彼らは学習していくタイプの人間だ、と黄瀬は思っていた。そもそも頭の悪い二人ではないし、相手がどう出るのか、よくわかっているはずだった。それなのに飽きもせず毎度ああしてぶつかり合うのだから気が知れない。学習しないわけではない、きっとわかってやっているのだ。なお、性質が悪いじゃないか、と黄瀬は短い溜息をつく。隣で緑間と青峰も二人を眺めていたが、結局止めなかった。赤司もコーチも不在だったのが大きい。そこにいた面子は、面倒事に自ら飛び込むような性格ではなかった。
結局黒子が紫原に向かって何かを言い、彼は桃井の後を追った。紫原は見るからに機嫌が悪そうだが、どうやら練習を再開する気にはなったようだ。大股で黄瀬たちの方へと戻ってくる。
「いい加減にしたらどうっすか?黒子っちの前であんなこと言っちゃ、食いつかれることくらいわかってるっしょ。ほんと容赦ないっすわー」
「ハア?黄瀬ちんにだけは言われたくねーし」
黒子は黄瀬の教育係だった。一時期部活の時間をほぼ共にしていたこともあり、黄瀬は黒子に懐いている。だから何となく、言い争いをした二人のうち、黒子の肩を持ってみようと思ったのだ。本当に、それだけだった。それ以外に黄瀬本人の感情はない。二人の争いの元となった最近一軍に上がってきたらしい少年のことなど、黄瀬は知らなかった。だから別に、彼を擁護したわけではない。あくまで、黒子を擁護しようと思った。気まぐれに。そうしたら、その目線だけで人を射殺せるんじゃないかと思うような敵意に満ちた目で、紫原に睨まれた。
「何で俺?」
「こっち側でしょ、一番容赦ないくせに。こういうとこだけ、俺と似てると思うよ」