うらぎられました!








Good-bye 曇空









明日は椎名翼の誕生日である。
そんなことは言われるまでもなくわかっていた。周りの女の子たちが嫌というほど騒いでいるからだ。
正直、はそんなことに興味はなかったし、一つ上のアイドルみたいに可愛い顔をした先輩を祝う気になんかさらさらなれなかった。確かに椎名翼はアイドルも顔負けの可愛い顔をしているし、それは紛れも無い事実だと思う。だからと言って何でここまで騒いでいるのか、には理解ができなかった。大体、あの椎名翼がこんな風にたくさんの女の子からもらったプレゼントを大事に受け取るとは思えない。彼女たちはもちろん椎名翼に好意は持っているのだろうが、それは好きな人に向ける愛情というよりも芸能人に対する愛情と似ているのだとは思う。それなのに何故プレゼントを渡すだのなんだの大勢で話し合っているのだろうか。
盛り上がっている少女たちに、は教室の隅っこで顔をしかめていた。

「お前はああいう話には混ざらねーの?」

ふいに横からかかった声には顔をゆっくりとそちらに向けた。
同じクラスで比較的仲の良いの黒川柾輝が立っていた。

「混ざらないよ。だって別にあたしは椎名先輩のこと好きじゃないし。」
「嫌いなのか?」
「違うよ。でも好きでもない、ましてやあんまり親しくないあたしがなんでプレゼントあげなきゃいけないの。」

女の子ってわからない、とはますます顔をしかめた。

「あんまり親しくないって・・・・あのなぁ。学校の女の中じゃお前が一番親しいだろ。」

呆れた声でそう言われ、は、えー、と抗議の声をあげた。
突っ伏していた上半身をずるずると引き上げて黒川の方を向いた。

「そーなのー?同じクラスとかにもっと親しい女の子くらいいるでしょー?」
「いないな。」
「何で断言できんのよ、あんた椎名先輩と同じクラスじゃないじゃん。」
「翼がそう言ってたから。」

さらりと何だか爆弾発言を言ってのけた黒川に、は返す言葉が見当たらなかった。

「そんな言葉いらないー。嫌だもん、そんなこと噂とかで流されたらあたし生きていけない!きっとファンクラブの人とかにボコボコにされるんだー!」
「しょうがねーだろ、実際そうなんだから。」

黒川柾輝とは中1の頃からそれなりに仲の良いクラスメイトである。
黒川柾輝と椎名翼は部活仲間である。
よってと椎名が親しくなるのにそんなに時間はかからなかった。
もともと運動の好きだったは彼がサッカーをしているのにくっついて行ってなんとなく一緒にやってみたり、側でただぼーっと見ていることが多かった。女友達がいないわけでもないのだが、彼女たちといるよりも黒川たちの側にいる方が楽であったために、は結局、今に至るまで、黒川たちとつるんでいた。1人ものすごく仲の良い女友達がいるのだが、彼女は今年違うクラスになってしまった。の性格は実にさっぱりしている。さらにその外見はきつめの美人であり、なんとなく近寄りがたい雰囲気があるのだろうか。2年になってからはクラスで一緒にいてくれるような女の子は1人もいない。話かければ話はしてくれるものの、別にずっと一緒にいようとは思わないらしい。それは自身もそうだったのであまり気にしていなかった。
そんなわけで彼女は今日も1人教室でぼんやりと空を眺めていたのだ。
黄色い女の子たちの声をBGMにして。
そんな時に黒川からの爆弾発言。正直迷惑だった。

「今日俺ん家集合な。翼の誕生日を日にちまたいで祝うから。」
「いいってば。あたしを巻き込むな。」
「拒否権はお前にはないので必ず来るように。」
「・・・・・・えー・・・プレゼント買うのめんどい・・・・。」

非常に間違った理由で断る

「いらない。もう買ってるから。」

黒川はそう言った。

「何じゃそりゃ。」
「皆で翼にプレゼント。割り勘な。」

572円持ってくるように、とも言われた。当たり前のように頭数には入れられているらしい。

「・・・・・・・・・わかったよ、行くよ。」
「9時にうちな。そんじゃまたあとで。」

黒川はそう言って去っていった。
ふぅっ、と小さく溜息をつく。しかし別には彼らに会うのは嫌いではないのだ。
少し弾んだ気持ちになっては帰り支度を始めた。





















「・・・・・・・・・・いやいやいやいやいやいやちょっと待ってこれは何。」

p.m9時。黒川家に着いたを待ち受けていたのは大量のビールやつまみを持った中学生だった。
何かが間違っている、とは思ったがそれは言わない。彼らがただの中学生ではないのは痛い程よくわかっているからだ。
だからと言って、これはどうなんだろうか。

「何って・・・・お前マサキから聞いてねぇの?翼の誕生日を皆で祝おうって。」

きょとん、とした顔でそう聞いてきたのは畑五助。
他にもいつものメンバー、畑六助と井上直樹が集まっていた。

「・・・・いや、それは聞きましたけどね、ビールはないでしょビールは。え?っていうか何?黒川の家でやるんだよね?」

そう言えばさらにわけのわからないといった表情になって3人はを見た。

「何言ってんねん。花見するんやで?」
「花見!!??何わけわかんないこと言ってんの!?」
「夜桜綺麗だろ?」
「夜桜!?何言ってんの!?もうとっくに散ったじゃない!今は葉桜ですらないから!」
「「「・・・・あ。」」」

がくっとは肩を落とした。どこまで馬鹿なんだろう、この人たちは。
大体暖かくなったとは言え、何故半袖の奴がいるのかすらは理解に苦しんだ。とにかくこの男達は何かが足りない。たぶん、思慮とか配慮とか遠慮だ。

「ありえない・・・・っていうか肝心の椎名先輩は?あと黒川。」
「2人なら今マサキん家。なんでもおばさんがケーキ焼いてくれたとかなんとか。」
「っていうか花見はやめようよ・・・花見は・・・。」

が反対の声を挙げても支持してくれるものは1人もいない。
何でこの星一つ見えない曇空の元、中学生5人で酒盛りなんかをしなければならないのか。はとても理解できなかった。
よしっ、とかけ声を心の中でかけるとくるりと体の向きを変える。

「帰る。」

「えー!!!!」
「何言ってんねん!お前いなきゃ意味ないっちゅーのに!」

当然、踵を返したに対して3人は抗議の声を挙げた。それでも無視して立ち去ろうとするの腕を井上は慌てて掴んで止めた。

「・・・・・・・・・・条件がある。」

低い声では言う。
おう、と3人が思わず身構えてしまった程声は低く、の声とは思えなかったのだ。

「お酒、禁止。」

びっ、と井上が持っているビールの入った袋を指差して彼女は言った。

「禁止、ねぇ。ほんまにこの酒類なしなら19日までは帰らんのか?」
「本当。ちゃんと椎名先輩を19日にお祝いしてから家に帰ります。」

溜息を付く。まったく、と心の中で毒づいて目を閉じた。
今は4月18日。春の学校対抗は、もうすぐそこまで迫ってきているのだ。そんな時に何を考えているのだろうか。
こういう所が彼らのよくわからない所だ。何故、こんなことを考えたんだろうか。

と、その時。




「翼ァ!今の聞いたかー!?」




五助のそんな声が響いてきた。
は?そんな間抜けな声と共には下を向いていた顔を思いっきりあげる。
玄関の横から、椎名翼と黒川柾輝がまるでそこから出てくるのが当たり前のような顔で出て来たのだ。
は意味がわからずぽかんとした表情のまま止まってしまっている。

「何間抜け面してんの。僕の誕生日祝ってくれるんだろ?もう少しマシな顔にしてくれる?」

そう言われてもは今のこの状況が上手く掴めない。そもそも隠れて聞いていて利益のあるような会話じゃなかったはずだ。は首をかしげて畑五助を振り返った。

「どういう意味?」
「そのまんま。」

答えを返してきたのはは問いかけた畑五助ではなく、椎名の隣で笑いをこらえている黒川だった。
ますます顔をしかめて首をかしげるに、やはり黒川と同じように笑いをこらえながら説明し始めたのは畑六助の方だ。

「これ、ビールの空き缶。」

くつくつと笑いを堪えきれずに変な笑い方をしながら彼は一言。
は?本日2度目となる五十音のうちの一つを、はまた吐き出した。

「いやー、どうやったらが翼を祝ってくれるか考えててさ、18日の間にお前帰っちまいそうだったし?ビールとか持ってればそれ飲まないのを条件に約束してくれそうだなって話になって。春大近いし?ん?そうそう、『約束』して欲しかったんだよ、19日に翼祝うって。」

説明されてもにはいまいち意味がわからない。結局彼らが何をしたいのかわからずに相変わらず阿呆面をしたまま5人を見つめていた。
大体、約束も何も彼女はきちんと黒川に9時に行くと告げたのだ。もちろん、椎名の誕生日を祝うために。
それなのに何故『19日に祝う』こだわるのだろうか。

「そういうわけで。」

黒川がひょいとの腕を掴むとそちら側に引き寄せた。バランスを崩したはそのまま体が傾いて倒れかけた。
ぼすっと誰かに受け止められる。当然、腕を引っ張った黒川だろうと思っては顔をあげるとそこにはにっこりと上機嫌な様子で微笑む椎名翼がいた。
は知っていた。

この笑顔には裏があるということを。

「「「「いってらっしゃい。」」」」

椎名以外のそこにいたメンバーからそんな声がに届けられる。
目を見開いて彼女は固まった。

「いってらっしゃいって何!!??え!?皆で祝うんでしょ!?ちょっと黒川!」
「俺そんなこと一言も言ってないし。」
「せやせや〜。」
ー!しっかり翼をお祝いしてやるんだぞー!」
「はぁ!!!???嫌だよなんで私1人で!!!!帰る!!!!」

そう駄々をこねていたは後ろで何かを感じ、ぴたりとその動きを止めた。
ギギギギ、と音がしそうな程ぎこちない動きでは後ろを振り返る。








。僕を祝ってから帰るんだろ?」








にっこりと天使のような悪魔の微笑みで椎名翼はそう告げた。

「ふざけんなーーーーーー!!!!!!!!」

そんな声は彼らには届かず。
雲が晴れて顔を出した月が浮かぶ夜空にこだました。


END
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柾輝と仲良いヒロインで翼夢。
好きです。(・・・・・・・・・・・・・・・。)
翼!遅くなっちゃったけど誕生日おめでとう!

07年04月21日


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