※赤司と高尾が付き合っていますが、高尾が好きなのは緑間です※
「知的好奇心かな」 ふむ、と自問するような仕草を見せ、けれどあまり迷うことなく赤司はそう言った。質問をしたのは高尾だけれど、その答えがどうも上手く飲み込めず、高尾は馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返す。「ちてきこうきしん」幼児が母親の言葉を真似するように、その言葉に意味は伴っていない。赤司は高尾を見下ろして数秒の間を空け、もう一度言う。 「うん、知的好奇心」 理解してるか、と問いかけるように赤司は殊更ゆっくりはっきり発音した。はあ、と高尾は煮え切らない返事をする。二度同じことを言われても、それを飲み込んで自分の脳内に落とし込むまでには至らなかった。 「ひどく不満そうだね」 「え、いや不満ではないけど、理解が追い付かないっていうか、そもそも俺、ちゃんと質問できたのかなって不安になったっていうか」 「不安なら質問ごと繰り返すが?」 「いえ結構です」 高尾は赤司に向けて、待った、のサイン、つまりは右手を挙げて制するような恰好をした。その意味は赤司に充分伝わったであろうはずなのに、彼は無表情のまま高尾の右手首を掴んで引き寄せた、「なに、」高尾が赤司の手の感触を認めて怪訝な表情をしたのとほぼ同時に、掌に生ぬるい感触が伝わって、喉の奥で悲鳴が上がる。「・・・・咄嗟に飲み込んだのは評価しよう」何様のつもりなのか、悲鳴を押し殺した高尾を赤司が褒めた。掌に息がかかる。 高尾は咄嗟に右手を引込めようとしたけれど、思いの外強く掴まれていて、それは叶わなかった。 「自分だって同じような理由だろうに、何で僕だけそう責められなければならないのかわからないな」 「いや、責めてはいないけどね」 「大体、今更じゃないか」 「・・・・今更だからこそ、ここで聞いておかないとこの先聞かないし、赤司だって答えねえだろ」 「そうでもないよ」 赤司の目が伏し目がちになり、そのまま高尾の右手の甲に口づけられる。抵抗するのも面倒になり、高尾はただそれを見ていた。くすぐったいような感覚にぴくりと反応はしてしまうけれど、感情は恐ろしく冷静だった。正気かな、と赤司の顔を覗き込んでしまうくらいには。高尾の視線に気づいている赤司は、少しだけ音を立ててもう一度掌を啄むような真似をして、高尾の右手を解放した。すとん、力を入れていない右手が重力に従ってだらりと落ちる。 「さては質問したことを後悔しているのかな」 「そりゃ、何で付き合ったの、っていう質問に、知的好奇心って返ってきたら誰だって複雑な心境にはなるっつの・・・・」 可笑しそうに口元を歪める赤司から視線を逸らして高尾は言う。赤司がソファから離れていく。急に視界が開けて飛び込んできた蛍光灯の白さに目を細めて、高尾はごろりとソファの背もたれに向かって寝返りを打った。質問をしたのは自分で、赤司はただその質問に素直に答えただけだけれど、どうにも虫の居所が悪い。けれどそれを赤司にぶつけるのは間違いだと高尾もわかっていて、それが形になって出てしまわないように口を引き結ぶ。 赤司が言うように、そもそも高尾とて彼と付き合おうと思ったのは、ほとんど好奇心に近かった。大学になってたまたま―――と、赤司は言っている―――再会した赤司に、開口一番「高尾君は真太郎のことが好きなんだね」と言われたのがそもそもの発端で、それがどういうわけか付き合うことになった。付き合うと言っても世の恋人同士が行うあれこれをやったことはなく、高尾としては赤司にからかわれているだけなのかと思い始めた矢先だった。 関東に用があるから一泊させろと突然上り込んできた赤司に、冷蔵庫にあるもので適当な夕飯を作り、くだらないバラエティーを見ながらそれを食べ終え、シャワーも浴びてソファに寝転んでいたら、ふいに赤司が言ったのだ、キスをしてもいいか、と。驚いたというよりも、なぜ、という疑問が先に浮かび、だから高尾は聞いたのである。なぜ自分と付き合うのか、と。 「そもそも、君が僕の申し入れを受け入れたのだって、真太郎のことが好きだけれど同性で付き合ってみたことはないし、さてどんなものか試してみるか、という程度の気持ちだろう?」 「まるで俺がそう言ったみたいに言うなよ、それ、そのまま赤司が言ったんだろ」 「そうだったかな、忘れたよ」 忘れたはずなどないだろうに、赤司はさらりとそんなことを言う。これみよがしに高尾がついたため息など、気にかけてもいない。 そうなのだ、不躾に緑間のことを好きなんだろうと確定するように言ってきた赤司に、高尾が呆気に取られて何も答えないでいると、「どうせ告白するつもりなんてないんだろう?なら同性同士で付き合うということがどういうことなのか、試してみる気はないかい」などといけしゃあしゃあと言ってのけたのだ。寸分の迷いもなく断った高尾に畳み掛けるように、自分の中に緑間でも探してみたら、というような主旨のことを言い、またもや高尾が言葉に詰まっているのをいいことにあれよあれよという間にどうやら付き合う羽目になった。そしてわけもわからず呼び出されてデートというにはあまりに簡素な付き合いを数回繰り返して、現在に至るというわけである。 「和成」 名前を呼ばれて明らかに悪寒が背筋を走り抜けた。 「・・・・それはダメだ。寒気がする」 「随分な言い様だな。じゃあ高尾」 普段はつけられるはずの、君、が抜けただけで、一瞬にして何かが縮まったようだった。自分のその感情に戸惑いながら、ああそうかこれもあいつにそう呼ばれていたからなのか、と理由をこじつけて納得させる。 ぐんっ、と肩を引かれて再びソファに仰向けになった。先ほど眩しかった蛍光灯は、赤で隠れている。 「まあ、深く考えるなよ」 「へいへい」 「可愛くないな」 「お前俺に可愛さとか求めてんの?やだー、高尾ちゃんどうすればいいのー」 「いや、要らないな」 もう黙って目を閉じろ、赤司の言葉に存外投げ遣りな気持ちになり、高尾はそのまま目を閉じた。 何をしているんだろう、なんていう罪悪感は、もう無い。 |
赤司と高尾が緑間を巡ってぐちゃぐちゃする話 君=緑間くんでした。 |