進藤だ、と一瞬でわかった。
人ごみの中できらりと光った金髪と、見覚えのあるパーカーに思わず視線が動く。渋谷のスクランブル交差点、日曜の昼間。どこから集まったのか、不思議なほどに混雑するこの場所で、反対側で信号待ちをする人だかりの中、よく見つけられたと思う。見つけた、というよりは、視界に入った、程度だった。惰性で上げていた視線が一瞬で釘づけになる。周りに友人の気配はない。おそらく、一人なのだろう、どこか気だるげに、進藤は片足重心で信号待ちをしている。
ギラギラと照りつける太陽のせいで、喉はカラカラに乾いていた。今、目の前に彼がやってきたとしても、声を出せる自信は微塵もない。異様に、喉が渇いている。
パ、と信号が青に変わる。世界が一斉に動き出した。流れる人の動きに逆らうように、その場に足を縫いとめている。動き出した世界は、ひどくスローモーションだった。
人ごみの中で見え隠れする金色を、しかし見失うことはない。ゆっくりとした足取りで、でも確実にこちらへと向かっている。
進藤の位置は、少しだけ離れている。このまままっすぐ彼が歩を進めれば、この人ごみだ、もしかしたら気づかないかもしれない。
もう見失うことはないくらいまで、近づいてきた。太陽の光を浴びてキラキラと光る金色は、見慣れているはずなのに、まるで別の生き物であるかのように風になびいて光っている。そういえば太陽の下で彼に会ったことなどほとんどないことに気が付いた。
相変わらず進藤の目線はまっすぐで、斜め横から眺めていても視線が交わることはない。つう、と流れる汗の感触、直接照りつける日光、通り過ぎる人の喧騒、排気ガスのにおい、全てが知覚過敏にでもなったかのように鮮明だ。気が付かないうちに握っていた右手の拳を解くと、幾分か緊張が取れたような気がした。
緊張?
ああそうか緊張しているのか、とそこで初めて自覚した。何度も対局しているはずなのに、今、何故か彼に会うことをひどく恐れていた。
恐れている?
そうか、会いたくないんだ!
一瞬にしてそう理解する。ここに立っている場合ではない、逃げなければ、ああでも足が動かない。何故会いたくない?わからない。
言うことを聞かない体にイライラしていると、ふいに彼が振り返った。
視線がぶつかる。
あ、と彼が言ったのと、ほぼ同時だった。
地下鉄の階段を勢いよく下り始めたのは。