不思議な感覚だった。



人の気配を感じてもぞもぞと仮の寝床(ようはソファ)から起き上がると、すぐ側で見覚えのあるシルエットが何やら書類と向き合っていた。

「やっと起きたか」

その人物――日番谷冬獅狼はいつもよりも眉をひそめて私を振り返る。上手く回らない頭と舌でテキトーな返事をすると彼の眉間の皺はさらに増えた。これで通常の三割増しだ。
そんなにおかしな返事をしたつもりはなかったのだけれど、少なくとも彼は納得しなかったらしい。
特に意味もなくソファの上に正座をすると、日番谷隊長はくしゃりと破顔して笑った。正座をしたことに何もメリットなんてあるはずないけれど、この笑顔が見られるのなら一生正座しててもいいや、とか思えてくる自分はもう色々と末期なのだろうな、とそんなことを思う。

「・・・桃ちゃんは?」

わかりきったことをわざと聞く。
恋は人を愚かにしていくものだと昔誰かに聞いた。当時は何を馬鹿なことを言っているんだろうと思ったけれど、今となってはよくわかる。ずるがしこく、愚かになっていく。

「・・・なんで俺が雛森を気に掛けなくちゃなんねぇんだ」
「今は藍染隊長がいるもんね、今は」
「喧嘩売ってんのか」
「別に」

ふい、と向こう側を向いてしまった彼の首にするりと手を回す。何の反応も返ってこないけれど、拒絶も返ってはこない。
首元に顔を埋めていると彼がこちらを振り返った気配がしてゆっくりと顔を上げた。
同時に私から彼へキス。額に、目に、頬に、唇に。
驚いたように目を開く彼に向かって微笑むと、小さく短く、彼からもキスが落とされた。



片思いをしていたころが、一番舞い上がっていて、一番浮かれていて、一番ときめいていた。



彼に、恋に、恋していた、あの時が。



不思議な感覚。
手に入る度に、いつも思う。










 









夢は叶う度にただの現実と化していくと聞いたけれど、それは恋だって同じだと思う。


王子さまと結ばれたお姫さまは、その後本当に幸せなのかしら?


女って、貪欲だから、





そんなので満足できるわけないじゃない





END
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10000hit御礼企画より

お題配布元be in love with flower

08年08月04日再録


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