同類に会うと人は安心するらしい。 逆に言えば同類が側にいない人は、何かしらの繋がりを求めて旅だっていく。見つけることができなければどうしたって精神にかかる負担は大きくなって、自分が保てなくなってしまう。 戦前までの生活共同相互扶助の原則が、戦後の急激な社会の変化によって瞬く間に崩壊したとき、その名残を新宗教に求めたものが多かったのもそのせいなのかもしれない。 学校の同窓会にしろ町内会にしろ、つまるところ共同体を必要とした誰かが立ち上げたのかもしれない。 そう、人とは常に何かしら自分と共通点のある人を求める生き物なのだ。 だから決して目の前の彼らの会話についていけないのは、自分が悪いというわけではないのだと信じたい。 彼らは同類なのであって、自分が異種なだけなのだと。 「シーかランドかと言われれば鹿かな」 「えー、俺はカモシカかもしれない」 「英士はー?」 「・・・・・そういうわけわからない話俺に振るのやめてくれる?」 なんで?と当たり前のように首を傾げる幼なじみに、郭はため息を一つ。となりで若菜が愉快そうに笑う。 今日は待ちに待った夏休み初日だった。幸か不幸か今日から三日間、選抜もユースもない郭と若菜と真田は、珍しく郭家に集まることになった(遠いのであまり郭の家に集まることはない)。 駅まで二人を迎えに行く途中に、母親からお使いを頼まれた郭は、小さな商店街で八百屋を営んでいる家に寄ったことが運の尽き、幼なじみのに捕まったのだった。「英士じゃん、なにお使い?どっか行くの?」、中学のジャージを薄い黄色のTシャツの上から羽織っただけのおそろしくラフな格好では店の奥から顔を出した。ちょっとね、そう言って郭は頼まれたものを購入すると店を後にした。 のだけれど。 二人を連れて家に帰れば玄関には見知ったビーチサンダルが一つ。 「おかえりー英士、久々ー結人、一馬」 当たり前のように部屋にが居た。 もともと郭の試合を見に来たり、一緒にご飯を食べたりで知り合いだったので、結局も巻き込んで部屋でなんとなく各々の好きなことをしていた。暑いのが苦手な郭の部屋はもちろん冷房完備で、さらに太陽の光さえ入れない。外でぎらぎら照り付ける太陽が嘘みたいに、冷えた室内でぐだぐだしていたのだけれど。 いつも通り最初に飽きたと騒ぎ出したのは若菜だった。「英士ー暇なんだけどー」と読書をしていた郭の上に覆いかぶさってみたり真田の漫画を取り上げてみたりとひとしきり騒いだ後に、結局結人の遊び相手に選ばれたのは、案の定だった。 「あーでもいいなー4人でディズニーとか楽しそうじゃん」 「え、なに鹿?」 「ごめん、そのネタもういいわ」 「・・・・・うん、そうだね」 「なぁ、英士一馬いいじゃんディズニー行こうぜ」 「俺は別にいいけど・・・・・」 「暑い」 「前々から思ってたんだけど、英士ってサッカー少年にあるまじき発言と態度を取るよね」 はケタケタと笑う。 絶世の美女というわけではないけれど、冷たい印象のある整った顔立ちをしている。郭と並ぶとどこか近寄り難い雰囲気のあるカップルに見えるらしい。面倒だからといって部活動にも入らず年がら年中家に引きこもっているから、肌は白い。母親譲りの綺麗な黒髪と丁度良いコントラストを為していて、見るものをはっとさせる容姿だ。 「・・・・・これでジャージ着てなければいいんだけどね」 「はい英士聞こえてるから」 「ん、別に会話を試みようとしたわけじゃないから気にしなくていいよ」 「まー、と波長あった会話できるのは俺くらいだからなっ」 若菜が得意げに言ったのを「全然羨ましくない」と郭と真田は二人で一蹴した。 にもは、決して普通の女の子とは言い難いと思う。誰だって少なからず他人と違うところを持っているものだけれど、のそれはそういうレベルではないと、よく人は言う。多分、仲が良い人たちの意見は別にして、その他大勢の他人から見たら、この中で一番「どこかにいそう」なのは若菜だ。郭と真田はどこかズレたところが確かにある。あまり見かけないタイプかもしれない。それでもやはり「どこかにいそう」ではあるのだ。 だけど、はそんな気がしない。 今までに会ったことがないタイプで、でもどこが具体的におかしいのかと言われると、答えられない。 全部、一歩横にいるような。 「英士ちゃん?もしもーし」 ぼーっとしていたらしい郭は、に呼び掛けられて顔をあげる。 「なに?」 「何じゃないよ、で、ディズニーは行くの行かないの?」 郭たち3人組は、ユースでやはり少し異質だった。個々に話せば皆中々面白い奴らだし、若菜に限ってはむしろ友人はかなり多い。得に彼とそれなりに親密になる人は、皆気さくで人見知りをしない人が多いから、3人でいる時でも平気で話し掛けて来るのだけれど。 それでもやっぱり最後は3人だけでいいと多分、思っている。 だから彼らのグループに少しお邪魔することはあっても、長居はできない。 「えーいいじゃん英士も行こうよー何であたしがあんたらに混じってると思ってんの、偶数にするためでしょー英士抜けたら意味ないじゃん」 「えっ、なにそれはそんな動機で俺らといるわけ!?」 「だめなの?」 それでもなら居てもいいかな、と3人に思わせる。 絶対に相容れないけれど、でもだからこそいいのかもしれない。 無理に合わせようとしないから。 もちろんある程度の気遣いは必要だけれど、問題はそこじゃない。 「・・・・・いつ行くの」 「お、行く?やったよかったね一馬、これで仲間ハズレにならないよ」 「別に俺、結人とに仲間入りしたいとか思わないし・・・・・」 「一馬!?何気に俺のことも馬鹿にしてない!?」 同類に会うと人は安心するらしい。 だけど少しくらい、違う色が混ざる必要もあると思う。 「でも俺、とは乗り物乗らないよ」 「なんで」 「合わないから、感性が」 朱に混ざっても 君は変わらない。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 英士って、自分と同じ人っていうよりも、違う人を選びそう。 と、思って、それを、表そうと、したんだけど、なーorz ちなみに「ランドかシーかと言われれば鹿」「カモシカかもしれない」は某Yさんの発言でした。あのメール送られてきた瞬間、ココは意思疎通を放棄した、よ! 09年07月25日 |