「?」 特に何をするわけでもなく、街の雑踏をぶらぶらと歩いていたときのことだった。 何度も聞いた、でも最近聞くことのなくなった、幼なじみの声がして、私はびくりと振り返った。 「誠二!わぁ、どうしたの久しぶり、帰ってきてたんだ?」 幼なじみの藤代誠二はサッカーの強豪武蔵森からの推薦を受け、中学からは遠く離れた東京の地で寮生活を送っていた。 誠二と私は昔から姉弟みたいねと言われながら育ってきて、私から見ても無鉄砲に何でもやりたがる誠二はまるで弟のようだった。ついつい世話を焼きたくなってしまうのだ。何かを誠二が始めると言えばついていっては面倒を見ていた記憶がある。 それが、サッカーだけは違った。 私が女だったとかそんなことは関係ないのだろう。ぐんぐん成長する誠二を見て、ああ私がいなくても誠二はできる子なんだな、とそう思った。淋しかったとか、そんなことは言わない。ただ、こうして帰ってくる度にさらに成長している誠二を、うっかりかっこいいとか思ってしまった。 「なー、聞いてー俺この間の試合ハットトリックとった!」 そうやたらと眩しい笑顔で言う誠二に、私は「ハットトリックって?」と聞いた。もちろんハットトリックくらい知っているけれど、誠二の中で私はサッカーをあまり知らない幼なじみという設定なのだ。誠二のおっかけみたいになってしまいそうだ、とか理由ならいくらでも思いつくけれど実際はただ意地を張っているだけだってわかっている。自尊心なんてそんな面倒なもの、どうして私は持って生まれてきたのだろう。 「今楽しくて仕方なくてさー、」 夢に向かう男の子がかっこいいから、誠二もかっこよく見えるんだ、きっとそうに違いない。私はつとめて冷静に対応していたつもりだったけれど、何か違和感を感じたらしい誠二は話を途中でぶつ切りにした。 「?」 そう言って顔を覗き込んでくる幼なじみ。 「(あーもう近い近い!かっこよすぎんだよ馬鹿!)」 恋は理屈じゃないのよ、なんて言っていた姉のことを少しだけ思い出した。 |
END ++++++++++++++++++++++++++++++++ 藤代って気づいたら恋されてるタイプだと思う。 08年12月30日 |