「そーいや降旗、赤司ってどんな奴だった?」



 けろっとした素敵な笑顔でそう聞いてきたのは小金井先輩だ。なるほど。日向先輩の言っていたことの意味がわかった。コガの能天気さっつか考えてなさに救われることもあんだけどよ、イラっとくることの方が多い。そうばっさり言ってのけたキャプテンに、驚いたのだけれど、非常に残念なことに理解できてしまった。自分はまだ一年で、つまり先輩に対してイラっとくるも何もないのだけれど、しかしやはり今の気持ちを表現するならば、「イラっとした」というのが正しい。
 監督が何を思って自分に向かって、赤司征十郎の元へ向かう黒子についていってとか言い出したのかは知らないが、恐ろしい目にあった。あれはもう、しばらくトラウマになりそうだ。とりあえず奴のいる洛山には当たりたくない。いやまあ当たったところで出場できないだろうけど。ベンチにだって入りたくない。

 ちらり。黒子に視線を送―――ろうとして見つけられない。異様なまでに存在感がない。影が薄い。それを武器として彼は件の赤司征十郎率いる『キセキの世代』の幻となり得たわけだけれど、それにしたって、もう少し貫禄があったっていいじゃないかと思う。全中三連覇を成し遂げた男の割には風格ってもんがない。それでも試合に出る彼を見れば、素直に尊敬する。自分にはできない。すごい。けれど試合以外の黒子には尊敬に値するところがあまりない。

 と、先ほどまで思っていた。
 キセキの世代と普通に話す(同中なのだから当たり前といえば当たり前なのだけれど)黒子に、またまた感心した。感心というか、いっそ畏怖の念を抱いたと言ってもいい。あんな化け物たちを目の前にして話していられる自信はない。事実、立ちすくんだし、逃げ帰りたいと思った。化け物は基本的に、存在自体がもう化け物であって、つまり初めから自分とは違う生き物だということを認識できるから、まだいい、近づかなければいいのだから。それなのにいつもは自分と同じ人間にしか見えない黒子が当たり前のように話していて、実は一番やばいのはこいつなんじゃないかと思った。火神がキセキの世代と話しているのは別におかしな光景じゃない、あいつも化け物だ。



 そして、最後に現れたキセキの世代、赤司征十郎。



 どこから突っ込めばいいのか最早わからない。あの自分勝手でプライド高くて癖のある5人(一応黒子も入れておく)をまとめあげていただけでも十分すごい。すごいを通り越して、意味がわからない。今日だって彼がメールすれば全員集まったのである。すごい。でもすごいのはそれだけじゃない。黒子にはないもの、そう、つまるところあのオーラだとか風格だとかそういう身にまとっているあの空気が最早理解不能だった。火神が来てくれたおかげで助かったけれど、あのままだったらと思うと今でも鳥肌が立つ。嫌だ。大体何で突然公開前髪散髪式を始めたのかさっぱり意味不明だ。そもそもなんで緑間真太郎は、はさみをむき出しのまま持ち歩く?黄瀬涼太を初めて見たときも無茶苦茶な人だと思ったけれど、「危ないから、むき出しで持ち歩くのやめて欲しいっス!」と緑間真太郎につっこみを入れた瞬間、キセキの世代で友達になれる可能性を秘めているとしたらこの人だけだ、と密かに思った。今度雑誌買おう。黄瀬涼太がせっかくこうして突っ込んでくれたというのに緑間真太郎がはさみを仕舞わなかったせいで、赤司征十郎の手にはさみが渡った。そうだ!緑間真太郎が悪かった!あいつがはさみさえ持っていなければ、火神に向かってそのはさみが付き出されることなんてなかったのに!

 はさみが付き出された。

 自分で言って、自分でショックを受ける。あの目は本気だった。本気で火神を刺そうとしていた。別にそれくらい構わないと思っていた、絶対にだ。キセキの世代にはなんでこうまともな奴がいないんだろう!大体あんなに危ないことをやってのけたのに、誰も注意しないなんて!そうだ、黄瀬涼太だって注意しなかった、うん、やっぱり友達にはなれない。そうして今思い出したけれど、黒子だって、注意しなかった。火神くん!とか言って心配はしていたようだったけれど、あの危ない赤い人には注意しなかった。やっぱり黒子も向こう側の住人なのかもしれない。

 ああもう嫌だ、赤を見るのさえ恐ろしい。
 はさみがあんなに似合う人間なんて、初めて見た。

 恐ろしい恐ろしい、何で小金井先輩はあんな人のことを聞きたがるのだろう?
 赤司征十郎がどんな奴だったかなんてそんなの、



「はさみ持った怖い人でしたできれば知り合いになりたくないし視界にも入れたくないですああ恐ろしい!」
「はあ?」






うっかり見てしまった別世界は






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