「何故黄瀬君は青峰君が欲しいのでしょう」



 部活動が始まる30分前、練習後だけでは物足りず、とうとう部活前まで1on1を始めた青峰と黄瀬に視線を投げながら、黒子が言った。念入りに爪磨きをしていた緑間は、ぴたりとその動きを止めて、横に並ぶ黒子を見遣る。

「・・・・お前の青峰への好意がそういう意味だったとは知らなかった」
「それ、本気で言ってるんだとしたら、最低です」
「そういう意味じゃないとするならば、黄瀬が青峰を欲しがる云々の台詞の意味が俺にはさっぱりわからないのだよ」

 蒸し暑く、風通しの悪い体育館の熱気は、変に気分を上昇させる。やる気なんて微塵も起きないのだけれど、どうも感情は高ぶってしまうのだ。些細なことが気になるし、些細なことでもつっかかりたくなる。

「僕は影で、青峰君は光です。黄瀬君も光です。例え青峰君の方が強い光だとしても、自分も光なのだから、必要ないでしょうに」
「何が言いたいのかさっぱりわからん」

 会話を続けることに意味を見いだせなかった緑間は、再び爪の手入れを始めた。中学生の割に随分と大きな体格をしている男が、自分の爪を丁寧に磨いている様は、いつ見ても滑稽だった。壁に背を預けて寄り掛かりながら、黒子は緑間を見下ろしている、「緑間君ならわかってくれると思ってたんですけど」言葉を上からぶつければ、心底迷惑そうに顔をしかめて緑間が立ち上がった。見下ろされる。

「お前と一緒にするな」
「一緒にはしていません。そんなおこがましいこと、出来るわけがないじゃないですか」

 君たちは天才で、僕は凡人です、ようく、ようくわかっています。黒子は再び、青峰と黄瀬に視線を向けた。じゃれ合うようにバスケットをする彼らが、きらきらと光る。今の時間帯は体育館の窓から光が綺麗に入り込む。それを受けて、ちかちか、ちかちか、視界の中で踊るように光が揺れる。黄色の他に、きっと汗にも反射しているのだろう。眩しかった。



「お前のそれは羨望で、あいつのは憧れだろう」



 種類が違うのだから気にするな、と緑間はぶっきらぼうに、けれど力を込めて言った。

 初めて黒子が青峰のプレーを見た時、ああ自分もこんな風にバスケがしたい!と思った。思ったけれど、彼にはなれないことくらい、自身が誰よりもわかっていたので、彼を真似ようとは思わなかった。あんなにもバスケットそのものに愛された男など見たことが無い。愛されなかった自分には、到底無理だと悟ってしまった。だから、影になった。光ることはできないけれど、彼を一層光らせることならできると思った。足元に、ひっそりと佇んだ。それが黒子にできた精一杯だった。
 しかし後からひょっこりと現れた黄色は、すぐに青の隣に立った。隣に立っただけで、間違っても青になることができたわけではない。けれども、正々堂々、隣に立った。そして真正面からぶつかっていく。

「わからないんじゃなかったんですか」
「・・・・放置して試合に影響が出れば面倒だ」

 爪の手入れが終わったのか、緑間は側にあったバッシュを掴むと、倉庫の奥へと消えていった。黒子は変わらず青峰と黄瀬を目で追う。きらきらきらきら、目を細めてしまいたいほどに、光る。





「種類が違ったって、欲しいものは同じです」






例え君でも譲れません






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