青峰くんはわかってない!と桃井に責められた。

 練習の帰り道に寄ったコンビニ横。露店のお姉さんに声をかけられて足を止めた桃井につられて、青峰も立ち止まった。ひとつひとつ手作りのアクセサリーは、どれも形が異なっていて、中々選べない。うんうんと悩む桃井を尻目に青峰は買ったばかりのアイスを頬張っていた。アドバイスをするつもりなどないし、桃井も青峰に聞いたところで喧嘩になることくらい、もう十分に学んでいる。けれど結局自分では決めかねたらしく、「テツくんなら」という前置きをした上で、「どっちが好きだと思う?」と真剣な表情で聞いてきた。何でテツ?関係なくね?と青峰が訝しんだところで、冒頭の台詞。往来で叫ばれた、「青峰くんはわかってない!」桃井はご立腹である。

「これは大事なことなの!好きな人はどっちが私に似合うって思ってくれるかどうかを、女の子はいつだって気にしてるの!」
「はあ?でもだってお前とテツの趣味なんて全然違うじゃねーか」
「そこは問題じゃないの!」

 青峰が面倒になってしびれを切らす直前、「まーまー」と不釣り合いな程間の抜けた声が横からするりと入り込んできた。
 黄瀬涼太である。

「好きな人には少しでも褒めてもらいたいんスもんね」
「そうそう、あ、見て、これも可愛い。どうかなーどっちがいいだろう」
「そっすねえ、少し大人っぽいところが、逆に良いんじゃないっすか?なんか最近流行ってて皆がつけてるようなヤツとは違うし」
「そうかな?背伸びしてる感じしない?」
「しないしない。桃っちならだーいじょうぶっス。小物がオシャレな女の子って、なんか一歩上級って感じで、素敵女子―!」
「よし、決めた、これください!」

 きらりと光る石がついた控えめなブレスレッドをお姉さんに渡す。そんな桃井から少し離れて、青峰は呆れた様子で黄瀬を見遣った。
 ちゃっかり木陰に非難している黄瀬は、桃井の買い物に満足そうだ。

「お前は女子か」
「えー、だっていっつも周りにいるっすから。女の子が何考えてるかくらいわかるっスよ」

 ウインクをする黄瀬の幻覚でも見えるかと思った。黄瀬がモデルだということを、こういう時に思い出す。バスケをしていればただのチームメイトで目の前の男の造形についてなど考えることもないが、こうして日常のふとした瞬間に、そんなことを思う。
 黙っていればイケメンか、と黄瀬の顔を観察する。本人は特に気にしていないようで、桃井に視線を向けたままだ。初夏の風が通り抜けて、少しひやりとした感覚が気持ち良い。青峰は残ったアイスを一気に頬張ると、何もなくなったアイスの棒を揺らしながら、それにしても納得がいかない、と話の続きをする。

「っつっても自分が身に付けるもんを男に合わせてどーすんだよ?」
「相手を思いやってるっていう勘違いと、支配されたいっていう気持ちがあるんじゃないっスか?」
「お前何気にひどいこと言ってんな」
「だって別にこっちがお願いしたわけじゃないし。でも、まあ、ああいうのは可愛いっスよね。別に相手に迷惑がかかるわけでもないし。恋する女の子の特権みたいなもんスよねえ」

 その甘いマスク故に、普段から女子に囲まれていることの多い黄瀬は、その分そういうことに関してドライである。それは何も楽しいことばかりではないからなのだろうが、青峰からすれば贅沢な話だ。人目を惹くその綺麗な金髪を、無造作にかき上げると、黄瀬は露店に再び近づいていく。青峰は動かずにその様子を目だけで追っていた。露店の前に来たところで、黄瀬がくるりと振り返る。

「ねー青峰っち。ピアス欲しいんすけど」
「あ?知らねーよ買えば良いだろ」
「冷てーの!じゃあ、」

 どっちがいいスか。黄瀬は両手でピアスを摘まむと、青峰の方へ突き出してきた。どちらもシンプルなデザインで、正直甲乙つけるのは難しい。
 と、ふと先ほどの会話を思い出し、青峰は疑問を口にした。別に口にする必要性などなかったのだけれど、ごく自然に、するりと言葉が紡がれる。

「お前、それ俺に聞いてどうすんの?」
「・・・・それ聞く?」

 ひた、と黄瀬の視線が、まっすぐ青峰を見抜いた。思いの外真剣な表情で、桃井の先ほどのそれとひどく似ていて、青峰はどきりとする。
 しかしそれは一瞬で、黄瀬はすぐに向きを変えると、予め決めていたのか、片方のピアスを差し出した。あれ、きーちゃんピアス買うの?良い青だねそれ。買い物を済ませたらしい桃井の声が聞こえてくる。

 青峰はその場から動かなかった。





目を閉じてしまえ






 


青峰と桃井と黄瀬(青黄風味)
ゆいり様、リクエストありがとうございました!

……青…黄…?あれ?
きーちゃんは女心をわかっていて、それを上手く活用していると思うのです。

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