黒い団服に身を包む彼らは嫌でも目を引く存在だった。

「大体俺まだアレン・ウォーカーに会ったことねぇんだけど」
「でも聞いたよ、これからアレンとリナリーの元に向かうんでしょ?あーもーちょーずるいー!」

は小さな子どものようにだだをこねるとラビのチーズケーキに手を出した。

「あ、ちょ!それ俺の!何するんさ!」

ラビの抗議は残念ながら無視された。

も実を言うとアレンには会ったことがなかった。ただ何度か遠目に見たことがあるだけなのだが、それだけで、彼女は異様なまでに彼を気に入ってしまったらしい。
初めてがアレンを見たのは、彼が入団してきてから1週間経った時のことだった。礼拝堂の大きな十字架をただじっと見上げる少年を、訝しんで見つめていたのが事の始まり。ただじっと見上げている少年を、後ろからさらに見つめていただけだったのに、何故かちっとも飽きなかった。神聖な空間に入ることを許された者だけが出せる雰囲気を、彼が持っているように感じたからなのかもしれない。それを神田に言ったら、寸分の迷いもなく切って捨てられた。

そうだ、思い出したようには呟いて顔をあげる。

「ラビならわかってくれるかも」

そう言ったに対してラビは大変失礼な反応をして見せたけれども、そこは気にしないことにして、は自分の思ったことを神田に説明してみせた時と同じように、一字一句違わずに彼に告げた。

「・・・・・神聖なもの、ねぇ」

小馬鹿にしたように呟かれたその一言に、はむっと口を尖らせる。そんなことしても何も変わらないさ、ラビは視線さえもに向けずにそう言い放った。

「呪われてんだろ?」
「・・・信じてるんだ?それ」
「信じちゃいないけど、でもそういう噂だし」

ラビにはたまにおそろしく冷たい部分がある。はそれに気づいているけれど、でもそれに関わる気はさらさらなかった。面倒ごとに巻き込まれるのは御免だし、ラビがそれを自分に対して発さない限りは何の害もないからだ。

「っていうか、アレン・ウォーカーに会ったことないんだろ?だったらまず会って来れば?せめて、電話してみるとか」

その言葉にどういう意味が含まれているのかは、わからなかったけれど。はとりあえず言われた通り、彼と接触してみようと思った。










「そんなわけなんだけど、コムイ、お願い!アレンと話させてよ」

思い立ったが吉日、はさっそく電話をかけていた。リナリーが出るであろうと予想していたのに、電話越しに聞こえてきたのは彼女の兄の声だった。意気込んでいた気持ちが少しだけしぼむ。

『そうさせてあげたいのは山々なんだけどね』

コムイの苦笑混じりのその声に、はきょとんと動きを停止した。受話器を左手から右手に持ち直し、壁へと背中を預ける。

「どういうこと?」
『ラビとブックマンがこっちに来る理由は聞いてないの?』
「うん?戦力補助じゃないの?」
『違うよ』

さらに苦笑された。治療だよ、コムイのトーンを落としたその声に、は、へぇ、と一言。その後に何を続ければいいのかわからなくて、しばらく無言でいると、コムイがどうしてアレンと話がしたいのか、理由を訪ねてきた。

別に、あの子なら、あたしの神さまになってくれるかなって思って。

のその言葉に、コムイは何も返さなかった。
彼女がひどく十字架と神を嫌うことは教団の中でも有名だった。入団してきたその日のうちに、部屋にあった全ての像と十字架を破壊さいたことは、誰でも知っている。そんなにも嫌う神の使徒に、何故彼女がなろうと思ったのか、それは誰も知らない。クロスの刺繍が施された団服に、なかなか袖を通してくれなくて、科学班は手を焼いた。それがここ最近彼女がよく団服を着ているのを見かけるようになり、とりあえず喜んではいたのだけれど。

『そういうことか』

ぼそりと呟いたコムイの言葉はしっかりとの耳にも届いていた。

「ま、会ったことも話したこともないから、あの子があたしにとっての神さまになれるかどうかは知らないけどね。もしも予想通りなら、」

世の中の神さまに忠誠を誓わなかったこのあたしが、あの子にだけ、忠誠を誓うよ。

一言一言はっきりと区切って、まるで歌うように楽しそうにそう言ったに、コムイはなんだか無償にやるせない気持ちになった。

『ねぇ、










は自室のベッドの上で、ゆっくりと息を吐き出した。
壁に映し出された映像の中では、ミランダと彼女のアパートの管理人がバタバタと動き回っている。
それは、コムイから届けられた、ティムキャンピーによる、今回のアレンとリナリーの任務の様子だった。
強烈に印象に残ったのは、叫んだエクソシストと、絶望した彼、それから涙を流した少年。

――なんで助けた!

――同じ人間なのにどうして・・・・

――アクマが消えてエクソシストが泣いちゃダメっしょー?

目を閉じて、浮かび上がった少年は、驚くほどに輝いていた。



ねぇ、見つけたよ、師匠、あなたに並ぶ、少年を。



その中心に秘めた真っ黒な感情を押し込めるために放つ光に。










 









だなんて、そんなことは言わないけれど。
だってこれはそんなに綺麗なものじゃない。





汚れた私と、真っ黒に染まった少年の物語だから。





END
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10000hit御礼企画より

お題配布元be in love with flower

08年08月04日再録


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