この世界の色彩を求めて 5






 翌日、朝まだ随分と早い時間に、黄瀬は揺り起こされた。相手は言わずもがな、青峰であった。「黄瀬、わり、俺帰るわ」薄暗闇の中で、青峰は何だかとても慎重にそう言った。まるで言葉を選んでいるようだった。黄瀬はまどろみの中で、わかった俺はもうついて行かないからね、と答えるや否や、再び眠りの世界へと向かう。引きずり込まれていく意識の中で、青峰が心なしか嬉しそうに、おう、と答えたような気がした。





「どこに連れて行く気なのかと思いました」

 新幹線を降りて改札へと向かえば、懐かしい顔がいた。
 朝食を食べてゆっくりとチェックアウトを済ませても、結局のところやることが無いのでまっすぐ帰ってくる他選択肢はなかった。東京へ降りたって、この時間、まだ14時。さてどうしようかと考えを巡らせながら歩いていた黄瀬の前に、突然立ちはだかったのは黒子テツヤだ。

「・・・・えー、何してんすか」
「こっちの台詞です。勝手に青峰君連れ出しておいて、何様ですか」
「俺が連れだしたわけじゃないっすよ、勝手についていっただけで」
「知ってます」
「あれ!?言ってること違うよね!?」

 黒子はスタスタと歩きはじめた。その足取りに迷いはなく、ついて来い、と無言の圧力がかけられている。黄瀬にはついていく義理などなかったし、大体人ごみの中で黒子を見失わずにいる自信などまったく無かったのだけれど、どういうわけか今日は見失うこともなく、気が付けばオフィスビルの地下にあるカフェまで来てしまった。顔見知りなのか、黒子は親しげな様子で店員と話をしている。二言三言会話をした後で、どうぞ、と爽やかな笑顔で通された先は、一番角にあるテーブルだった。

「よく来るんすか?」
「そうですね、割に」
「ふうん」

 昼食を済ませていないという黒子は、ホットミルクとサンドウィッチを、新幹線で軽食をつまんできた黄瀬は、それほど空腹を覚えているわけでもなく、ホットティーを注文する。程なくして飲み物が運ばれてきた。ホットミルクにさらさらと砂糖を入れると、黒子は、さて、と居住まいを正した。

「お久しぶりです」
「・・・・そうっすね。ええっと、なんだかんだ高校卒業してから会ってなかったっすから、一年ぶりくらい?」
「最後に会ったのはウィンターカップですから、そうなりますね」

 高校最後の大会から、既に一年以上が経過している。大学生になりバスケを辞めた黄瀬は、なんとなくバスケ繋がりの友人たちとは疎遠になりがちだった。海常高校バスケ部の面子とは何かと絡むことはあっても、それ以外の友人たちとは連絡を取っていなかったのだ。高尾和成とうっかり同じ学部にいるために、彼経由で話を聞くことはあっても、実際に会うことはなかった。

「黒子っち試合は?」
「僕のところは青峰君のところに初戦で負けましたけど何か」
「・・・・すみません・・・・」

 運ばれてきたサンドウィッチを頬張る黒子は、いつもと変わらない様子だ。何故あんなところで待っていたのだろうという疑問が浮かんでは消えを繰り返している。聞けばいいものの、黄瀬は何故かその質問をすることを躊躇っていた。あまり触れたくないことに、降れてしまいそうな気がしていて、脳から危険信号が送られている。黒子は聡い。人の動きをよく見ているだけあって、微妙な表情や仕草の変化をすぐに感じ取る。お互いポーカーフェイスを基本としているだけあって、いつも探り合いになってしまう。そういう探り合いを始めれば、いつもは五分五分だと思っているが、今日は勝てる気がしなかった。

「青峰君が連絡をくれました」

 黒子が突然口を開く。
 そもそも、青峰の話題で、かつての相棒、黒子に勝てるわけなどないのだ。

「はあ」
「チェックアウトを9時にしたら、多分このあたりの時間に来るんじゃないかと思ったので、待っていたんです」
「はあ」
「君の望んでいる答えでしたか?」

 まあそうだろうなとは思ってたけど、黄瀬は素直に言った。頬杖をついて、黒子から目線を外し、ホットティーを飲む。注意深く置いたつもりのカップは、思いの外ソーサーに強く当たり、ガチャン、と音を立てた。

「試合は見に来ないんですか?」
「あー、最近仕事忙しくて」
「そうですね、テレビでもよく見かけますし。清純な大学生を演じる君を見ているのはちゃんちゃら可笑しいです」
「何それ!?」
「でも、大学にはちょこちょこ顔を出していますし、その後飲んだりしていますよね?そういう付き合いも含めて忙しくてバスケなんてもう知らないということでしょうか」

 高尾か、と黄瀬は舌打ちした。そういえば高尾から黒子の話題はよく聞く。秀徳メンバーをよく覚えていない黄瀬と高尾の共通の話題など、そうなればキセキの世代と火神くらいしかいないのだから特に気にもとめていなかった。けれど、考えてみれば簡単なことだ。それは黒子と高尾にだって言えることなのだろう。
 確かに、試合を見に直接会場に足を運んだことはない。けれど、高尾が持ってきたビデオや、注目されている青峰をテレビで見かけることは少なくない。そうして画面越しに見る彼らは、何だかまったく別次元を生きているようで、到底直接赴く気持ちにはなれなかった。

「・・・・足は、よくなりましたか?」

 黄瀬が黙っていると、黒子は諦めたのか、話題を少し変えてきた。やはり、バレていた。別に徹底的に隠していたわけではなかったけれど、公言したこともなかった。しかし中学時代の教育係は、それを感じることくらいわけなかったということだ。おそらくは黄瀬と幾度となく対峙してきた青峰や、野生の本能とセンスでキセキの世代をも凌駕する火神あたりも気づいているのだろうけれど。

「日常生活に支障はないっス」
「そうですか、それはよかった。でもバスケは出来ないというのなら、それは果たしてよかったと言っていいものなのか、悩むところですけれど」
「いいんスよ、俺はもう高校で最後だって割り切ってたっスから」
「ならどうして、試合に来ないんですか?バスケが、嫌いになったわけじゃあ、ないでしょう?」
「出来ないっていう事実が、」
「目の前に突き付けられたところで折れるほど君はバスケに対して繊細でもないでしょうし」
「・・・・」

 勘違いでないならば、なかなか先ほどから黒子の言葉は厳しい。涼しい顔をしてすらすらと毒のある言葉を吐く黒子は、何ら変わりなどなかった。昔からこういう人間だ。

「こういうこと言うと怒られそうなんすけど」
「じゃあ言わなくていいです」
「ははっ、言うと思った、でも言うよ。中学の頃、青峰っちが変わっていくのに気付いた黒子っちの恐怖は、こんなだったのかなあ、って最近よく思うっス」

 黒子の目を見据えて、小さな微笑みさえ湛えてそういう黄瀬に、黒子は顔をしかめた。

 中学時代、圧倒的バスケセンスと勝利への貪欲さが人一倍強かった青峰に、敵などなかった。人からも羨まれるその輝きは、しかし時として相手に戦意を喪失させた。青峰大輝は、ああ見えてバスケに誠実な男であった。目の前で、立ち向かうこともせずに諦める男たちに失望し、そうしてバスケに絶望し、彼はバスケに本気になることをやめた。
 黄瀬も黒子も、それを側で見ていた。一番近くで一番青峰と色々な感情を共有していた黒子は、それをいち早く嗅ぎ取った。取り返しのつかないことになる前にと、黒子は相棒が墜ちてしまわないよう、必死に食い止めた。だが、青峰が墜ちていくスピードは想像を遥かに超えて早く、食い止めることはできなかった。青峰はバスケを楽しまなくなった。
 黄瀬が気づいたのは、多分もう、手遅れになってしまってからだった。正しくは変化に気付いていたけれど、それを気にしていなかった。だから黄瀬が青峰を食い止めようと、ちらりと思ったときには、既に彼は墜ちていた。部活にもあまり顔を出さなくなっていた。そしてそれから程なくして、黒子が部を離れていった。

「黄瀬君は、一生そんなことを思わないのかと思っていました」
「さっきからほんとヒドイっす・・・・」
「真正面から見ると、青峰君の光は、強烈ですから、残るんでしょうね、身体に」

 この小さな身体にも、その光は焼き付いて離れないのだろうか、と黄瀬は考えた。仮にそうだとしても、きっと黒子はもうその光を求めることなどないのだろう。黒子は多分、もう青峰の相棒になることは望んでいないように思えた。火神がいるから、とかそんな単純な話ではなく、ゆっくりと時間をかけて離れていったように思う。黒子の考えることなど、黄瀬にはわからないけれど。

 中学の頃から黄瀬にとっての青峰は、憧れであり追いかける存在であり、超えたい存在である。多少の変化はあるものの、基本的には変わらない。
 しかし、青峰の中での黄瀬涼太という男は、少しずつ変化していった。
 中学の頃は、チームメイトだった。黄瀬が上達しようがしまいが、そこは変わらない。一人一人の能力がずば抜けていた帝光中学では、チームプレイなどあってないようなものだ。黄瀬を含めたキセキの世代は、確かに青峰にとっても本気になれる数少ない相手ではあったが、互いに対峙することはなかった。
 高校は別々になった。すると今度はライバルになった。黄瀬が上達すればするほど、青峰は愉しそうに笑うのだった。青峰を変えたのは黒子と火神だ。けれど、変わった青峰が本気でぶつかる相手は、何もその二人だけではなかった。黄瀬は一瞬の油断も出来なかった。二人は常にライバルであり、バスケを通じでお互いを高め合った。
 黄瀬が、今をベストな状態で迎えること、に執着したのは、自然の流れだった。青峰と対峙するというのに、如何なる理由であれども本気になれないことなど、自分が許さなかった。

 今でも、あの選択を間違っていたとは思っていない。バスケは好きだったし、続けられるならば一生続けたいとは思っていたけれど、それを職業にしたいとは思わなかった。何となく続けていたモデル業も、いつの間にか本気になっていて、本業にしたいとすら思っていたからなのかもしれない。
 そして、黄瀬はバスケを辞めた。

 辞めてみたら、とんでもないことに気が付いた。



 バスケという媒介なくしては、青峰と相対することなどできないということに。



「思い返すと、大体バスケしてんすよね。そりゃまあ、飯食ったりもしたっスけど、でもやっぱりバスケしてる時の記憶が、一番鮮明に残ってる。そんで、俺はもう、そこにいることは無いんだなって思ったら、」
「怖くなりましたか?」
「うん。正しくは、青峰っちの中で、俺の価値が無くなるんだろうな、って思ったら、っスね」

 バスケをしない黄瀬が、果たして青峰にとってどういう存在なのか、考えるのは恐ろしかった。強烈に惹かれていたからこそ、そしてそれに応えるように見返りがあったからこそ、それが無くなってしまうことを恐れたのだ。
 黄瀬は空になったカップに、ティーポットからお茶を注いだ。時間の経ってしまったそれは、濃い茶色をしていた。味はいささか苦いけれど、それでも水分であることは変わらない。いつの間にやら乾いてしまっていた喉を、すう、と潤していった。

「何かと思えば自分の価値だなんて、君は僕に喧嘩を売ってるんですか?」
「・・・・はい?」
「バスケの才能で青峰君が人の価値を決めるのであれば、僕なんて底辺も良いとこです」

 しかも昔から、と黒子は言った。

「個人の才能の問題じゃなくて、青峰っちを楽しませるかどうかってことっスよ」
「そうだとしても。そういう意味ならなおさら、僕は価値が無いことになります。例えば火神くん。例えば木吉先輩。例えば日向先輩。例えば誠凛高校。僕と青峰君を仲介する人、集合体があって、初めて僕はその位置に立てるんですから」
「小難しいことはわかんねっす。でも、黒子っちはバスケをする。俺はしない。この差は多分、どうしようもなく大きい」

 黄瀬とて、自分がバスケを辞めたからと言って、青峰が黄瀬を無価値だと判断するような冷徹な男だと思っているわけではない。きっと会えばくだらないことを話して笑って、楽しいのだと思う。青峰のバスケを見るのは、きっと今でも興奮するのだと思う。

 それでも、あの光を知ってしまったから。

 その輝きが、失われたというのならば、まだ良い。それが幸福かどうかは別として、思い出の中だけで生きて行くことも可能だったのかもしれない。けれど、まだ、その光はあるのだ。失われず、なお輝きを増して、そこに在る。在るけれど、自分に向くことは、もう無い。自分が前に立つことはできないのだ。
 それならばいっそ切り離してしまおう、と黄瀬は考えた。自分とは違う世界の話ならば、それはきっとまるでおとぎ話のように黄瀬の中で静かに光を灯しつづけるだけで済むかもしれないと思ったのだ。
 ただし、そのためには条件があった。

 その光が、在り続けなければならない。

 夢見るのに、失われてはならないのだ。

 だから黄瀬は、不調を理由に逃げ出した青峰を追いかけた。どこかへ行こうとしているのを食い止めなければと思った。バスケで対峙することは叶わないけれど、バスケをしない彼を引きとめて戻すことはできると思った。
 青峰のバスケに惹かれて焦がれて、それ故にもう向き合うことはできなくなった。けれど、離れられれば、困るのだ。だから、また対峙することは出来ないのだとわかっていても、引き戻そうと働いてしまうのだ。
 皮肉だよなあ、黄瀬は頭の片隅で苦笑した。

「青峰君の世界は、バスケを中心に回っています。と、いうより成り立っているのでしょう」
「そうだろうね」
「これはもう、どうしようもない事実で、その優先順位は変わることなどないと思います。でもね黄瀬君、青峰君が自分の大好きなバスケを、自分の意思では切り離せないバスケを、思う存分思いっきり続けるためには、その周りの世界だって必要なんです。君はかつて青峰君にとって、かけがえのないライバルだった。その過去は変わらない。過去は、いつだってそこに正しく在りつづける。そしてそれが、今の青峰君を形成しています」
「だから俺は必要な存在だってこと?悪いけど、別にそんな慰みの言葉が欲しいわけじゃないっす。これは俺自身の問題だから」

 青峰が、どう思っているか、が重要ではないのだ。
 黄瀬が、それに耐えられないだけなのだから。

 黄瀬は、再び冷めてしまった紅茶にゆっくり口づけた、と同時に黒子の手が、にゅう、と伸びてきて、それを奪い、彼の口元へ運ばれていく。呆気に取られて黄瀬が見ていると、黒子は黄瀬が先ほど立てたよりも大きな音をさせて、カップをガチャン!とソーサーに置いた。明らかな怒りが込められていた。珍しい、と黄瀬は目を丸くする。

「うるさい」
「はあ、スミマセン」
「いいですか」

 黒子の声は飽くまで静かだった。しかしその声には、きっとちょっとやそっとのことでは動かないであろう芯が込められていた。

「僕も君も、青峰君のバスケに魅入られた一人です。それはもう、刷り込みのように染みついている。多分、一生あるのでしょう。だから黄瀬君の気持ちはわからなくもありません。一度でも青峰君が自分に本気で向き合ってくれた喜びを知っているから、それが向けられなくなることに、恐怖を覚えるのは無理もありません。けれど、いいですか」

 びしり、と黄瀬の鼻先に、人差し指が向けられる。人を指さしてはいけません、と中学時代黄瀬の教育係だった彼が言っていたことを、ふと思い出した。そのルールを破ってまで、黄瀬に言い聞かせたいことがあるらしい。黄瀬は黙って黒子を見つめている。

「黄瀬君が離れていったら、青峰君は悲しみます。悲しむという表現が適切かどうかはわかりませんが、少なくともマイナスに働くのです。だから君は、青峰君に焦がれる者として、それを絶たなければならない。彼に最高の瞬間を生み出してもらうために」

 わかりますか、黒子の目は真剣であり、そしてどこか諦めたような、寂しげな感情を湛えていた。

「それってさあ、結局黒子っちのわがままだよね?」
「そうですね。僕というか、たくさんいる僕たちの、我侭です」
「・・・・努力するっスよ」

 黄瀬の返事に、黒子は疑いの眼差しを向けてきたが、今日のところはそれで諦めてくれるようであった。
 もうこの話はお終いです、黒子は帰り支度を始める。

「じゃあまずは手始めに。試合に来たくないのでしたら、まずは飲み会ですね。久しぶりに赤司君が帰ってきますから、集まるんです。君にもメールしましたが、どうせ覚えてないでしょう?2週間後の水曜日、新宿に集合です」
「えー、仕事かも」
「法律の小テストがあるから、4限に必ず出なくてはならないし、その後高尾君と勉強する予定だと聞きましたが?」
「黒子っち把握しすぎ!」
「今回はわざとそこにぶつけたそうですよ。ちなみに赤司君が。高尾君に断りのメールなら、もういってると思います」

 それじゃあ僕はこの後火神君と約束があるので。
 黒子は相変わらず涼しい顔のまま。伝票を持ってさっさと行ってしまった。追いかけようと黄瀬の腰を上げかけたが、結局何だか面倒になって、もう一度椅子に沈み込む。黒子が残していった居酒屋の名前と場所のメモを、つまみあげて裏返す。そっけない字で「青峰君を連れ戻してくれてありがとうございました」と書かれていた。素直に言わないところは変わらず彼らしい。
 ふう、と一つため息をつく。黒子の言う言葉を何度も噛み砕いて吸収する。

「わかってんスよそんくらい・・・・」

 バスケについて、とりわけ青峰について思考すると、必ずちらつく言葉がある。
 「またここで」、黄瀬の中の青峰は、そう言って笑っている。あの日からずっとだ。あの日、黄瀬はそれに、条件反射のように「りょーかい」と応えて、そして果たされることはなかった。だから、きっともう二度とコートには立てない。青峰とコート上で会う時は、あの時の約束が果たされる時だ。
 コート上ではないから、迎えにいけたのかもしれなかった。コート上ではないから、思っていたよりもすんなりと言葉が出てきて、向かい合うことが出来た。避け続けていた割に、何だこんなものか、と思ったのもまた、事実である。

 けれど。



「だけどさあ、黒子っち、やっぱり、やっぱり叶うなら同じところに、居たかった、って思うんスよ」



 あの時の選択を、間違っていたとは思わない。
 思わないからこそ、訪れることのなかった未来を思い描いては、焦がれるのだ。今になって。今更。今だからこそ。

 だからと言って、いつまでも立ち止まっているわけにもいかない。それが例え妥協だとしても、自分の気持ちに折り合いをつけなければ、人は前になど進めないのだ。
 さらさらと、まるで砂時計のように、無常にも時は進んでいく。一人つっかえて進めない黄瀬は、もういっそこのわだかまりのように残る感情が、溶けて無くなって忘れ去ってくれたらいいのに、と幾度となく思った。

 じくりじくりと胸の傷は痛むけれど。

 それでもきっと、彼のために、自分の感情は犠牲になる。



 もう少し、時間はかかるけれど。

 全部忘れてしまいたい、あの光でさえ。と黄瀬は祈るように言葉を紡いだ。ざわつく店内に、それは風となって消えていった。





この世界の色彩を求めて







 


青峰くんと黄瀬くん。シリアスな感じとか切ない感じ。
aumo様、リクエストありがとうございました!

なんだか思いの外長くなってしまって申し訳ありません・・・・!黄瀬くんと青峰くんだけだと黄瀬くんの感情がまったく表に出てこなかったので、黒子に登場して頂きました・・・・。黄瀬くんは青峰くんに対して素直じゃないイメージなので・・・・。シリアス・・・・?切ない・・・・?という感じの出来になってしまっていて、不安です。が、それぞれの青峰に対する感情に興味がとてもある私にとって、かなり楽しく書かせて頂きました!黒子からの青峰への感情は、いつか書きたいですね。
あ、本誌でなんだか過去編をやっているとのことですが、本誌は読まないので、何か食い違うところがあったら申し訳ありません。

back