「明日は何の日でしょうッ!」

突然藤代にそう言われて私は、へ?、と間抜けな声を出した。











気者











いつも通り昼休みに、通称愛の隔壁と呼ばれる高いフェンスを乗り越え(普通無理らしいけど)幼なじみの笠井竹巳とその友達、藤代誠二と昼ご飯を食べていた。季節が季節だったために他に人影は見当たらない。藤代と幼なじみの私の友達も一緒になって食べることが多いのだけれど、誘ってみたら、あんたたちこの寒
い中外で食べるなんて馬鹿じゃないの、と、一蹴された。冬と夏は彼女は気が向いた時にしか来ない。
確かに今の時期は半端なく寒く、暖房が切られた後の寮の廊下はまるで海底にでも沈められたかのような寒さと静けさだ。寮生で暖房が切られてから部屋の外に出る人は少ない。吐いた息が白く形作る間は基本皆部屋に引きこもって動こうとはしない。私はよく部屋ーというかむしろ寮を抜け出して寮母さんにこっぴどく叱られるけど。


と、何の前触れもなく、藤代が明日は何の日かと聞いてきた。
まだバーチャル空間にあった私の意識を半ば無理矢理引き戻し、ぼんやりと言われたことの意味を考える。
隣にいる竹巳を見ればくすくすと笑っているだけで何も言わない。それでもとりあえず何か知っているようだった。

「共通数学標準模試の日?」
「ば・・・ッ!!そういう余計なことは思い出さんでよろしいッ!」
「ほんとのことでしょーッ!!あ!わかった祝藤代が美貴先輩に振られて一年の日!」
「振られてないし大体美貴先輩て誰だし!」

何も思い浮かばなかった私はとりあえず適当なことを口走ってみたものの、当たるわけもなく。

「降参。」

考えるのが面倒になった私は両手を挙げてそう言った。
諦めるというのも時には大きな意味を持つわけで。私の諦めの早さに怒った誠二は私のお弁当に入っていたたこさんウインナーを二つ、食いやがり。今日のたこさんはいつにも増して形が綺麗で気に入っていた私は誠二が毎回買ってくる、海老マヨネーズおにぎりを一度で口の中に放り込んだ。

「あーっ!おまっ・・・!俺が海老マヨネーズおにぎりを愛してやまないのを知ってるだろ!?何このひどい仕打ちッ!!」
「何だよーッそっちこそあたしが毎朝たこさんウインナーに命かけてるの知ってるくせにッ!!」


毎朝毎朝いかにすればたこさんの形がよくなるか研究してるのに!


後ろを見やれば例の両想いになれるという鍵を二人仲良く持ってやってきたカップルが所在なさげに立っている姿が。でも残念ながら不機嫌度絶好調だった私はにこやかにどいてあげる気なんてさらさらなかった。

「竹巳!この大人気ない女どうにかしてよ!」
「はぁー!?最初にやってきたのはあんたでしょーッ!!」
「二人とも本題からズレてる。」


さらりと今私たちに何が一番重要か、教えてくださいました。さすが竹巳。


そういえば明日は何の日か聞かれていたんだっけ。数分前のやりとりを頭の中で描いてみるものの何もヒントになるようなものは見た当たらない。寒さで動かなくなりつつあった自分の手を、水筒の中から出したホットレモンティーの湯気に当てて温めようとした。


それにしてはちょっと湯気が少ないですかね・・・。


「まったく思い当たるものがないんですけども。」
「去年のこの時期のこと、思い出せば割りとすぐわかると思うんだけど。」

去年は真柴さんも一緒だったけどね、と竹巳。あーそいえば梨瑚の奴もいたなぁ、と藤代。今年は呼ばないのかと聞いたら、だって寒くて此処来たくないんでしょ?と返された。
なるほど。
去年ここで話し合ったことなんだな?

あ。

「みかみんの誕生日だねッ!?」
「正解。」

すっかり忘れていました我らが父の三上先輩。ちなみに母は渋沢キャプテンでございますが、何か。

「懐かしいなぁ。去年は手作りゴキちゃんプレゼントしたんだっけ。」
「そうそう!部室の三上先輩のロッカーに入れておいたんだよな!そしたら三上先輩信じちゃって大騒ぎ!その後ものすごく怒られたけどなッ!」
と誠二がね。俺と真柴さんはカップケーキあげたんだよ。」
「家庭科で作ったやつでしょ。」
「・・・・・・・・。」
「・・・自分の誕生日にものすごくひどい扱い受けたんだな、先輩・・・。」

ちょっと哀れになってきました、ごめんみかみん。

その後今年は本気で祝ってあげようか、という話になり、私たち三人はみかみんのどっきり誕生日パーティー企画を計画した。何せ明日なので時間がない。今回のキーポイントはどっきり、だったのでそこに重点を置いて話し合った。渋沢さんも入れようかという話にもなったけどさすがにこの短期間では無理だと判明。ついでに驚いてもらうことになった。ちなみに今回梨瑚は不参加ということに。ただ単に説明するのが面倒だということになっただけなんだけれど。

「よし、じゃぁ手筈通りに。」




「「健闘を祈る。」」




竹巳だけ、ものすごい渋い顔をした。















「渋沢・・・。こんなもんが出てきた。」
「何だ?・・・ぷっ!あぁ去年のお前の誕生日に紫音と誠二が作ったやつか。」
「捨てたら呪われそうだ・・・。」
「・・・・・・・・特ににな。」

私たちが傍にいるなんて露知らず。みかみんと渋沢さんはそんな会話を繰り広げていた。

やっと部屋に戻ってきたと思ったらいきなりその会話ですか。

私は思いっきり顔をしかめた。隣にいる誠二の顔を伺ってみたけれど、暗くてよく見えない。でもとりあえず奴はああいうことを言われて怒らないわけがない、と私は考えた。

ムカつくのはわかるけどここは抑えてください、お願いだから。

「そういえば明日はお前の誕生日だな。」
「誕生日というと今まで何度も経験してきたはずなのに去年のことを真っ先に思い出すのは何故だ。」
「そりゃぁ手作りゴキを入れられて、散々からかわれ。せっかく笠井と梨瑚からカップケーキをもらったと思ったら中から評価が出てきて家庭科で作ったやつだと判明すれば記憶にも焼き尽くだろう。」
「うるせ。笠井たちのはいんだよ、たとえ家庭科で作ったやつだとしても自分らで食べずにくれたんだからよ。」
「評価はDだったがな。」
「・・・・・・・・黙れ渋沢。」

みかみんが本気で落ち込んでるのが伺えます。楽しんだ去年の私をちょっぴり反省。
でもご安心を。今年は盛大に祝って差し上げますから!

イヤホンから竹巳の声が聞こえ出した。竹巳がカウントダウンを始める。
十数年前、みかみんが生まれたその時まであと二十秒。私と藤代はお互いの拳をコツンと合わせ、もう一度健闘を祈った。


『紐』を握る手が汗ばむ。
心はかなり踊っていた。













パパーンッ!!!!













盛大な音をたてて爆発したクラッカーを手に私と藤代はクローゼットから飛び出した。
これでもかという程目を見開く二人。
驚いているみかみんの頭上に、藤代は、授業中頑張って二人で作った大量の『がに股鶴りん』を盛大に降らす。





「「誕生日おめでとうございます!三上先輩!!」」





コンコン、と律儀にもノックをして入ってきた竹巳の後ろには何故か今回不参加予定だったはずの梨瑚もいて。二人は、ご愁傷さまです、と声を揃えて言った。

手には今日家庭科で作ったスポンジケーキ。

大丈夫です、今年は評価Aですから、と二人。
固まって動かないみかみんを無視して私たちはパーティーの準備を始めた。


「では改めまして、」



「「「「お誕生日おめでとうございます!」」」」



みかみんがふざけんな!と言葉を発したのと、渋沢さんが笑いだしたのと、寮母さんが慌てて部屋に入ってきたのがほぼ同じタイミングだった。




こんな風に祝ってもらえるというのも、人気者の宿命なのではないですか?

ハッピーバースデー三上亮、生まれてきてくれてありがとう。


END

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遅れましてー・・・三上くん誕生日祝い夢でした。
三上より藤代と笠井の方が登場率が高いという。しかも何だこの祝われ方は!
幸せものだと思います。(どのへんが)
とにかく三上誕生日おめでたかった!

06年1月25日


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