放課後、いつもよりも閑散とした図書室で私はソファに腰掛けて窓の外を見つめていた。

男女別校舎である武蔵森学園唯一の共同棟である、通称図書館棟。図書館の他にも大きな視聴覚室やAVルームがあるのだけれど、この2つを男女で使う機会はないに等しい。学年集会や授業で使われるせいもあるのかもしれない、とにかく私は今までその2つの特別教室で男の子に出会ったことはない。対して図書館は男女共同に使うスペースだった。確かに同じ本をわざわざ2つも購入するのは馬鹿らしいし、そうなって当たり前だと思う。司書の先生が怖くて滅多に話をすることはできないけれど、それでも出会いを求めて、または密会目的でやってくる生徒は多かった。図書館棟に続く渡り廊下までも別々だから、本当に図書室で会うことしかできないのだった。それがここ最近少ないのはきっとそろそろ学総が始まるからなのだと思う。全国に繋がる最後の大会に賭けて3年生は部活動に精を出す。私の所属する写真部は、その大会の様子を写真に収めることはするけれど、特にコンテストに出たりはしないから、今日も部活動は各自と連絡が入っていた。

私はようやく立ち上がるとお気に入りの棚へ向かい、どの本を読もうかと吟味する。この間読んだ本が意外にも面白くて、その作家の他の本を探すのだけれどなかなか見つからない。諦めて違う人の本でも読むかと、しゃがんでいた体勢から立ち上がり顔を上げると、そこには知らない男の子が立っていた。手にしている本はまさに私が探していた作家のもので。なんだ先に取られちゃったのか、と心の中でため息をつきつつ、題名を見ようと視線を少しあげる。

猫目の少年だった。

まぁまぁ綺麗な顔立ちだな、なんて偉そうに一人でその少年を分析する。上から目線になってしまっているのはきっと本を取られたせいなのだろう。私は仕方なしに他の本を乱暴に掴むと、彼の横を通り過ぎて貸し出しカウンターに向かおうとした。通り過ぎる際にもう一度、彼を盗み見る。ただしくは彼の手の中にある本に視線を向けたのだけれど。



少年が笑った。



もちろん私に向けて笑ったわけではない。ただ単に本の内容に満足したのだと思う、口の端を微かにあげて上品に微笑んだ。



名札には、笠井竹巳という名が刻まれていた。





君に恋した瞬間





 
END
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藤代に恋する女の子が、気づいたらしているタイプだとしたら、笠井に恋する女の子はその瞬間をはっきり自覚しているタイプだと思う。
楽しいなぁ、このシリーズ続けようなかなぁ。

08年01月03日


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